クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58

(P)ハンス・リヒター=ハーザー:イシュトバン・ケルテス指揮 フィルハーモニア管弦楽団1960年7月20日~23日録音



Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [1.Allegro moderato]

Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [2.Andante con moto]

Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [3.Rondo. Vivace]


新しい世界への開拓

1805年に第3番の協奏曲を完成させたベートーベンは、このパセティックな作品とは全く異なる明るくて幸福感に満ちた新しい第4番の協奏曲を書き始めます。そして、翌年の7月に一応の完成を見たものの多少の手なしが必要だったようで、最終的にはその年の暮れ頃に完成しただろうと言われています。

この作品はピアノソナタの作曲家と交響曲の作曲家が融合した作品だと言われ、特にこの時期のベートーベンのを特徴づける新しい世界への開拓精神があふれた作品だと言われてきました。
それは、第1楽章の冒頭においてピアノが第1主題を奏して音楽が始まるとか、第2楽章がフェルマータで終了してそのまま第3楽章に切れ目なく流れていくとか、そう言う形式的な面だけではなりません。もちろんそれも重要な要因ですが、それよりも重要なことは作品全体に漂う即興性と幻想的な性格にこそベートーベンの新しいチャレンジがあります。

その意味で、この作品に呼応するのが交響曲の第4番でしょう。
壮大で構築的な「エロイカ」を書いたベートーベンが次にチャレンジした第4番はガラリとその性格を変えて、何よりもファンタジックなものを交響曲という形式に持ち込もうとしました。それと同じ方向性がこの協奏曲の中にも流れています。
パセティックでアパショナータなベートーベンは姿を潜め、ロマンティックでファンタジックなベートーベンが姿をあらわしているのです。

とりわけ、第2楽章で聞くことの出来る「歌」の素晴らしさは、その様なベートーベンの新生面をはっきりと示しています。
「復讐の女神たちをやわらげるオルフェウス」とリストは語りましたし、ショパンのプレリュードにまでこの楽章の影響が及んでいることを指摘する人もいます。
そして、これを持ってベートーベンのピアノ協奏曲の最高傑作とする人もいます。ユング君も個人的には第5番の協奏曲よりもこちらの方を高く評価しています。(そんなことはどうでもいい!と言われそうですが・・・)

ファンタスティックな世界


こういう人の演奏を聴かされると本当に困ってしまいます。
オレがオレがと前に出てくるタイプではないので、「こう言うところがなかなかのものでしてね」という体で済ますわけにはいかないのです。
と言うか、そう言う文章を綴るための取っかかりがないのです。

だったら、それはつまらない演奏なのかと言われればそんな事はない。
それどころか、これほど立派なベートーベンの協奏曲はそうそう聴けるものではないのです。

かといって、「とっても立派なベートーベンなのです。終わり。」では子供の作文にもならない。
だから困ってしまうのです。

残された録音の数が少ないこともあって、今となってはリヒター=ハーザーというピアニストを記憶にとどめている人は多くはないと思います。
私だって偉そうなことは言えません。

恥ずかしながら、「Hans Richter-Haaser」というピアニストのクレジットを始めて見たときは「ハンス・リヒター=ハーザー」とは読めなかったのですから。(´`)>〃スミマセンネェ
調べてみると「チェルニーの孫弟子にあたるピアニストで、ベートーヴェン直系のドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」という位置づけになるらしいです。

さらに突っ込んで調べてみると、ピアニストのキャリアを積み上げようという時に戦争に巻き込まれ、防空兵として長期にわたってピアノにふれることのできない生活を強いられたようなのです。
戦争が終わったときには指は完全に錆び付いてしまっていたと本人は述懐しています。

ですから、戦後は指揮者やピアノ教師として活動を再開したようです。
録音では非常に精緻な演奏を聴かせるのに、実演になると結構荒っぽいことが多かったと言われるのは、そのあたりに遠因があったのかもしれません。

しかし、ピアニストとしての活動を諦めたわけではなく、50年代にはいるとその錆び付いた指も少しずつ復活していったようです。
そして、53年に病気のソリストの代役としてバルトークのコンチェルト(2番)を演奏して復活への第一歩をつかみ取りました。

その後はベートーベンを中心としたレパートリーで評価を確立し、最初に紹介した「ベートーヴェン直系のドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」と呼ばれる地位を築き上げたのです。
しかし、リヒター=ハーザーのピアノはこの「ドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」」という言葉から連想される「ゴツゴツ」した「無骨さ」とは無縁です。

無縁であるどころか、逆に何とも言えない優雅でファンタスティックな世界が展開されます。
それは、ありふれたことかもしれませんが、例えば4番の冒頭でピアノだけがソロで歌い出す場面です。何でもないようですが、このように歌い出せるピアニストはそんなにいないような気がします。

また、4番と5番の第2楽章などは言うに及ばず、例えばコーダに突入していくような場面でも決して力ずくになることはなく、そのピアノは常にコントロールされ続けています。
そして、それに寄り添うケルテスもまた、その様なリヒター=ハーザーのピアノに相応しく、出来る限り角を立てないようにフレームを作っていきます。

ただし、こういう立派さはぼんやり聞いているとなかなか気がつきにくい性質のものです。
もちろんバックハウスのベートーベンも立派なものですが、立派さにはいくつものバリエーションがあることを教えてくれる演奏です。

ただし、人によってはありふれたスタンダード的な演奏と判断する人もいるでしょう。それはそれで、決して間違った判断ではないと思います。
何故ならば、スタンダードだと思ってもらえるだけでも凄いことなのですから。

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