シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調, Op.47
(Vn)ダヴィッド・オイストラフ:ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1959年12月21日,24日録音
Sibelius:Violin Concerto in D minor Op.47 [1.Allegro moderato]
Sibelius:Violin Concerto in D minor Op.47 [2.Adagio di molto]
Sibelius:Violin Concerto in D minor Op.47 [3.Allegro, ma non tanto]
シベリウス唯一のコンチェルト

シベリウスはもとはヴァイオリニスト志望でした。しかし、人前に出ると極度に緊張するという演奏家としては致命的な「欠点」を自覚して、作曲家に転向しました。これは、後世の人々にとっては有り難いことでした。ヴァイオリニストとしてのシベリウスならば代替品はいくらでもいますが、作曲家シベリスの代わりはどこにもいませんからね。
そんなわけで、シベリウスにとってヴァイオリン協奏曲というのは「特別な思い入れ」があったようです。
作曲されたのは2番の交響曲を完成させて、作曲家としての評価を確固たるものとした時期でした。1903年に彼はこの作品に取り組みはじめ、そして年内に一応の完成をみます。その翌年には初演も行われたのですが、評価はあまり芳しいものではなかったようです。
そして、その翌年の05年に彼はベルリンでブラームスのヴァイオリン協奏曲を「聞いてしまいます。」
シベリウスの基本は交響曲であり、民族的な素材に基づいた交響詩です。ですから、彼はこのコンチェルトを書くときも、独奏楽器の名人芸をひけらかすだけのショーピースとしてではなく、交響的な響きをともなった構成のガッチリとした作品を書いたつもりでした。ところが、ベルリンで初めて聞いたブラームスのコンチェルトは、そう言う彼の思いをはるかに超えた、まさに驚くほどに交響的的なコンチェルトだったが故に、彼に大きな衝撃を与えました。
ヘルシンキに舞い戻ったシベリウスは猛然と改訂作業に取りかかり、1903年に完成させた初稿版は封印してしまいます。
とにかく、彼にとって冗長と思える部分はバッサリとカットされます。オーケストレーションもより分厚い響きが出るようにかなりの部分は変更されたようです。結果として、できあがった改訂版の方は初稿と比べるとかなり短く凝縮されたものに変身しましたが、反面、初稿には感じられた素朴な暖かみや自由なイメージの飛翔という部分は後退しました。
ただし、作曲家本人が全力を挙げて改訂作業に取り組み、さらに初稿の方を封印したのですから、我々ごときが「どちらの方がいい?」などという気楽なことは問うべきでないことは明らかでしょう。世界中から第8交響曲を期待され、そして、何度かそれらは「完成」しながらも、満足できないが故に結局は全て焼却してしまった男です。
現在は「遺族の了承」という大義名分のもとに初稿版を聴くことができるのですが、やはり、シベリウスのヴァイオリンコンチェルトは1905年の改訂版で聴くのが筋というものなのでしょう。
ヒンヤリ感はありませんが・・・
こういうサイトを管理していると、いろいろな録音の初出年を確定するために50~60年代のカタログを見つけるたびに入手しています。そう言うカタログを見ていると、オーマンディの録音があふれていることに気づかされます。その勢いはカラヤンにも匹敵するほどで、この時代におけるオーマンディ&フィラデルフィア管のポジションの高さには驚かされます。
ところが、そう言う膨大な録音は、今となってはほとんど入手不可能になっています。
ためしに、たとえばHMVなどのサイトで「オーマンディ」とか「Ormandy」で検索してみても、彼らが一番勢いがあった50~60年代の録音はほとんどヒットしてきません。その凋落ぶりには驚かされるばかりです。
そんな中で、今も何とか現役盤として残っているのが、このシベリウスの2番とヴァイオリン・コンチェルトです。
オーマンディとシベリウスの結びつきに関しては多くの逸話が残っていて、シベリウス自身もオーマンディとフィラデルフィア管による演奏には満足の意を表していたと伝えられています。
ただし、個人的には、オーマンディのシベリウスを聴いて感心したのは「4つの伝説曲」くらいで、正直言って今回取り上げた2番の交響曲もあまり感心はしませんでした。ヴァイオリン・コンチェルトに関しても、オイストラフのヴァイオリンはいつもながら素晴らしくて、オーマンディの伴奏も悪くないと思うのですが、どうもオケの音色に違和感があります。つまり、この演奏からはシベリウスには絶対必要だと思われる、「ヒンヤリ感」みたいなものは皆無です。シベリウスの音楽というのは、多少は下手くそくらいのオケが必死に演奏してる方が雰囲気は出るようで、たとえば、60年代初頭に録音された渡邉暁雄と日フィルによる全集なんかはその典型です。
ただし、シベリウスの音楽にそのようなものを求めない人もいるのは当然で、特にチャイコフスキーからの影響が色濃く残っている2番の交響曲なんかだとひたすらパワフルにオケを鳴らしきるのは決して間違いではないと思います。たとえば、これとほとんど同じコンセプトで演奏していたのが、80年代のカラヤン&ベルリンフィルでした。
実は、今回のオーマンディの演奏を聴いていて、真っ先に頭に思い浮かんだのがそのカラヤンの演奏でした。特に、音価を目一杯にとって、まるでハリウッドの映画音楽みたいに盛り上げていく最終楽章のやり方は、ここに源流があったのか、と膝を打ちました。ただし、オケの能力には大きな差がありますので、カラヤンの場合は白けてしまうところを、オーマンディの場合はギリギリのところで踏みとどまっているような気はします。
しかし、ヴァイオリン・コンチェルトになると、やはり、あのヒンヤリとした北国的な佇まいがほしいですね。
よせられたコメント
2011-08-11:Lisadell
- 同年、シカゴSO&ハイフェッツ先生が収録したものを先に聴きましたけど、全体としては遜色ないですね。
ただ1撃必殺の1音は、どうしてもハイフェッツ先生が、というのも詮無いことです。
2012-09-21:oTetsudai
- オイストラフの演奏はこの曲の演奏はかくあるべし、という演奏をすることはわかっていても、やはり圧巻です。たどりつけない高峰を思わせる美しく、本当に細部まで気を配りはしても作ることのない音楽の流れは普通の演奏会では得られないものだと改めて感じました。現代の演奏家がこの方向を目指さないのはこの音楽を越えることの、比較されることの困難さ・辛さを感じるからではないかと思わせるぐらいでした。
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