クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バッハ:ブランデンブルク協奏曲第2番 ヘ長調 BWV1047

ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北ドイツ放送交響楽団 1961年録音





Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [1.(no tempo indication)]

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [2.Andante]

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [3.Allegro assai]


就職活動?

順調に見えたケーテン宮廷でのバッハでしたが、次第に暗雲が立ちこめてきます。楽団の規模縮小とそれに伴う楽団員のリストラです。

バッハは友人に宛てた書簡の中で、主君であるレオポルド候の新しい妻となったフリーデリカ候妃が「音楽嫌い」のためだと述べていますが、果たしてどうでしょうか?
当時のケーテン宮廷の楽団は小国にしては分不相応な規模であったことは間違いありませんし、小国ゆえに軍備の拡張も迫られていた事を考えると、さすがのレオポルドも自分の趣味に現を抜かしている場合ではなかったと考える方が妥当でしょう。

バッハという人はこういう風の流れを読むには聡い人物ですから、あれこれと次の就職活動に奔走することになります。

今回取り上げたブランデンブルグ協奏曲は、表向きはブランデンブルグ辺境伯からの注文を受けて作曲されたようになっていますが、その様な文脈においてみると、これは明らかに次のステップへの就職活動と捉えられます。
まず何よりも、注文があったのは2年も前のことであり、「何を今さら?」という感じですし、おまけに献呈された6曲は全てケーテン宮廷のために作曲した過去の作品を寄せ集めた事も明らかだからです。
これは、規模の小さな楽団しか持たないブランデンブルグの宮廷では演奏不可能なものばかりであり、逆にケーテン宮廷の事情にあわせたとしか思えないような変則的な楽器編成を持つ作品(第6番)も含まれているからです。

ただし、そういう事情であるからこそ、選りすぐりの作品を6曲選んでワンセットで献呈したということも事実です。


  1. 第1番:大規模な楽器編成で堂々たる楽想と論理的な構成が魅力的です。

  2. 第2番:惑星探査機ボイジャーに人類を代表する音楽としてこの第1楽章が選ばれました。1番とは対照的に独奏楽器が合奏楽器をバックにノビノビと華やかに演奏します。

  3. 第3番:ヴァイオリンとヴィオラ、チェロという弦楽器だけで演奏されますが、それぞれが楽器群を構成してお互いの掛け合いによって音楽が展開させていくという実にユニークな作品。

  4. 第4番:独奏楽器はヴァイオリンとリコーダーで、主役はもちろんヴァイオリン。ですから、ヴァイオリン協奏曲のよう雰囲気を持っている、明るくて華やかな作品です。

  5. 第5番:チェンバロが独奏楽器として活躍するという、当時としては驚天動地の作品。明るく華やかな第1楽章、どこか物悲しい第2楽章、そして美しいメロディが心に残る3楽章と、魅力満載の作品です。

  6. 第6番:ヴァイオリンを欠いた弦楽合奏という実に変則な楽器編成ですが、低音楽器だけで演奏される渋くて、どこかふくよかさがただよう作品です。




どうです。
どれ一つとして同じ音楽はありません。
ヴィヴァルディは山ほど協奏曲を書き、バッハにも多大な影響を及ぼしましたが、彼にはこのような多様性はありません。
まさに、己の持てる技術の粋を結集した曲集であり、就職活動にはこれほど相応しい物はありません。

しかし、現実は厳しく残念ながら辺境伯からはバッハが期待したような反応はかえってきませんでした。バッハにとってはガッカリだったでしょうが、おかげで私たちはこのような素晴らしい作品が散逸することなく享受できるわけです。

その後もバッハは就職活動に力を注ぎ、1723年にはライプツィヒの音楽監督してケーテンを去ることになります。そして、バッハはそのライプツィヒにおいて膨大な教会カンタータや受難曲を生み出して、創作活動の頂点を迎えることになるのです。

ソ連を始めて訪問した西側オーケストラの貴重な記録


「冷戦」という言葉も今では「歴史上の用語」のようになってしまった感がありますが、東西の対立が厳しかった時代には「鉄のカーテン」と言われるほどにお互いの交流は閉ざされていました。
ですから、イッセルシュテット率いる北ドイツ放送交響楽団が1961年にソ連を訪問してモスクワとレニングラード(当時)で演奏会を行ったのは、西側の管弦楽団としては初めてだったと聞くと軽い驚きを覚えます。

なぜならば、ソ連のオーケストラとしては1956年にムラヴィンスキーに率いられたレニングラードフィルが西側諸国を訪れて演奏会を行っていたからです。
1953年にスターリンが亡くなると「雪解け」と言うことが言われるようになり、その流れの中でレニングラードフィルが西側諸国に姿を現したのです。
しかし、それとは逆に西側のオーケストラがソ連を訪れるにはさらに5年の歳月が必要だったと言う事実に驚きを覚えるのです。

確かに、客としてよその家を訪れるよりは、我が家に客を招く方が敷居は高いものです。
取りあえずは玄関の前などを掃除したり、いつもはテーブルの上に出しっぱなしになっているものを片付けたり、さらにはそのテーブルをふきんで拭いてみたりと、何かと大変なものです。

幸いなことに、イッセルシュテット率いる北ドイツ放送交響楽団による初めてのソ連訪問時の演奏会の様子が録音として残っています。
私の手もとにあるのは、ベートーベンの7番とバッハのブランデンブルグ協奏曲の第2番です。

面白いのはこの2曲の雰囲気が随分と異なることです。

特に、いつものライブのイッセルシュテットとは雰囲気が違うなと思うのはベートーベンの方で、そこではいつになく強い緊張感が漂っています。
この演奏会がモスクワとレニングラードのどちらで行われたものかまでは分かりませんでしたが、確かに、レニングラードでの演奏会だとすればその緊張感は半端じゃなかったはずです。

何しろ、レニングラードフィルは56年と60年のヨーロッパ訪問で圧倒的な名演を聞かせていたからです。
そのレニングラードフィルの本拠地での演奏会ともなれば、意気込みも含めて強い緊張感を以て演奏会にのぞんだであろう事は容易に察しがつきます。(もっとも、これがモスクワでの演奏会の可能性もあるのですが・・・)

ですから、いつものイッセルシュテットはライブではけっこう直線的でアグレッシブな演奏を聞かせるのですが、ここではかなり遅めのテンポで悠然と一歩一歩踏みしめるようにベートーベンを造形していきます。そして、クレンペラーを思わせるようなインテンポを貫くので、なるほど、ここでは純ドイツ風の巨大な構築物としてのベートーベンを指向しているんだなと気づかされるのです。

ただ、惜しむらくは、録音のクオリティがあまりよろしくないのです。
それは、61年録音なのにモノラルというだけの話ではなくて、なんだか壁を一枚隔てて聞いているような冴えない音なのです。ですから、正直言って、イッセルシュテットの狙いが上手く実現しているのかどうかは、この録音だけではよく分からないのです。

それと比べれば、バッハのブランデンブルグ協奏曲の方は勢いに満ちた直線的な演奏であり、いささかの荒っぽさも含めて(独奏楽器はあちこちで派手に音を外しています)、このコンビらしいライブの姿がよくあらわれています。

また、同じモノラル録音でも、こちらのバッハのブランデンブルグ協奏曲の方はかなり録音状態が良好です。
おそらく、メロディアの録音陣も勘所をつかんだのでしょう。
そう考えると、この録音はソ連訪問の後半の方ではないかと推察できます。

録音クレジットには1961年録音としか記されていないので、ベートーベンとの前後関係は確定できないのですが、この録音が先に行われて、その後にベートーベンとは考えにくいほどのクオリティの差があります。
どちらにして、このような貴重な記録が残っていたことは有り難い話です。

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