クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ビゼー:アルルの女組曲

アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1954年10月録音





Bizet::L'Arlesienne Suite No.1 [1.Prelude to Act I: Allegro deciso (the March of the Kings)]

Bizet::L'Arlesienne Suite No.1 [2.Minuet: Allegro giocoso]

Bizet::L'Arlesienne Suite No.1 [3.Adagietto; Adagio]

Bizet::L'Arlesienne Suite No.1 [4.Carillon: Allegro moderato]

Bizet::L'Arlesienne Suite No.2 [1.Pastorale: Andante sostenuto assai]

Bizet::L'Arlesienne Suite No.2 [2.Intermezzo: Andante moderato, ma con moto]

Bizet::L'Arlesienne Suite No.2 [3.Minuet: Andantino, quasi Allegretto]

Bizet::L'Arlesienne Suite No.2 [4.Farandole: Allegro deciso, tempo di Marcia]


編成を変えて大成功

この作品はアルフォンス・ドーテの戯曲「アルルの女」の劇附随音楽として作曲されました。戯曲の方は大成功を収めアルフォンス・ドーテの名声を不動のものにしたそうです。残念ながらフランス文学には至って暗いので、アルフォンス・ドーテという名を聞かされても全くピントこないのですが、そちらの世界ではなかなかに有名な人らしいです。
ただ、ビゼーが必死の思いで作曲した方の音楽はあまり評判がよくなかったという話が伝わっています。

理由ははっきり分からないのですが、どうも「アルルの女」を上演した劇場のオーケストラが小編成で技術的にも問題があったのではないかと推測されています。
しかし、作曲をしたビゼーの方はこの作品に絶対の自信を持っていたようで、全27曲の中からお気に入りの4曲を選んで演奏会用の組曲に仕立て直しました。これがアルルの女の第1組曲です。劇判音楽の方はいびつな小編成のオケを前提としていましたが、組曲の方は通常の2巻編成のオケを前提として編曲がなされています。
そして、ビゼーの死後、親友のギローが新たに4曲を選んで(有名な第3曲のメヌエットは「美しいパースの女」からの転用)組曲にしたのが第2組曲です。
この組曲の方はビゼーの死後に発表されて大好評を博しました。
<第1組曲>

  1. 第1曲:「前奏曲」

  2. 第2曲:「メヌエット」

  3. 第3曲:「アダージェット」

  4. 第4曲:「カリヨン」


<第2組曲>

  1. 第1曲「パストラール」

  2. 第2曲「間奏曲」

  3. 第3曲「メヌエット」

  4. 第4曲「ファランドール」



全ての音が整然と行進していく


ロジンスキーの棒でビゼーの「カルメン」や「アルルの女」の組曲を演奏すればおそらくこうなるだろうという予想はつきます。そして、良いか悪いかはひとまず脇においておくとして、その予想は裏切られることはありません。
全ての音はロジンスキーという鬼軍曹の号令に従って、雄々しく胸を張って行進していきます。そこには、フランス的なエスプリは全くありませんから、それに違和感を覚える人がいても不思議ではありません。しかし、アメリカ時代の録音を聞いたことがある人ならば、これでも随分とロジンスキーも人間が丸くなったものだと思うことでしょう。

アメリカ時代のロジンスキーは、もしかしたらセルやトスカニーニ以上に、ある意味ではサディスティックなまでに鞭をふるっていました。
セルがクリーブランド管の常任指揮者に就任したときの大量首切りは有名ですが、ロジンスキーがニューヨーク・フィルの音楽監督に就任したときの首切りはさらに大規模なものでした。何しろ、コンサート・マスターを筆頭に自らの望むレベルに達しない楽団員を大量に解雇したのです。嘘か本当か知りませんが、その事を彼は「血の浄化」と呼んでいたそうです。
そして、そう言う「浄化」がすんだ後も彼のリハーサルは過酷をきわめました。
ですから、その後経営陣と対立したときに彼の味方をする楽団員などはいるはずもなくニューヨークを追われることになります。そして、シカゴでも同じような事の繰り返しで、ついにはアメリカを離れてヨーロッパに帰ることになります。

しかし、ヨーロッパに渡ってからは特定のポストに就く事は出来ず、このウェストミンスターへのレコーディング活動が中心となりました。
おそらく、アメリカ時代であれば自ら望むレベルにまでオケを絞り上げていたのでしょうが、このウェストミンスターの録音では自らの望む方向は示しながらも、最後はオケがやれる範囲内で良しとしていたのでしょう。
それでも、オケの音はロジンスキーの指示に従って力強く行進していきますから、それはそれで大したものです。

しかし、これを聞いて不思議に思った点が二つあります。
それは遅いテンポの優雅さの漂う楽曲に関しては馬なりにまかせているので、その前後との間に妙な違和感を感じてしまうことと、アルルの女のフィーナーレでの爆裂です。

おそらく、優雅な部分に関しても引き締めることは要求したのでしょうが、結果としては無理だと判断して諦めたのでしょう。

そして、アルルの女のフィナーレの爆裂なのですが、これは好き嫌いが別れるでしょう。しかし、これはオケが調子に乗って突っ走ったのか、ロジンスキーの指示だったのかは不明です。
ただし、ロジンスキーという人の音楽作りから考えれば、この音が潰れるまで金管楽器を強奏させるなどと言うことは考えにくいので、オケの暴走だった可能性が高いような気がします。
それでも、ロジンスキーはそれでも仕方がないと諦めたのでしょうか。

そう考えると、彼も人間が丸くなったのか、最後の仕事の場だとして気が弱くなったのか、どちらにしても昔の彼を知るものにとってはいささか哀しくなる部分ではあります。ただし、この爆裂は気楽な聞き手にとっては結構面白く聞こえる部分もあるので困ってしまいます。

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