クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23

(P)バイロン・ジャニス ハーバート・メンゲス指揮 ロンドン交響楽団 1960年6月録音



Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [1.Andante non troppo e molto maestoso?Allegro con spirito ]

Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [2.Andantino semplice?Allegro vivace assai ]

Tchaikovsky:Concerto for Piano and Orchestra No.1 in B-flat minor Op.23 [3.Allegro con fuoco ]


ピアノ協奏曲の代名詞

ピアノ協奏曲の代名詞とも言える作品です。
おそらく、クラシック音楽などには全く興味のない人でもこの冒頭のメロディは知っているでしょう。普通の人が「ピアノ協奏曲」と聞いてイメージするのは、おそらくはこのチャイコフスキーかグリーグ、そしてベートーベンの皇帝あたりでしょうか。

それほどの有名曲でありながら、その生い立ちはよく知られているように不幸なものでした。

1874年、チャイコフスキーが自信を持って書き上げたこの作品をモスクワ音楽院初代校長であり、偉大なピアニストでもあったニコライ・ルービンシュタインに捧げようとしました。
ところがルービンシュタインは、「まったく無価値で、訂正不可能なほど拙劣な作品」と評価されてしまいます。深く尊敬していた先輩からの言葉だっただけに、この出来事はチャイコフスキーの心を深く傷つけました。

ヴァイオリン協奏曲と言い、このピアノ協奏曲と言い、実に不幸な作品です。

しかし、彼はこの作品をドイツの名指揮者ハンス・フォン・ビューローに捧げることを決心します。ビューローもこの曲を高く評価し、1875年10月にボストンで初演を行い大成功をおさめます。
この大成功の模様は電報ですぐさまチャイコフキーに伝えられ、それをきっかけとしてロシアでも急速に普及していきました。

第1楽章冒頭の長大な序奏部分が有名ですが、ロシア的叙情に溢れた第2楽章、激しい力感に溢れたロンド形式の第3楽章と聴き所満載の作品です。


「音圧競争の弊害」から辛うじて免れている録音


「Mercury Living Presence」シリーズが「音圧競争の弊害」を招いてしまっていることを指摘してきたのですが、この録音に関しては辛うじてその弊害からは免れているようです。そして、「免れている」と言うことは、アンプのボリュームはやや大きめにして再生しないと、どこかさえない感じの音だと誤解してしまう恐れがあると言うことです。
私のメインの再生システムはプリアンプのボリュームは12時というのが基本なのですが、これは1時くらいまで上げたときがベターでした。

では、何故に「弊害」を免れたのかと言えば、それはこの録音がそれほど人気がないと言うことで「放置」されたからではないかと睨んでいます。
そして、その「人気薄」の原因が指揮者の「Herbert Menges」にあることは明らかです。

「Herbert Menges」は「ハーバート・メンゲス」と読むようです。
もしも、「ハーバート・メンゲス」と聞いて「あーっ、あの指揮者ね」とすぐに思い当たる人がいればそれかなりの「通」です。録音として残されているのはほとんどが協奏曲の伴奏であり、その数も多くはありません。この「知名度」の低さのおかげでいらぬ「編集」を施す「手間」も放置されたのでしょうが、それが結果として幸いしたようです。

しかし、「ハーバート・メンゲス」の知名度は至って低いのですが、聞いてみれば、それほど悪くはない演奏です。

輝かしいジャニスのピアノの妨げになることはなくバランス良くオケをコントロールしています。また、鳴らすべきところはしっかりと鳴らし切っていますからそう言う部分での不満もそれほど感じません。
また、ソロイスティックな管楽器の響きも見事で、そのあたりはロンドン響の腕の冴えかもしれませんが、やはりオケのやる気を引き出すのも指揮者の力量です。

ただ、音楽の進め方が縦割りでサクッ、サクッと進んでいく向きがあるので、そのあたりではもう少しニュアンスというか、艶がほしいかなとは思いますが、協奏曲の伴奏としては十分に合格点だと思います。

ピアノの方は、この時代のジャニスの輝きがよくあらわれています。
彼の師であるホロヴィッツは長い沈黙の後に復帰してからは、このような協奏曲はコンサートでも録音でも一切取り上げなくなってしまいました。
それは、ラフマニノフなんかでも一緒なんですが、彼らは遠慮なくピアノにオケをかぶせてくるんですね。それと勝負してピアノを鳴らしきるのは、ホロヴィッツのようなピアニストであっても年を経てくるとしんどいことなんだと思います。

ジャニスはこの録音の時は未だに30代になったばかりですから、気迫も気力も漲っています。最終楽章のコーダへなだれ込んでいく前の、ぐっと気力をため込む雰囲気なんかもこの録音からは伝わってくるのですが、そこからは眩しいまでの若さが溢れています。

でも、こういう演奏をあちこちで求められて、それにこたえているうちに彼は重度の関節炎を発症し、結果としては、その後のキャリアをほとんど棒に振ってしまうのです。
彼の公式バイオグラフィにはその後「手術によって奇蹟的に回復し、演奏と録音を再開することができた」となっているのですが、厳し言い方からかもしれませんがそこには若い頃の輝かしさは影すら存在しませんでした。

若い頃の輝きがあまりにも素晴らしかっただけに悲しくも厳しい話ですが、そう言わざるを得なかったのが残念です。

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