クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

レスピーギ:ローマの祭り

トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1949年12月12日録音





Respighi:ローマの祭り チルチェンセス -Circenses

Respighi:ローマの祭り 五十年祭 -Il giubileo

Respighi:ローマの祭り 十月祭 -L'Ottobrata

Respighi:ローマの祭り 主顕祭 -La Befana


オーケストレーションの達人

レスピーギという人、オーケストレーションの達人であることは間違いはありません。
 聞こえるか、聞こえないかの微妙で繊細な響きから、おそらくは管弦楽曲史上最大の「ぶっちゃきサウンド」までを含んでいます。言ってみれば、マーラーの凶暴さとドビュッシーの繊細さが一つにまとまって、そして妙に高度なレベルで完成されています。

 しかし、この作品、創作された年代を眺めてみると、色々な思いがわき上がってきます。
 最初に作られたのが、「ローマの噴水」で1916年、次が「ローマの松」で1924年、そして「ローマの祭り」が1928年となっています。
 要は後になるほど、「ぶっちゃき度」がアップしていき、最後の「ローマの祭り」の「主顕祭」ではピークに達します。そこには、最初に作られた「ローマの噴水」の繊細さはどこにもありません。
 そのあまりの下品さに、これだけは録音しなかったカラヤンですが、分かるような気がします。
 
 そう言えば、どこかの外来オケの指揮者がこんな事を言っていましたね。
「どんなにチンタラした演奏でも、最後にドカーンとぶっ放せば、日本の聴衆はそれだけでブラボーと叫んでくれる」
 しかし、これは日本だけの現象ではないようです。
 どうも最後がピアニッシモで終わる曲はプログラムにはかかりにくいようです。(例えば、ブラームスの3番。3楽章はあんなに有名なのに、他の3曲と比べると取り上げられる機会が大変少ないです。これは明らかに終楽章に責任があります)

 この3部作の並びを見ていると、受けるためにはこうするしかないのよ!と言いたげなレスピーギの姿が想像されてしまいます。

 それから、最後に余談ですが、レスピーギはローマ帝国の熱烈な賛美者だったそうです。この作品の変な魅力は、そういう超アナクロの時代劇が、最新のSFXを駆使して繰り広げられるような不思議なギャップにあることも事実です。
 ちなみに彼は自分の作品にこんな解説をつけています。

チルチェンセス -Circenses
円形大劇場のうえに威嚇するように空がかかっている。しかし、今日は民衆の休日「アヴェ・ネローネ」だ。鉄の門が開かれ、聖歌の歌唱と野獣の咆哮が大気にただよう。群集は激昂している。乱れずに、殉教者たちの歌がひろがり、制し、そして騒ぎの中に消えてゆく。

五十年祭 -Il giubileo
巡礼者たちが祈りながら街道沿いにゆっくりやってくる。ついに、モンテ・マリオの頂上から、渇望する眼と切望する魂にとって永遠の都「ローマ、ローマ」が現れる。歓喜の讃歌が突然起り、教会は、それに応えて鐘をなりひびかせる

十月祭 -L'Ottobrata
ローマの諸城(カステッリ)での10月祭は、葡萄でおおわれ、狩のひびき、鐘の音、愛の歌にあふれている。そのうちに、柔らかい夕暮れの中にロマンティックなセレナードが起ってくる。

主顕祭 -La Befana
ナヴォナ広場での主顕節の前夜。特徴あるトランペットのリズムが狂乱の喧騒を支配している。増加してくる騒音の上に、次から次へと田園風の動機、サルタレロのカデンツァ、小屋の手廻しオルガンの節、物売りの叫び声、酩酊した人たちの耳障りな歌声や「われわれはローマ人だ。通り行こう」と親しみのある感情で表現している活気のある歌などが流れている。

これぞトスカニーニ&NBC交響楽団コンビの真骨頂


「トスカニーニは、レスピーギのローマの松と、メンデルゾーンのイタリアだけで歴史に名を残せるだろう。」なんて言葉を紹介しておきながら、全くのうっかりで大本命の53年盤をアップするのを忘れていました。さらに、ローマの噴水とローマの祭りもアップするのを忘れていました。いかんですね。

さて、トスカニーニによるローマの松ですが、言うまでもなく「アッピア街道の松」の圧倒的な迫力にその魅力が集約されていることは当然です。しかし、それ以上に聞き落としてほしくないのは弱音部おける緊張感に満ちた凄味です。
下手なオケと指揮者にかかるとこういう弱音部はただ単に音量を落としているだけで、音楽のテンションまで下がってしまっています。ところが、トスカニーニとNBC交響楽団のような凄腕にかかると、音量は小さくなっても緊張感は全く途切れることなく、逆にその静けさの背後から「凄味」のようなモノさえ浮かび上がってきます。ですから、その弱音部が次第次第に盛り上がっていってオケが爆発してもそこには強い必然性が感じられます。おそらくは、この必然性がトータルとしてこの演奏にただようある種の上品さや気品のようなモノの下支えになっているのでしょう。
そして、これもまた忘れてならないのは、NBC交響楽団の鬼のようなアンサンブル能力もそれ自体が目的化しているのではなくて、その様なトスカニーニの意思を実現するための手段として奉仕していることです。その事が、もっとも強く感じ取れるのはローマの祭りにおける「主顕祭」の馬鹿騒ぎです。
あまりの下品さにあのカラヤンでさえ録音しなかったと噂される作品なのですが、しかし、こういう乱痴気騒ぎは例えばストラヴィンスキーのペトルーシュカ等にも聴くことができます。決して、このレスピーギの作品だけが取り立てて下品だというのは納得がいきません。しかし、ペトルーシュカでもそうですが、こういう作品はオケを完璧にコントロールして祭りの雑踏を表現しないと、本当にただの乱痴気騒ぎになってしまいます。おそらく、ローマの祭りの主顕祭がコントロールされた狂乱として表現されたのはこれが初めてでしょう。まさに恐るべしNBC交響楽団です。

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