ラヴェル:ツィガーヌ
(Vn)イダ・ヘンデル:カレル・アンチェル指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1964年3月25日~27日録音
Ravel_Tzigane_Haendel_64
パガニーニよりも難しい音楽を書いてやる

ラヴェルという人は基本的に職人肌の人ですから、この作品もまたジプシーの音楽をもとにしたと言うだけでなく、ヴァイオリンという楽器の技巧を極限まで追求するような音楽に仕上がっています。ただ、彼の持ち味はピアノの方に相応しかったようで、例えば「夜のガスパール」のような具合に仕上がっているかと言われると少しばかり疑問は残ります。
聞いてみれば分かるとおり、ヴァイオリンのテクニックは存分に味わえるのですが、スイスの時計職人とも称されたラヴェルらしい味わいには乏しいような気がします。もう少し分かりやすく言えば、何となくラヴェルらしくない音楽に仕上がってしまってるのです。
ただし、冒頭の長いヴァイオリン独奏なんかを聴くと、ヴァイオリニストにとっては怖い音楽だろうな・・・とは思います。
ここで外したら目も当てられません。
その後は重音奏法は言うに及ばず、重音トレモロ、ハーモニクス(フラジオレット)等のオンパレードです。
おそらくこういう音楽を書こうとした背景には、パガニーニの影響(おそらく、カプリッチョ)があるだろうと推測されます。
そう言えば、「夜のガスパール」はバラキレフの「イスメライ」に対抗して、より華やかでより難しい音楽を書こうとしたものだと言われています。
ただ少しばかり違うのは。「夜のガスパール」がラヴェルの分身のような音楽になっているに対して、ツジガーヌの方は何となくラヴェルらしくないと思ってしまうのです。
なお、この作品は、本来はヴァイオリンとピアノ・リュテラルというジプシー音楽のための楽器で演奏されます。ピアノ・リュテラルは、どちらかと言えばチェンバロに似た音色を持っているので、これをピアノで伴奏すると少しばかり雰囲気が違ってしまうようです。
ただし、ピアノ・リュテラルなんて言う楽器は簡単には用意できませんから、一般的にはピアノで伴奏されます。
さすがにそれでは不味いとラヴェルも思ったのか、その後彼自身の手によって管弦楽伴奏にも編曲されています。そこでは、ピアノ・リュテラルのアルペッジョがハープに、同音の連打がピッコロなどのトリルなどに置き換えられていて、さすがラヴェルは上手いもんだと感心させられます。
「水中花」を思わせる演奏
やはり、イダ・ヘンデルというのは魅力的なヴァイオリニストですが、不思議なほどに録音の数が少ないヴァイオリニストでもあります。
そんなヘンデルがアンチェル&チェコ・フィルと共演したラロのスペイン交響とラヴェルのツィガーヌの録音があったというのは嬉しい話です。
アンチェルという指揮者から受けるイメージは謹厳実直、そして作り出す音楽はいつも透明感に溢れた純度の高い響きが持ち味です。
それに対してヘンデルの方は素晴らしいテクニックの持ち主であったことはまちがいないのですが、それ以上に妖艶にして主情的な音楽作りがこの上もなく魅力的でした。
そして、ある意味ではこういう対照的な組み合わせというのは「喧嘩別れ」になることも多いのですが、上手く噛み合うと実に魅力的な音楽が出来上がります。そして、どうやらこの組み合わせは素晴らしい幸福をもたらしたようで、ある意味では自由自在に振る舞うヘンデルをアンチェルのしっかりとした純度の高い響きが見事にサポートしています。
そして、最初に「ヘンデルがアンチェル&チェコ・フィルと共演した録音があったというのは嬉しい話です」と書いたのですが、よくよく調べてみればヘンデルは何度もプラハを訪れては彼らと共演し、録音も行っているのです。ざっと調べただけでも、これ以外にベートーベンやシベリウスの協奏曲なども残っているようです。
それにしても、ラヴェルのツィガーヌは実に奔放な演奏で、ふと「まるで水中花みたいな演奏だな」という思いがしました。作品のサイズもそれに相応しく、アンチェル&チェコ・フィルが生みだす純度の高い美しい響きの中でヘンデルという美しい花がその存在を誇示しているようです。また、清流の中で美しい花を咲かせる梅花藻(バイカモ)も「水中花」と呼ばれることがあるようですが、それはツィガーヌよりはサイズが大きいラロの「スペイン交響曲」に相応しいイメージです。
川の底まで見通せるほどの清流の中でゆらゆらと揺れながら美しい花を咲かせる梅花藻はまさにヘンデルその人を見るようです。
さらにもう一つ付け加えるならば、何故か録音の数が少ないヘンデルにとっては、音質的に十分なクオリティのあるこの録音は非常に有り難い一枚と言わざるを得ません。
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