クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

フォーレ:歌劇「ペネロープ」前奏曲

エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 1961年2月録音





Faure:Prelude to Penelope


離ればなれになった夫婦の2つの主題

ポール・ヴェルレーヌの詩集「艶なる宴」をもとに、ルネ・フォーショワが舞台劇として編纂したのが「マスクとベルガマスク」です。普段は目立たない役回りの脇役たちが、主役の喜劇役者たちに劇を披露して楽しませるという他愛のない話だったようです。
そこで、この作品への音楽を依頼されたフォーレも、それほど何回も上演されることはないだろうと踏んで、過去に作曲した管弦楽曲や合唱曲、歌曲を用いて済まそうとしたようなのですが、さすがに良心が咎めたのか2曲だけは新作を用意したようです。

フォーレが用意した音楽は以下の通りです。

  1. 序曲(Ouverture) - 1868年作曲の「交響的間奏曲」が基になっている

  2. パストラール(Pastorale) - 1919年作曲の新曲

  3. マドリガル(Madrigal) - 1883年作曲の合唱と管弦楽の曲(作品35)

  4. いちばん楽しい道(Le plus doux chemin) - 1904年作曲の歌曲(作品87-1)

  5. メヌエット(Menuet) - 1918-19年作曲の新曲

  6. 月の光(Clair de lune) - 1887年作曲の歌曲(作品46-2)

  7. ガヴォット(Gavotte) - 1869年に作曲された未発表のピアノ曲が原曲

  8. パヴァーヌ(Pavane) - 1886-87年作曲の管弦楽曲(作品50)


そして、実際にこの作品は今ではほとんど忘れ去られているようで、後にフォーレがこの作品から新作と作品番号をつけていなかった旧作を選び出した「組曲」に仕立て直した方が生き残ることになりました。
フォーレが組曲として選び出したのは以下の4曲です。

  1. 序曲(Ouverture) - 1868年作曲の「交響的間奏曲」が基になっている

  2. メヌエット(Menuet) - 1918-19年作曲の新曲

  3. ガヴォット(Gavotte) - 1869年に作曲された未発表のピアノ曲が原曲

  4. パストラール(Pastorale) - 1919年作曲の新曲


なお、曲の並びは全体のバランスを考えて「パストラール」を最後に持ってきています。

なお、ドビュッシーの「マスクとベルガマスク」組曲はポール・ヴェルレーヌの詩集「艶なる宴」にインスピレーションを得たもので、こちらは何といっても「月の光」が有名です。

美しい響きはより作品に魅力を添える


アンセルメの演奏を聞くとき、そのオーケストラの響きのバランスの良さにはいつも感心させられます。ただし、肝心の来日公演の時には余り出来がよくなかったようで、あのバランスの良さはDeccaによる「録音マジック」のおかげだと言われたものです。
しかし、あの来日公演はアンセルメが亡くなる直前のもので、本来の力とはかけ離れたものでした。来日公演は1968年の6月、亡くなったのは翌年の2月20日でした。

確か、カルショーが書いていたと思うのですが、オーケストラのバランスを整えるのは指揮者の仕事であって、録音エンジニアの仕事ではないとアンセルメは常にいっていたそうです。
つまりは、指揮者がオーケストラを完全にコントロールすることによって完璧な響きをつくり出し、録音エンジニアはその響きをあるがままにとらえることだけが役割だという信念があったのです。

アンセルメによるボレロやラ・ヴァルスを聞くと、造形の確かさや響きの美しさに感心させられます。特に響きに関しては、私がフランス音楽と聞いてイメージする薄味な響きではなくて十分に艶のある豊かな響きであることが魅力的です。
いわば、香水の香りが漂う様な響きだといえるのかもしれません。そして、それもまたもう一つのフランス的な美学です。

しかし、その響きには艶があっても決してボッテリとした響きにはなっていません。その艶やかで美しい響きはオーケストラのバランスの良さによってスコアを眼前に見るがごとくの明晰さにあふれた響きにもなっています。
これはもう、驚くべきバランス感覚です。
そして、それはあまり演奏される機会の多くないフォーレの管弦楽曲においても全く変わりません。
そして、フォーレであれば、その艶やかな美しい響きはより作品に魅力を添えます。

アンセルメという指揮者は音楽の中にいらぬ「ドラマ性」を持ち込みません。
彼は、スコアに書かれている音楽の姿を精緻に、そしてその造形を損なうことのない様にすれば、その音楽に作曲家が託したドラマ性は自ずから聞き手に伝わると確信をしていたのです。ただし、それはいつも極上の響きによって実現されていました。

ですから、こういうアンセルメの演奏を聞いてしまうと、それ以外の指揮者の多くは作品を分かりやすく伝えようとして、あれこれと小細工を施していることに気づかされます。
もっとも、その小細工が小細工でなく、本来のドラマ性をクッキリと浮かび上がらせるものならばそれはそれで納得はいくのですが、そう言う演奏は余り多くないですね。

そして、アンセルメがフランス音楽のスペシャリストと言われるのは、その様なアンセルメの方向性が持つ正当性ゆえ故だと言えるでしょう。
おそらく、クリュイタンスなどとは異なっていても、これもまた正当なフランス的なDNAを持っていた指揮者だと言っていいでしょう。

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