クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第2番 ヘ長調 Op.50

コンヴィチュニー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 Vn イーゴリ・オイストラフ 1955年頃録音





Beethoven:ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第2番 ヘ長調 Op.50


実に耳に入りやすい作品

ベートーベンにとってこの「ロマンス」と題されたオーケストラとヴァイオリンのための音楽は得意な位置を占めています。それは、彼がこのような協奏的な小品をほとんど書いていないからです。
また、作品50のヘ長調は、ベートーベンには珍しいほどに旋律重視の作品で、その意味でも特異なポジションを占めていると言えます。作品40のト長調の方はメロディよりは和声を軸とした構成感があるのでベートーベンらしい作品とも言えます。
しかし、世間の人は美しいメロディラインの方が好きなのであって、それはベートーベンの作品に対しても同じで、人気の点ではヘ長調の方に軍配が上がります。
おそらく、この冒頭のメロディはクラシック音楽などに全く興味のない人でも、一度や二度はどこかで耳にしたことがあるでしょう。

作品の構成は両方とも典型的なロンド形式(A-B-A-C-A-コーダ)で書かれているので、実に耳に入りやすい作品です。

クラシック音楽の底の深さを垣間見せてくれる


比較のためにハイフェッツ以外にオイストラフの録音も一緒にアップしました。ただし、オイストラフの方はダビッドではなく息子のイーゴリの方です。
この2つの録音を聞くと、50年代のアメリカとヨーロッパがいかに異なる空気の中にあったかが手に取るように分かります。
特に、イーゴリの相方のオケがコンヴィチュニー指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団なのでその違いがよりはっきりとします。

このロマンスという作品は、かなり小振りなオケの編成を前提にしています。弦楽5部にフルート・オーボエ・ファゴット・ホルンがそれぞれ2本だけです。この編成は確か最初のピアノ協奏曲だった第2番と同じではないでしょうか。
しかし、コンヴィチュニー指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は実にどっしりと良くなっています。そして、オケの響きは雄弁であり決して独奏ヴァイオリンの伴奏だけには甘んじていません。
ベートーベン自身もこの作品に「Romanze fur Violine und Orchester」(ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス)と名付けているのですから、その意味では、このイーゴリとコンヴィチュニーの演奏の方が真っ正直な演奏だと言えます。

ところが、ハイフェッツの方を聞くと、彼にはそんな真っ当な演奏をする気は全くないことがすぐに分かります。
彼の演奏においては主役はあくまでもヴァイオリンであって、オケは伴奏にしかすぎません。いや、旋律重視のヘ長調のロマンスなどは、それを通り越してまるで「オーケストラ助奏付きのヴァイオリンのためのロマンス」に聞こえてしまうほどです。
ただ、困るのは、その演奏がとってもスタイリッシュで上品で、さらにはヴァイオリンの響きが時にはシャープであり、時には蠱惑的でさえあるので、その美しさにすっかり魅せられてしまうことです。
まさに、ハイフェッツの魔術です。

しかし、そう言うハイフェッツの演奏を聴いた後にイーゴリとコンヴィチュニーの演奏を聴くと、そこには「音のサーカス」のようなスリリングな緊張感や魅力はなくても、心の底が解され、ほっとさせてくれるような優しさに満ちていることが手に取るように分かります。
そして、それはそれで、実にすぐれた演奏であることを誰もが納得するはずです。
全く同じ作品を、全く違うベクトルで再現しても、それぞれがそれぞれに優れた魅力を発揮する、まさに、クラシック音楽の底の深さを垣間見せてくれます。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-06-04]

エルガー:交響曲第2番変ホ長調Op.63(Elgar:Symphony No.2 in E-flat major, Op.63)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1954年6月日~9日録音(Sir John Barbirolli:Philharmonic Hall Recorded on June 8-9, 1954)

[2025-06-01]

ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36(Beethoven:Symphony No.2 in D major)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音(Joseph Keilberth:Bamberg Symphony Recorded on 1959)

[2025-05-29]

ラヴェル:組曲「クープランの墓(管弦楽版)」(Ravel:Le Tombeau de Couperin)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1958年11月16日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on November 16, 1958)

[2025-05-26]

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調, Op.35(Tchaikovsky:Violin Concerto in D major Op.35)
(Vn)アルフレード・カンポーリ:アタウルフォ・アルヘンタ指揮 ロンドン交響楽団 1956年12月27日~28日録音(Alfredo Campoli:(Cin)Ataulfo Argenta London Symphony Orchestra Recorded on December 27-28, 1955)

[2025-05-22]

ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21(Beethoven:Symphony No.1 in C major , Op.21)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音(Joseph Keilberth:Bamberg Symphony Recorded on 1959)

[2025-05-18]

ラヴェル:スペイン狂詩曲(Ravel:Rhapsodie espagnole)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1963年2月24日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on February 24, 1963)

[2025-05-15]

エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調, Op.61(Elgar:Violin Concerto in B minor, Op.61)
(Vn)アルフレード・カンポーリ:サー・エードリアン・ボールト指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年10月28日~29日録音(Alfredo Campoli:(Con)Sir Adrian Boult The London Philharmonic Orchestra Recorded on October 28-29, 1954)

[2025-05-12]

ラヴェル:舞踏詩「ラ・ヴァルス」(Ravel:La valse)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1963年1月30日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on January 30, 1963)

[2025-05-09]

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1960年録音(Joseph Keilberth:Hamburg Philharmonic Orchestra Recorded on 1960)

[2025-05-06]

ショパン:ノクターン Op.55&Op.62&Op.72&Op-posth(Chopin:Nocturnes for piano, Op.55&Op.62&Op.72)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1956年発行(Guiomar Novaes:Published in 1956)

?>