ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83
(P)ハンス・リヒター=ハーザー カラヤン指揮 ベルリンフィル 1958年11月録音
Brahms:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83 「第1楽章」
Brahms:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83 「第2楽章」
Brahms:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83 「第3楽章」
Brahms:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83 「第4楽章」
まったく可愛らしいきゃしゃなスケルツォをもった小さなピアノ協奏曲・・・
逆説好みというか、へそ曲がりと言うべきか、そう言う傾向を持っていたブラームスはこの作品のことそのように表現していました。しかし、そのような諧謔的な表現こそが、この作品に対する自信の表明であったといえます。
ブラームスは第1番の協奏曲を完成させた後に友人たちに新しい協奏曲についてのアイデアを語っています。しかし、そのアイデアは実現されることはなく、この第2番に着手されるまでに20年の時間が経過することになります。
ブラームスという人は常に慎重な人物でした。自らの力量と課題を天秤に掛けて、実に慎重にステップアップしていった人でした。ブラームスにとってピアノ協奏曲というのは、ピアノの名人芸を披露するためのエンターテイメントではなく、ピアノと管弦楽とが互角に渡り合うべきものだととらえていたようです。そう言うブラームスにとって第1番での経験は、管弦楽を扱う上での未熟さを痛感させたようです。
おそらく20年の空白は、そのような未熟さを克服するために必要だった年月なのでしょう。
その20年の間に、二つの交響曲と一つのヴァイオリン協奏曲、そしていくつかの管弦楽曲を完成させています。
そして、まさに満を持して、1881年の夏の休暇を使って一気にこの作品を書き上げました。
5月の末にブレスハウムという避暑地に到着したブラームスはこの作品を一気に書き上げたようで、友人に宛てた7月7日付の手紙に「まったく可愛らしいきゃしゃなスケルツォをもった小さなピアノ協奏曲」が完成したと伝えています。
決して筆のはやいタイプではないだけにこのスピードは大変なものです。まさに、気力・体力ともに充実しきった絶頂期の作品の一つだといえます。
さて、その完成した協奏曲ですが、小さな協奏曲どころか、4楽章制をとった非常に規模の大きな作品ででした。
また、ピアノの技巧的にも古今の数ある協奏曲の中でも最も難しいものの一つと言えます。ただし、その難しさというのが、ピアノの名人芸を披露するための難しさではなくて、交響曲かと思うほどの堂々たる管弦楽と五分に渡り合っていかなければならない点に難しさがあります。いわゆる名人芸的なテクニックだけではなくて、何よりもパワーとスタミナを要求される作品です。
そのためか、女性のピアニストでこの作品を取り上げる人はほとんどいないようです。また、ブラームスの作品にはどちらかと言えば冷淡だったリストがこの作品に関してだけは楽譜を丁重に所望したと伝えられていますが、さもありなん!です。
それから、この作品で興味深いのは最終楽章にジプシー風の音楽が採用されている点です。
何故かブラームスはジプシーの音楽がお好みだったようで、「カルメン」の楽譜も入手して研究をしていたそうです。この最終楽章にはジプシー音楽とカルメンの大きな影響があると言われています。
優雅でファンタスティックな演奏
恥ずかしながら、「Hans Richter-Haaser」というピアニストのクレジットを見ても「ハンス・リヒター=ハーザー」とは読めなかった。(´`)>〃スミマセンネェ
「ハーザーって誰?」という雰囲気だったのですが、調べてみると「チェルニーの孫弟子にあたるピアニストで、ベートーヴェン直系のドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」という位置づけになるらしいです。
でも、そんな能書きよりは、実際に録音の方を聞いてみると、実にファンタスティック!!素晴らしいじゃないですか。
日本では本当に無名の存在なのですが、ヨーロッパでは大変な人気ピアニストだったと言うことで、不思議なこともあるものだと思った次第です。ただ、真偽の程は定かではありませんが、来日したときの演奏がボロボロで、演奏が途中で止まってしまったという情報もネット上にはありました。そう言うこともあって日本での評価が低かったとすれば、昔の日本もあながち事大主義に凝り固まっていなかったと言えます。
しかし、このブラームスのコンチェルトは悪くないです。
録音の良さも貢献しているのでしょうが、一つ一つの粒立ちが良くて実に冴え冴えとした響きはなかなかに魅力的です。そして、いわゆるドイツ系のピアニストのようにゴツゴツした感じが全くなくて、それとは反対の優雅な雰囲気が全体を支配しています。
ただし、「優雅」と言ってもショパンのようなナヨッとしたものではなくて、内面に凜としたつよさを持った「優雅」さです。
ですから、凡百のピアニストと違って、飛ぶ鳥を落とす勢いだったカラヤン&ベルリンフィルを相手にしても自分を見失っていません。それどころか、音楽の方向性はハーザーが支配していて、カラヤンはそれに合わせて伴奏している風情です。オケの響きも実に柔らかくて活き活きとしながらもファンタスティック・・・です。
ドイツ魂爆発のゴッツイ演奏もいいのですが、こういう優雅な演奏は実に聞きやすくて気分がいいです。ブラームス自身も洒落でこの作品のことを「まったく可愛らしいきゃしゃなスケルツォをもった小さなピアノ協奏曲」と言ったのですから、案外こういうアプローチも正解なのかもしれません。
よせられたコメント
2010-03-15:タコ
- 自分にとってこの演奏は、あの『レコード芸術』が通販していたオリジナルCDで存在を知り購入した経緯があります。今も持ってます。
ベーム=バックハウスの演奏で耳に慣れていたこの曲が、リヒター=ハーザーのピアノをサポートするカラヤンの演奏で実に聴きやすくなって新鮮でした。
このCD購入後、輸入盤で『ブラームス/ピアノ協奏曲第2番、ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番』という重量級のカップリングのCDの存在を知って思わず買ってしまいましたね(笑
これの指揮者はこれまた重鎮のザンデルリンクというのも聴き物です。現在も時々見かけるようなので、もしよろしかったら一聴をおすすめします。
2010-03-16:うすかげよういちろう
- 先日導入したエムズシステムの波動スピーカーで聴きました。
すばらしい音です。
眼前にオーケストラが浮かび上がる立派な音です。
ピアノの響きがまたまたきれい。
こういう音が欲しかった。
2010-03-20:ミュージカル研究所
- 1958年11月は、私が生まれた年、そして月ですが、本当にいい録音ですね。演奏もすばらしい。タッチの軽やかな感じがいいですね。このピアノ協奏曲は難しいですが、名人芸を披露するような感じがなく、重さも軽さも哀愁もある傑作ですね。「可愛らしいきゃしゃなスケルツォ」が好きなのです。この曲が好きで、大学の卒業作品はピアノ協奏曲を書きました。いいものを聴かせていただき、ありがとうございました。
2010-03-21:かなパパ
- セルとカーゾンの演奏と聞き比べをしてみました。
同じ曲でありながら、こんなに違った印象を受けるとは...
優雅な演奏に仕上がっているのも、聴きやすい演奏なのも「カラヤンならでは」だと私は思います。
私は、オケの引き締まった響きといい、カーゾンの演奏の迫力といい、セルとカーゾンの演奏の方が好きです。
2010-03-24:N.I.
- 吉田秀和さんが、著書「LP300選」で「カラヤンの伴奏のつけ方が実に面白い」と、この演奏を薦めていたのを記憶していたが、聴く機会がないまま長い期間が過ぎてしまった。聴いてみて吉田さんのいうところを、分かるような感想を書いているユングさんの耳はたいしたものだと思います。自分の感想としては、カラヤンの伴奏については、いつもどの協奏曲でも自分が主導権を握っているようであり、この演奏でも、特に変わったところはないように思いました。それにしてもとてもやさしい響きと優雅さに満ちたブラームスでしたね。ブラームスのいかついい顔を忘れるような演奏でした。
2012-01-02:河合宏一
- フィッシャーとフルトヴェングラーの盤が最高だが、力まず自然で気品のあるこの一枚が最近の愛聴盤。聴けば聴くほどにカラヤンの感性にひかれる。阿片でも入っているのではないかと思えるほど何度も聴きたくなる。もちろんリヒター=ハーザも素晴らしく、この柱の周りを広大な液体が寄せては返す波のよう。第4楽章の地中海的憧れは切なく遠くを眺めるよう。
2012-10-22:あんひろ
- 個人的にはこの曲のベストです。
いろんな演奏でこの曲を聴きましたが、力んだ演奏はどうも合っていないような気がします。
以前アスケナージ/ハイティンクを期待せずに買ったのですが、それが当りだった。
同じように、この演奏にもほとんど期待していなかったのですが、リヒター=ハーザー、渋すぎる!余裕を持ちながらこの音楽に浸らせてくれます?!
2017-07-20:north fox
- この『ランダム検索』のストリーミングで聴いても演奏、録音のクオリティの高さがよくわかります。この曲は同じBPO/カラヤンとゲーザ・アンダの盤も持っていますが、それと甲乙つけがたい私にとってのベストです。(他にはアシュケナージ/ハイティンク、ギレリス/ヨッフムが手元にあります。)
この曲ばかりでなく、カラヤンとブラームスは相性が良く名演ぞろいと思うのですが、何故1番の協奏曲は避け続けたのか想像できません。巷にはもっともらしく穿った(?)見方を散見しますが。
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