サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ, Op.28
(Vn)ナタン・ミルシテイン:ワルター・ジュスキント指揮 コンサート・アーツ管弦楽団 1960年2月24日~26日録音
Saint-Saens:Introduction et rondo capriccioso, Op.28
サラサーテとの合作?
この作品、調べてみるとサン=サーンスがサラサーテのために1863年、28歳の時に作曲した、と書かれているのですね。ところが、さらに調べてみると完成したのが5年後の1868年、さらに初演はそこからさらに4年後の1872年にサラサーテによって行われているのです。
ずいぶん悠長な話ですが、19世紀というのはそれくらいのスピード感だったのでしょうか。
しかし、聞くところによると、この作品はとても技巧的で難しそうに見えるのですが(実際、かなり難しいことは間違いないのですが)、「無理」を強いられることはなく、それなりのテクニックを持ったヴァイオリニストには気持ちよく演奏できる作品らしいです。そして、その「努力」が聞き手にしっかり伝わるという点では、演奏家にとっては「報われる」作品でもあるらしいです。
おそらく着手から完成までに5年の歳月がかかったのは、そう言う演奏上から来る要請をサラサーテが細かくサン=サーンスに伝え、それをサン=サーンスがスコアにしていくという「キャッチボール」に時間がかかったのではないでしょうか。(あくまでも、私の想像ですが・・・)
さて、この作品はタイトルのまんまで、前半の「序奏」と後半の「ロンド」に分かれています。
「序奏」は依頼者のサラサーテに敬意を表してかジプシー風のメランコリックな音楽が切々と歌われます。そして、この「歌」が弦楽器の「全奏」で断ち切られると後半の華やかな「ロンド」に突入します。おそらく、この一粒で二度おいしい構成がこの作品の人気を支えていると思います。
ロンド部分は「カプリチオーソ」と題されているように、まさに気まぐれに、様々な感情が入り乱れ絡み合います。
ですから、ソリストによってこのあたりはかなりテンポが伸び縮みするようで、オケにとっては結構大変なようです。しかし、聞き手にとってはソリストがこの部分をどう料理するのか聞き所ではあります。
言葉の最も正しい意味での「スタンダード」な演奏
随分前に、フランチェスカッティによるサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番を取り上げたときに、その比較対象としてミルシテインの録音に言及しました。
ところが、ある方から、その比較対象であるミルシテインの録音がアップされていないことを指摘されました。
「あれっ?そんなのとっくの昔にアップしているだろう」と思ったのですが、調べてみると確かにアップされていませんでした。
そして、気がつきました。
フランチェスカッティの録音を紹介したときは、ミルシテインの録音はまだパブリック・ドメインになっていなかったのです。ですから、パブリック・ドメインになった時点でアップしておこうと思ったのですが、時間がたてばそんな事は忘れてしまうもののようです。
そして、もう一つ気づいたのは、最近、この偉大なヴァイオリニストであるミルシテインの演奏をほとんど取り上げていないという事実です。
これは、私がミルシテインを決して軽視しているわけではなくて、1950年代と60年代という時代は、クラシック音楽の世界においては取り上げるべき演奏と録音が溢れていると言うことなのです。
ただし、その事に気づかせてくれたご指摘でしたので、この1週間ほどはミルシテインの録音をかなり集中して聞いています。
そして、あらためてミルシテインというヴァイオリニストが聞き手に迎合する名人芸というものからいかに距離をおいた人物であったかと言うことを思い知らされました。
ミルシテインと言えばアウアーのロシア時代の最後の弟子であり、ハイフェッツの同門と言うことがよく言われます。そして、二人ともにロシア革命のために故国を離れてアメリカを生活と演奏活動の拠点とするのですが、もしかしたらミルシテインほどハイフェッツの影響を被らなかったヴァイオリニストはいないのではないかと思います。
もちろんハイフェッツの名人芸は見事なもので、それでいて聞き手に迎合したものでない厳しさも合わせ持った希有のヴァイオリニストでした。しかし、ミルシテインはそう言うタイプの音楽を最初から全く指向していませんでした。
そう言う背景には彼の師であったたアウアーの指導法が大きな影響を与えていることは間違いありません。アウアーは上から技術や解釈を押しつけるのではなく、音楽そのものについて考えさせ、それに基づいて技術的な困難を自らの力で乗りこえさせようとしました。
その結果として、ハイフェッツはハイフェッツになり、ミルシテインはミルシテインとなったのです。
ミルシテインのテクニックは万全なものであり、それは晩年でほとんど衰えることはありませんでした。しかし、彼はそのテクニックを自らが考える理想の音楽の形を実現するための手段としてのみ活用しました。
おそらく、彼の頭の中には、どの作品においても理想とする響きが確固として存在していたはずです。
頭の中で理想とする素晴らしい響きが鳴っていなければ、現実のヴァイオリンからその様な美しい響きが出せるはずがありません。ミルシテインの素晴らしい歌心と美音は、まさにその様な音楽が彼の頭の中で確固として鳴り響いていて、その理想を最後まで追い続けて結果なのです。
良く「スタンダード」という言葉が使われますが、ミルシテインの演奏こそは言葉の最も正しい意味での「スタンダード」な音楽を目指したものでした。
そして、それはサン=サーンスの「ヴァイオリン協奏曲第3番」にしても「序奏とロンド・カプリチオーソ」においてもその考えは徹底されています。
しかしながら、この世界不思議なもので、片方にそう言うヴァイオリニストがいるからこそ、もう片方でフランチェスカッティのような粋なヴァイオリニストも映えるのですし、ハイフェッツの凄みにも息を呑むのです。
全く持って、クラシック音楽というのは「贅沢な世界」だと言うしかありません。
それから、もう一つ次いでみたいな付け足しで申し訳ないのですが、同時に聞いてみたショーソンの「詩曲」も見後なまでに「スタンダード」な演奏です。
こういう真っ当な(^^;演奏があるからこそ、例えばヌヴォーの狂気に近い凄みの価値も分かろうかというものなのです。
よせられたコメント 2021-01-11:joshua この曲はご多分に漏れずCBSソニーのモノラル廉価盤LPで知ったのですが、ちょっと昔話をさせて頂くと、中学校の音楽の聴き取りテストの開始時テーマ曲でもありました。試験前の受験生心理と、出だしの神秘的かつ不安な情緒が共鳴していたものです。
そのテストでは、和音の指摘問題はからきし駄目でしたが、曲名を答える問題はスピーカー不調時も先生に褒めてもらえるほどでした♪。
冒頭のソニーのLPはフランチェスカッティのソロ、その後Arthur Grumiaux(フルネ指揮フォンタナレーベル)、マイケル・レビンと聴いていき、ラジオでハイフェッツにであったときはなんと速い・上手い・正確と思ったものです。
でもトスカニーニじゃありませんが、録音のせいか、音色が乾いていて曲芸的に聞こえ、当時併せてよく聴いていたオイストラフのような豊かな音色で弾けないものか、とcry for the moon したものでした。
その後、同演奏が音の良いCD(RCAです)で再登場すると、両者の差は縮まっていきました。とはいえ、当初の印象は消えたわけではありません。
ちなみに、オイストラフのサンサーンスは記憶にないですねえ。
同じ、ソ連で佐藤陽子の師匠レオニード・コーガンがミュンシュ伴奏でしたか、弾いていますが、いいですねえ。ミュンシュもラレードのご紹介であったように実に合わせが上手い!
さて、ミルシテインのこの曲は、私的には今回初めてです。「ハバネラ」も聴きたいですね。昨年末来、スタインバーグを度々紹介頂いてますが、ミルシテインとつながってきますね。60年代のミルシテインはスタインバーグと協奏曲の共演を実にたくさん残してますね。
有名どころは全部じゃないでしょうか。
フィストラーリとの共演を物色した昔でしたが、スタインバーグ伴奏で十分満足どころか、スタインバーグは交響曲でもブラームスの名演を残している。
フィストラーリはやはりバレー音楽。これを推薦していたのは、故志鳥栄八郎・42でスモン病を患い視力低下の中、クラシックの啓発本を書いてくれました。
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昨日のコメントで、ミュンシュの伴奏でレオニード・コーガンの演奏と書いていましたが訂正します。メインはハチャトリアンの協奏曲で、伴奏は同じボストン・シンフォニーでもピエール・モントゥーが指揮。この顔合わせで、コーガンはサンサーンスの「ハバネラ」を弾いていたのでした。それも、カプリチオーソでオイストラフを聴いたことがないなどと書いた後で、何気なくYUNGさんの演奏家別をのぞいてみると、有るではないですか。ミュンシュ指揮ボストン伴奏でオイストラフの序奏とロンドカプリチオーソが!でも「ハバネラ」はなく、この二曲セットで見かけることが多かった自分の勘違いによる混同でした。でも、けがの功名でオイストラフに会えて良かったです。鮮やかさには欠けますが、想像どおり「豊かな音色」で丁寧に弾いてくれていました。手遊び(てすさび)で入れた録音とページの終わり際に書かれていますが、オハコ(十八番)ではないにせよ、オイストラフ、その人が弾いてくれること自体が、わたくし聴く者の幸せです。
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