クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調, Op.35

(Vn)ブロニスラフ・ギンベル:ヨハネス・シュラー指揮 バンベルク交響楽団 1960年初出





Tchaikovsky:Violin Concerto in D major Op.35 [1.Allegro moderato - Moderato assai]

Tchaikovsky:Violin Concerto in D major Op.35 [2.Canzonetta. Andante]

Tchaikovsky:Violin Concerto in D major Op.35 [3.Finale. Allegro vivacissimo]


演奏不能! 〜初演の大失敗!

これほどまでに恵まれない環境でこの世に出た作品はそうあるものではありません。

まず生み出されたきっかけは「不幸な結婚」の破綻でした。これは有名な話のなので詳しくは述べませんが、その精神的なダメージから立ち直るためにスイスにきていたときにこの作品は創作されました。
ヴァイオリンという楽器にそれほど詳しくなかったために、作曲の課程ではコテックというヴァイオリン奏者の助言を得ながら進められました。

そしてようやくに完成した作品は、当時の高名なヴァイオリニストだったレオポルド・アウアーに献呈をされるのですが、スコアを見たアウアーは「演奏不能」として突き返してしまいます。ピアノ協奏曲もそうだったですが、どうもチャイコフスキーの協奏曲は当時の巨匠たちに「演奏不能」だと言ってよく突き返されます。

このアウアーによる仕打ちはチャイコフスキーにはかなりこたえたようで、作品はその後何年もお蔵入りすることになります。そして1881年の12月、親友であるアドルフ・ブロドスキーによってようやくにして初演が行われます。
しかし、ブドロスキーのテクニックにも大きな問題があったためにその初演は大失敗に終わり、チャイコフスキーは再び失意のどん底にたたき落とされます。

やはり、アウアーが演奏不能と評したように、この作品を完璧に演奏するのはかなり困難であったようです。
しかし、この作品の素晴らしさを確信していたブロドスキーは初演の失敗にもめげることなく、あちこちの演奏会でこの作品を取り上げていきます。やがて、その努力が実って次第にこの作品の真価が広く認められるようになり、ついにはアウアー自身もこの作品を取り上げるようになっていきました。

めでたし、めでたし、と言うのがこの作品の出生と世に出るまでのよく知られたエピソードです。

しかし、やはり演奏する上ではいくつかの問題があったようで、アウアーはこの作品を取り上げるに際して、いくつかの点でスコアに手を加えています。
そして、原典尊重が金科玉条にようにもてはやされる今日のコンサートにおいても、なぜかアウアーによって手直しをされたものが用いられています。

つまり、アウアーが「演奏不能」と評したのも根拠のない話ではなかったようです。ただ、上記のエピソードばかりが有名になって、アウアーが一人悪者扱いをされているようなので、それはちょっと気の毒かな?と思ったりもします。

ただし、最近はなんと言っても原典尊重の時代ですから、アウアーの版ではなく、オリジナルを使う人もポチポチと現れているようです。でも、数は少ないです。クレーメルぐらいかな?

やっぱり難しいんでしょうね。

探せば、まだまだ面白い人が埋もれている


「(Vn)ブロニスラフ・ギンベル:ヨハネス・シュラー指揮 バンベルク交響楽団」と聞いて、何らかのイメージを思い浮かべることが出来る人は殆どいないでしょう。もちろん、バンベルク交響楽団はイメージできるのですが、ソリストも指揮者に関しては全く聞いたこともない名前です。
そして、こういうあたりが中古レコード屋さんでレコードを漁る楽しみの一つと言えます。

このレコードも一枚300円均一の棚に並べられていたもので、そう言う「なんだこれは?」という名前を見つけたときは必ずゲットすることにしています。まあ、とんでもない外れだったりすることも多いのですが、所詮は一枚300円ですから、言ってみれば「ガチャ」みたいなものかもしれません。何が出るかは、帰ってからのお楽しみと言うことです。

そして、当たりか外れかは二つのポイントで決まります。

まず最重要事項は「盤質」です。これに関しては300円均一ですからなんの保証もありません。当然の事ながらパチパチノイズ満載でも文句はつけられません。
しかし、私の経験上で言えば、そのパチパチノイズはなんの手入れもされないうちに発生した黴やホコリに由来することが多くて、それは丁寧にクリーニングすればほとんど取り切ることが出来ます。どうしようもないのは、粗悪な重針圧のカートリッジで再生されたことで盤面に傷がついてしまったものです。
こればかりはどうしようもないので、そう言うときは外れと言うことになります。しかし、面白いのは一枚のレコードの中である部分だけが痛みが酷くて、それ以外はそれほどダメージを受けていないと言うことがよくあります。そうすると、このレコードのもとの持ち主はその部分だけを何度も繰り返し聞いたと言うことなので、なんだか一枚のレコードの中に小さな「歴史」が刻み込まれているようで、それはそれでそのレコードが辿ってきた来し方に思いを馳せることが出来ます。

二つめのポイントは演奏そのものがそれなりに興味をひくものかどうかです。
正直言ってこの二つを満たすことは意外と難しいのですが、それでもそう言う一枚を格安で掘りだしたときは思わずにんまりとしてしまいます。

そして、このメンデルスゾーンとチャイコフスキーの協奏曲をカップリングした一枚もそう言う「当たり」のレコードでした。
もちろん、どうしてもとりきれないノイズはあるのですが、個人的にはこれくらいならば何の問題もありません。
それに、何よりもこの演奏が実に愉快なのですから、そんな些少な(些少とは思えない人もいるかもしれませんが)ノイズなどは何の問題もありません。

この演奏を一言で表現すれば、ソリストのソリストによるソリストのための演奏です。言葉をかえれば、「俺さま的」な協奏曲なのです。
ドイツの小都市バンベルクが誇りとするオーケストラをただの伴奏楽器にしてしまっていることに関しては、おそらくバンベルク市民ならば大いに不満を感じるでしょう。しかし、指揮者のヨハネス・シュラーは徹頭徹尾ソリストをもり立てるための場所づくりに終始しています。
そして、そう言う状況で肝心のソリストが屑ならばどうしようもないのですが、この「ブロニスラフ・ギンベル」という聞いたこともない(もちろん、知っている方は知っているのでしょうが・・・^^;)ヴァイオリニストは見事なまでの「俺さま」的な演奏を聞かせてくれます。

指揮者のヨハネス・シュラーに関してはどうしても情報を見つけられなかったのですが、ブロニスラフ・ギンベルに関しては幾ばくかの情報が得られました。
ギンベルはポーランド出身(1911年生まれ)のヴァイオリニストで、14歳でウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共演してゴルトマルクのヴァイオリン協奏曲を演奏したというエピソードが残されています。大変なテクニシャンだったようで、それを切っ掛けにイタリアなどを中心に精力的に演奏活動を行って大成功をおさめ、パガニーニの墓前でパガニーニの愛器であった「ガルネリ」を使って演奏するという機会も与えられました。

しかし、第2次世界大戦の勃発によってアメリカに活動の拠点を移し、ロサンジェルス・フィルのコンサートマスターに就任しています。その後は室内楽団やソリストとしての活動を再開するのですが、60年代以降は教育活動に重点をおくようになっていったようです。
ただし、その腕前は確かで、どこかハイフェッツを連想させるほどの切れ味を持っています。
ただし、チャイコフスキーの方はオーケストラともう少し勝負する場面が必要な音楽なので、いささか物足りない面はあるのですが、もとからそう言うコンセプトで演奏したのでしょうから仕方のないことです。

それにしても探せば、まだまだ面白い人が埋もれているものです。

よせられたコメント

2021-12-01:大津山 茂


2021-12-01:toshi


2021-12-12:HARIKYU


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