ヴィターリ:シャコンヌ
(Vn)ハイフェッツ(Or)Richard Ellsasser 1950年8月4日録音
Vitali:シャコンヌ
ヴァイオリンを演奏する人にとってはとても有名な作品らしいです
「Vitali(ヴィターリ)」の「シャコンヌ」は、ヴァイオリンを演奏する人にとっては有名な作品らしくて、「シャコンヌ」と言えばバッハかヴィターリと言うほど認知度が高いようです。ただし、「聴き専」の人間にとっては、「シャコンヌ」と言えばバッハの無伴奏しか思い浮かばないのが普通です。
私も、ミルシテインが録音した小品をチェックしていてこの作品に初めて出会いました。
「シャコンヌ」と言うことなので、バッハのあの有名な「シャコンヌ」との違いに興味がひかれたのですが、聞いてみるとまるでロマン派の小品みたいな音楽です。もちろん、バロック時代の音楽にもロマンティックな音楽はたくさんあるのですが、このネットリ感みたいなものはちょっとバロック時代の音楽とは異質です。
あれれ、不思議だなと思ってGoogle先生に聞いてみると、19世紀にフェルディナント・ダーヴィトというヴァイオリニストがヴィターリの作品をヴァイオリンと通奏低音のための作品に編曲したものだと言うことが分かりました。なるほどね、と納得していると、さらにその後の研究で原曲はヴィターリのものではないことが判明したそうで、もしかするとヴィターリの名を借りたダーヴィト自身の作品かもしれないという見方もあることが分かりました。
そういえば、クライスラーも自分の作品を有名作曲家の未発見の作品だと「偽って」発表したことはよく知られていますが、事情は似たようなものだったのかもしれません。
しかし、そんなトリビアは脇に置いておくとしても、実際にこの音楽を耳にしてみれば、なぜに今まで人気が出なかったのかと不思議な思いに駆られるほどの素晴らしさです。一言で言えば、この上もない甘美な悲劇性と言えるのでしょうか。やはりどう聞いてもこれはロマン派の音楽です。でも、この胸にぐっとくるような素晴らしさは間違いなく一級品です。
変に勘ぐると、このすばらしい音楽はヴァイオリンを演奏する人間だけの「秘密」にしておこうという申し合わせでもあったのではないか・・・とすら思ってしまいます。
生身の名刀をひっさげての剣舞のごとき凄まじさ
こういう書き方をすると誤解を招くかもしれませんが、ハイフェッツという人の本当の凄さは「小品」にこそあります。もちろん、ハイフェッツにブラームスやベートーベンなどの協奏曲を演奏する能力がないなどと言っているわけではありません。いや、彼の残した録音を聞いてそんなことが言えるはずのないことは誰でも簡単に分かることです。
そう言う大作の録音の素晴らしさは言うまでもないのですが、誤解を恐れずに言いきってしまえば、その「素晴らしさ」は代替可能な素晴らしさです。たとえば、ベートーベンにしてもブラームスにしても、いや、あのチャイコフスキーのコンチェルトだって、それに匹敵するような他のヴァイオリニストの録音をいくつかは思い浮かべることができます。
しかし、こういう小品になると、それはもう空前絶後のものです。
ヴィターリのシャコンヌは既にミルシテインによる素晴らしい録音をアップしてあります。しかし、このハイフェッツの録音と比べると、ミルシテインの素晴らしさは常識の範疇に収まる素晴らしさに留まっています。それに対して、ハイフェッツの演奏には日本刀の切れ味を思い出させる凄味が底光りしています。それは、例えてみるならば、全てのものを一刀両断にしてしまうような抜き身の真剣をひっさげての剣舞のごとき凄まじさがあります。
録音に関しても、50年という事でいささか古いのですが、実に立派なものです。
ハイフェッツの凄さを改めて認識させてくれる録音だと言えます。
よせられたコメント
2011-03-15:Lisadell
- 実はクラシックはまったく知りません。
マーラーのLP!を1枚(大地の歌・バーンスタイン)とCDを15枚とバルトーク10枚ほどしか持ってません。
ベートーベンはエロイカしか聴きませんし、モーツァルトもシューベルトも殆ど知りません。
「展覧会の絵」ってEL&Pでしょ?ってひとです。
ロックにはとっくに愛想をつかして、ジャズもコルトレーンとW・マルサリス以外は面白くない、という状況からこちらのサイトに転がり込んできました。
所蔵するアナログレコードをHDDに取り込む、という動機から始まり、現在PCオーディオに「金をかけずに結構いい音が出せるやん!」と嵌ってます。
メンコンをFLACのほうでアップしてくださってから、ヤッシャ・ハイフェッツを知るところになりました。
とりあえず、地域の図書館でCDを借りまして・・・・チャイコン&メンコン、弦楽セレナーデが入ったお徳盤とこの曲が収録されている「1946-1970小品集」はすぐ購買しました。
コンチェルト・・・ライナー&CSOやミュンシェ&BSOもハイフェッツのバックバンドと趣きで、GOODです。
小品集・・・ガーシュインシリ?ズ?1950年頃以降の録音は状態も良くていずれも聴き応えがありますね。
わたし実はキング・クリムゾンの大ファン(もちろん1974のREDまで)でポリリズムや変拍子が心地良く、またロバート・フリップのレスポール&フィードバックで奏でられるEギターはパガニーニのごとく速くて正確が好きなのですが、音色やフレーズ、オクターブの上げ下げなどはこのハイフェッツさんをパクッタ!のではないか?と勝手に妄想してます、笑。
フリップ&イーノというユニットで「EVENING STAR」という名曲?があります。YOUTUBEで検索すればすぐに出てきます。
フリップ自身は「ディシプリン(訓練・規律)こそが自由を獲得できる唯一方法だ」と60才をすぎても毎日数時間の練習は欠かさないそうで、ハイフェッツさんのことをGOOGLE先生にお伺いするとなんか良く似たようなプロフェッサータイプのようで。こんな連想をした次第です。
この演奏自体も鬼気迫るものがありながら、それをサラッとしかも軽く感じさせず聴かせてくれますね。そして日常の手垢にまみれた感情表現を超えた印象があります。
音、そのものをプレゼンスするというか文学性を拒否してるというか。
とにかくこんなすばらしい音に出会えて幸せの限りです。
そしてハイフェッツさんをご紹介して頂いたユングさんに感謝です。
2011-03-15:esuran
- こんな素晴らしい音楽を贈っていただきありがとうございます!
ハイフェッツの冒頭の1小節で涙があふれてきました…。
2011-03-21:猫好き
- これを聞いて、この方の演奏が好きになったので、サンサーンス等、一括でUpされたものを全部ききました。サンサーンスのこの曲はもともと好きでしたが。地震、放射能のニュースで心が動揺する中、癒されるブログの一つです。感謝します。Ratingの方法がわからなかったのですが、音楽も詳しくないですが10でお願いします。
2011-04-04:radames
- ミルシテインのラストコンサートでこの曲を知り、さらにこちらで若い時の演奏を聞いたのですが、ミルシテインのそれは淡々とした中に感情の動きを抑制して曲中に切り込んで行くまいとする心の動きを感じその客観性は演奏者のバッハにも聞きました
オルガンを伴奏に従えたこのハイフォエツの演奏には驚き聞き入りました。奏でるうちに曲中に感情がのめりこんで行く度合いがまったく違います。オルガンの音と同化したバイオリンの音が体に浸透していくときに味わう感覚は、教会を訪れてステンドグラスの光や日の出のまぶしさに覚える神々しさです。
このサイトに取り上げて頂いた事で懸け替えのないものに出会えた事を管理者に感謝いたします。
2011-09-10:mentlmenthol
- 私も管理者さんと同様、この演奏に惚れ込んでいます。ヴァイオリン音楽に興味をもってまだ日が浅く「評価」など恐れ多いのですが10点です。1950年にカリフォルニア、クレアモント、リトル・ブリッジ・ホールで録音されたハイフェッツのこの演奏で是非知りたいことがあります。
当時ハイフェッツはグァルネリ・デル・ジェスとストラディヴァリウスの両方を使用していたと存じていますが、この演奏はどちらによるものでしょうか?管理者さん、またはこのブログをご覧になっている方でご存知の方、是非ご教示下さい。まだまだ聴く耳の未熟な私には音色だけでは判断できません。
2012-07-24:nuboman
- す・凄い、言葉に出来ない。何かが圧倒的な圧力で迫ってくる。
家には晩年の録音の「序奏とロンドカプリチオーソ」のアナログ盤があったが、
ヴィターリの「シャコンヌ」は未聴であった・・・・
2014-07-13:ハイフェッツ様が好き
- 何ともうっとりするような切ない気持になる曲です。Youtubuで他の演奏者の同じ曲を聴いてもそんな気持ちにならなかったのになぜでしょう?ハイフェッツ様のなせる技なのか、、、
2018-05-11:bb8
- 歴史的名演ですね
これを聴いてヴァイオリンを始めたくなりました
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