ベートーベン:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第1番 ト長調 Op.40
Vn.ハイフェッツ ウィリアム・スタインバーグ指揮 RCAビクター交響楽団 1951年6月15日録音
Beethoven:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第1番 ト長調 Op.40
実に耳に入りやすい作品
ベートーベンにとってこの「ロマンス」と題されたオーケストラとヴァイオリンのための音楽は得意な位置を占めています。それは、彼がこのような協奏的な小品をほとんど書いていないからです。
また、作品50のヘ長調は、ベートーベンには珍しいほどに旋律重視の作品で、その意味でも特異なポジションを占めていると言えます。作品40のト長調の方はメロディよりは和声を軸とした構成感があるのでベートーベンらしい作品とも言えます。
しかし、世間の人は美しいメロディラインの方が好きなのであって、それはベートーベンの作品に対しても同じで、人気の点ではヘ長調の方に軍配が上がります。
おそらく、この冒頭のメロディはクラシック音楽などに全く興味のない人でも、一度や二度はどこかで耳にしたことがあるでしょう。
作品の構成は両方とも典型的なロンド形式(A-B-A-C-A-コーダ)で書かれているので、実に耳に入りやすい作品です。
クラシック音楽の底の深さを垣間見せてくれる
比較のためにハイフェッツ以外にオイストラフの録音も一緒にアップしました。ただし、オイストラフの方はダビッドではなく息子のイーゴリの方です。
この2つの録音を聞くと、50年代のアメリカとヨーロッパがいかに異なる空気の中にあったかが手に取るように分かります。
特に、イーゴリの相方のオケがコンヴィチュニー指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団なのでその違いがよりはっきりとします。
このロマンスという作品は、かなり小振りなオケの編成を前提にしています。弦楽5部にフルート・オーボエ・ファゴット・ホルンがそれぞれ2本だけです。この編成は確か最初のピアノ協奏曲だった第2番と同じではないでしょうか。
しかし、コンヴィチュニー指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は実にどっしりと良くなっています。そして、オケの響きは雄弁であり決して独奏ヴァイオリンの伴奏だけには甘んじていません。
ベートーベン自身もこの作品に「Romanze fur Violine und Orchester」(ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス)と名付けているのですから、その意味では、このイーゴリとコンヴィチュニーの演奏の方が真っ正直な演奏だと言えます。
ところが、ハイフェッツの方を聞くと、彼にはそんな真っ当な演奏をする気は全くないことがすぐに分かります。
彼の演奏においては主役はあくまでもヴァイオリンであって、オケは伴奏にしかすぎません。いや、旋律重視のヘ長調のロマンスなどは、それを通り越してまるで「オーケストラ助奏付きのヴァイオリンのためのロマンス」に聞こえてしまうほどです。
ただ、困るのは、その演奏がとってもスタイリッシュで上品で、さらにはヴァイオリンの響きが時にはシャープであり、時には蠱惑的でさえあるので、その美しさにすっかり魅せられてしまうことです。
まさに、ハイフェッツの魔術です。
しかし、そう言うハイフェッツの演奏を聴いた後にイーゴリとコンヴィチュニーの演奏を聴くと、そこには「音のサーカス」のようなスリリングな緊張感や魅力はなくても、心の底が解され、ほっとさせてくれるような優しさに満ちていることが手に取るように分かります。
そして、それはそれで、実にすぐれた演奏であることを誰もが納得するはずです。
全く同じ作品を、全く違うベクトルで再現しても、それぞれがそれぞれに優れた魅力を発揮する、まさに、クラシック音楽の底の深さを垣間見せてくれます。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)