シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調, Op.47(Sibelius:Violin Concerto in D minor Op.47)
(Vn)ダヴィド・オイストラフ:シクステン・エールリンク指揮 ストックホルム・フェスティヴァル管弦楽団 1954年録音(David Oistrakh:(Con)Sixten Ehrling Royal Stockholm Philharmonic Orchestra Recorded on 1954)
Sibelius:Violin Concerto in D minor Op.47 [1.Allegro moderato]
Sibelius:Violin Concerto in D minor Op.47 [2.Adagio di molto]
Sibelius:Violin Concerto in D minor Op.47 [3.Allegro, ma non tanto]
シベリウス唯一のコンチェルト
シベリウスはもとはヴァイオリニスト志望でした。しかし、人前に出ると極度に緊張するという演奏家としては致命的な「欠点」を自覚して、作曲家に転向しました。これは、後世の人々にとっては有り難いことでした。ヴァイオリニストとしてのシベリウスならば代替品はいくらでもいますが、作曲家シベリスの代わりはどこにもいませんからね。
そんなわけで、シベリウスにとってヴァイオリン協奏曲というのは「特別な思い入れ」があったようです。
作曲されたのは2番の交響曲を完成させて、作曲家としての評価を確固たるものとした時期でした。1903年に彼はこの作品に取り組みはじめ、そして年内に一応の完成をみます。その翌年には初演も行われたのですが、評価はあまり芳しいものではなかったようです。
そして、その翌年の05年に彼はベルリンでブラームスのヴァイオリン協奏曲を「聞いてしまいます。」
シベリウスの基本は交響曲であり、民族的な素材に基づいた交響詩です。ですから、彼はこのコンチェルトを書くときも、独奏楽器の名人芸をひけらかすだけのショーピースとしてではなく、交響的な響きをともなった構成のガッチリとした作品を書いたつもりでした。ところが、ベルリンで初めて聞いたブラームスのコンチェルトは、そう言う彼の思いをはるかに超えた、まさに驚くほどに交響的的なコンチェルトだったが故に、彼に大きな衝撃を与えました。
ヘルシンキに舞い戻ったシベリウスは猛然と改訂作業に取りかかり、1903年に完成させた初稿版は封印してしまいます。
とにかく、彼にとって冗長と思える部分はバッサリとカットされます。オーケストレーションもより分厚い響きが出るようにかなりの部分は変更されたようです。結果として、できあがった改訂版の方は初稿と比べるとかなり短く凝縮されたものに変身しましたが、反面、初稿には感じられた素朴な暖かみや自由なイメージの飛翔という部分は後退しました。
ただし、作曲家本人が全力を挙げて改訂作業に取り組み、さらに初稿の方を封印したのですから、我々ごときが「どちらの方がいい?」などという気楽なことは問うべきでないことは明らかでしょう。世界中から第8交響曲を期待され、そして、何度かそれらは「完成」しながらも、満足できないが故に結局は全て焼却してしまった男です。
現在は「遺族の了承」という大義名分のもとに初稿版を聴くことができるのですが、やはり、シベリウスのヴァイオリンコンチェルトは1905年の改訂版で聴くのが筋というものなのでしょう。
自然体で端正な佇まい
1954年にオイストラフはストックホルムでベートーヴェンとシベリウスのヴァイオリン協奏曲を録音しています。
50年代はアメリカとソ連の対立が少しずつ雪解けとなり、ソ連の演奏家が少しずつ西側で活動できるようになっていった時期でした。
オイストラフは1953年にフランス、1954年にはイギリスを訪れていて、そういう流れの中でストックホルムでセッションが組まれたのでしょう。
ちなみに、この数か月後に日本にもやってきて大きな話題となりました。
この1954年の古い録音には後のステレオ盤とは異なる魅力があります。
それを一言でいえば、モノラル盤はより自然体で端正な佇まいを持っていることです。
それに対して、ステレオ盤はオイストラフといえば思い浮かぶ濃厚で重みのある表現になっています。
とりわけ、オーマンディとのシベリウスに関しては「もう少しひんやり感が欲しいな」などと思ってしまいます。逆に、マタチッチが指揮したベートーベンのモノラル録音に関してはもう少し盛ってほしいなと思ってしまいます。
ただ、聞くところによると、ストックホルムのオケはいささか編成が小さかったようですから、その辺りは考慮してやらないとマタチッチにとっては不公平かもしれません。
しかし、「静謐さ」や「構造の把握」に関してはそれがプラスになっていますから、どちらがいいかという話ではないでしょう。
しかし、ベリウスに関しては、シベリウス自身がこのエール・リンクとの録音を絶賛したとのことです。シベリウスという人は結構そのような「お上手」を言うことも少なくなかったようなのですが、これに関しては信じてもいいようです。
確かに、これほどまでに北欧らしい透明感と厳しさが強く表現された演奏は他にはなかなか思い当たりません。そして、その功績の半分は指揮者のエール・リンクにおくられるべきでしょう。
オイストラフだけでなく、エール・リンクという指揮者もなかなかのものだったのですね。
よせられたコメント 2026-02-17:yk シベリウスにはフィンランドの民族叙事詩「カレワラ」の雄大で豪快だが同時に過酷で荒々しく不条理でもある世界観をもつ民俗楽派としての顔と、緻密で整然としていて合理的な思考を重んじる”理性”に軸足を置いたモダニストの顔がありますが、ヴァイオリン協奏曲にはその2つの顔が混然一体となったところがあって、ソウ言った”合理”と”不合理”と言う相反する要素を同時に満足させると言うのは至難の業(とも魅力とも)言えるのでしょう。
器の大きさ、ヴァイオリンの切れ味、と言う点でハイフェッツに匹敵し得る数少ないヴァイオリニストであったオイストラッフですが、シベリウスの協奏曲の録音においては何故か分が悪いところがあるのは、ハイフェッツの”切れ味”は云わば抜き身の日本刀の豪華絢爛の趣があって伴奏に殆ど依存しないが、オイストラッフの”切れ味”は云わば鞘に納まった静謐の名刀の趣があって伴奏と言う”鞘”との相性によって印象が異なる・・・と言った処に起因する、と言えるのかもしれません。
その点、このストックホルムでの録音では、オイストラッフのヴァイオリンには彼の緻密さに加えてカレワラの世界を思わせる荒々しさと静謐さがあって、”オイストラッフのシベリウス”らしい美しさは”さすが”でもあり、yungさん指摘のオーケストラの”薄さ”も、その薄さのおかげで鞘の中のオイストラッフの輝きが透けて浮き出てくる様な寧ろ利点にさえなっている・・・と言う録音で秀逸です。
なお、この鞘との相性の点で、この録音の数日後にオイストラッフがヘルシンキのシベリウス・フェスティバルで演奏した録音が残されていて、このストックホルム盤を更に徹底した様なオイストラッフの”凄み”が感じられます。この録音は、未だに市販はされていないようですが、フィンランドのネット上(https://areena.yle.fi/1-51014297)で聴く事が出来るのでご興味のある方はどうぞ・・・
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