バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042
(Vn)ヴォルフガング・シュナイダーハン ルドルフ・バウムガルトナー指揮 ルツェルン祝祭弦楽合奏団 1956年12月8~10日録音
Bach:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042 「第1楽章」
Bach:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042 「第2楽章」
Bach:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042 「第3楽章」
3曲しか残っていないのが本当に残念です。
バッハはヴァイオリンによる協奏曲を3曲しか残していませんが、残された作品ほどれも素晴らしいものばかりです。(「日曜の朝を、このヴァイオリン協奏曲集と濃いめのブラックコーヒーで過ごす事ほど、贅沢なものはない。」と語った人がいました)
勤勉で多作であったバッハのことを考えれば、一つのジャンルに3曲というのはいかにも少ない数ですがそれには理由があります。
バッハの世俗器楽作品はほとんどケーテン時代に集中しています。
ケーテン宮廷が属していたカルヴァン派は、教会音楽をほとんど重視していなかったことがその原因です。世俗カンタータや平均率クラヴィーア曲集第1巻に代表されるクラヴィーア作品、ヴァイオリンやチェロのための無伴奏作品、ブランデンブルグ協奏曲など、めぼしい世俗作品はこの時期に集中しています。そして、このヴァイオリン協奏曲も例外でなく、3曲ともにケーテン時代の作品です。
ケーテン宮廷の主であるレオポルド侯爵は大変な音楽愛好家であり、自らも巧みにヴィオラ・ダ・ガンバを演奏したと言われています。また、プロイセンの宮廷楽団が政策の変更で解散されたときに、優秀な楽員をごっそりと引き抜いて自らの楽団のレベルを向上させたりもした人物です。
バッハはその様な恵まれた環境と優れた楽団をバックに、次々と意欲的で斬新な作品を書き続けました。
ところが、どういう理由によるのか、大量に作曲されたこれらの作品群はその相当数が失われてしまったのです。現存している作品群を見るとその損失にはため息が出ます。
ヴァイオリン協奏曲も実際はかなりの数が作曲されたようなですが、その大多数が失われてしまったようです。ですから、バッハはこのジャンルの作品を3曲しか書かなかったのではなく、3曲しか残らなかったというのが正確なところです。
もし、それらが失われることなく現在まで引き継がれていたなら、私たちの日曜日の朝はもっと幸福なものになったでしょうから、実に残念の限りです。
ルツェルン祝祭弦楽合奏団の初録音
シュナイダーハンと言っても、今では覚えておられない方も多いと思います。3歳で母からヴァイオリンの手ほどきを受け、わずか5歳で公開の演奏会を行って「神童」の名をほしいままにしました。そして、17歳(1933年)でウィーン交響楽団のコンサートマスターに就任し、その4年後にはウィーンフィルのコンサートマスターへとキャリアアップした早熟のヴァイオリニストでした。
しかし、そんなシュナイダーハンが最も精力的に活躍したのは、34歳(1949年)でウィーンフィルを去ってソリストとしての活動に集中してからでした。特に、ルツェルン音楽院の教授としてマスタークラスで教鞭をとる中で結成したルツェルン祝祭弦楽合奏団の活動は彼にとって大きな部分を占めました。このルツェルン祝祭弦楽合奏団は彼が教鞭を執ったマスタークラスの生徒から優秀メンバーを選んで1955年に結成され、その2年後の夏の音楽祭で公式にデビューしました。
ですから、ここでお聞きいただいているバッハの演奏は、公式デビューを目前にした最後の追い込みの中での録音だと言うことになりますし、まさに彼らにとっての記念すべき初録音だったと言うことになります。ちなみに、ここで指揮をしているパウムガルトナーはシュナイダーハンのアシスタントとして参加しているのですが、この後1998年までこの楽団を率いて数々の名録音を残すことになります。
さて、そんな記念すべきこの一連の録音なのですが、音質はモノラルとしては最上の部類に入るものです。演奏も、現在の耳からすると少し「重い」と思えるかのしれませんが、それでも「緩み」は全く感じさせません。いわゆる、当時の「正当派」のバッハ演奏でシュナイダーハンのヴァイオリンも品のよい「典雅」そのものです。
もしかしたら、日曜の朝にブラックコーヒーとすごすにはピッタリの演奏家もしれません。
よせられたコメント
2010-10-20:藤原正樹
- 玲瓏玉のごとき演奏。派手ではなくともしっかりとした縫製の衣装に身を包んだ往年のお嬢さん。いまでも十分美しい。あの人に心動かされた日々は決して無駄ではなかったのだ。再会してそう思う。
2013-03-28:oTetsudai
- 現代においてはあらゆるところで音楽が氾濫しているので音楽の意味とかが当時とは全く変わっているようにも思います。とあるところで二週間ほど音楽から隔絶された後でクラシック音楽を聴く機会がありましたがそれは特殊な経験でした。スピーカーから出る音が水のように身体に染み渡すのです。そういう意味で日本の今の環境では生活環境の中で音楽が氾濫し、身体が音楽から身を守るために拒否反応さえ感じることがあります。この演奏を聴いてふとそんなことを考えてしまいました。ルツェルン祝祭弦楽合奏団と言えば上品な色のレコードジャッケットのアルヒーフを思い出します。かなり高価だったように記憶していますが、このような場で聴けるとは光陰矢のごとし。このような演奏はその価値がわかるように、耳が音楽に飢えたときに聴きたいものです。
2021-06-26:joshua
- 中学時代、音楽鑑賞の時間。U先生が誰のヴァイオリン協奏曲が一番好きだ?って訊かれました。40人の教室で。その問答をあとで同級生から、「先生とお前ふたりでしゃべっとったな」と茶化されたものです。そのとき何気なしにバッハ、と口から出てしまうと、先生はバッハにヴァイオリン協奏曲はなかったね、と。自信の無かった私は、そうでしたねとお茶を濁したものの、気になり、当時のFMエアチェックから、レオニード・コーガンのソロ、バルシャイの指揮に依るものを探し当て、先生まで進言したのを思い出します。ありふれた他愛ない話ですが、自分には懐かしい。これは何度聞いても汲みども尽きせぬニュアンスに満ちた音楽。あれから、45年。落ち着きたいときはこの曲、特に1楽章に戻ってきます。その間、シェリング・ウィンタートゥール盤を聴き、旧フェスティバル・ホールまでシェリングを「見に」行ったものです。グリュミオーの新旧2種もよかった。もちろん紹介いただいたこの、シュナイダーハンも多数回聴いてきました。今回気になって、指揮者Rudolf Baumgartnerしらべてみました。スイス人。ルツェルン音大教授。84歳没。彼からちょうど30年遡る1987年生まれのオーストリア人、Bernhard Paumgartner。ワルターの弟子でカラヤンの師でもあった人。グリュミオーのMozart協奏曲第1回全集でウィーンシンフォニカーのバトンを振った人です。老眼をこすってよくみました。前者は「バ」、後者は「パ」なんですね。
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