クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドビュッシー:3つの交響的スケッチ「海」

シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1956年12月9日録音





Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [1.De l'aube a midi sur la mer]

Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [2.Jeux de Vagues]

Debussy:La Mer, trois esquisses symphoniques [3.Dialogue du Vent et de la Mer]


ドビュッシーの管弦楽作品を代表する作品

「牧神の午後への前奏曲」と並んで、ドビュッシーの管弦楽作品を代表するものだと言われます。
そう言う世間の評価に異議を唱えるつもりはありませんが、率直な感想としては、この二つの作品はたたずまいがずいぶん違います。

いわゆる「印象派」と呼ばれる作品ですが、この「海」の方は音楽に力があります。
そして曖昧模糊とした響きよりは、随分と輪郭線のくっきりとした作品のように思えます。

正直申し上げて、あのドビュッシー特有の茫漠たる響きが好きではありません。
眠たくなってしまいます。(^^;

そんな中でも聞く機会が多いのががこの「海」です。

作曲は1903年から1905年と言われていますが、完成後も改訂が続けられたために、版の問題がブルックナー以上にややこしくなっているそうです。

一般的には「交響詩」と呼ばれますが、本人は「3つの交響的スケッチ」と呼んでいました。
作品の雰囲気はそちらの方がピッタリかもしれません。

描写音楽ではありませんが、一応以下のような標題がつけられています。


  1. 「海の夜明けから真昼まで」

  2. 「波の戯れ」

  3. 「風と海との対話」




キラキラとした色彩感に満ちた波立ちの海ではなくて、ねっとりとしたうねりを伴った海です


退職をしてからオーディオ関係のつながりが増えてきました。つまりはそう言う場に顔を出すことが多くなり、そう言う中で知り合ってお互いのお宅を訪問し会う機会が増えたからです。
そんな中で気づいたのは、ドビュッシーに代表されるようなフランス系の音楽が好きだという人はあまり多くないという事実です。私自身もドビュッシーは苦手だと公言してきたのですが、どうやらそれは私だけではなくて、かなり狭い範囲の中での話であるかもしれないのですが、同じような趣向を持った人は少なくないようなのです。

おそらくは、その茫洋とした響きがオーディオ的にはあまり魅力を感じにくいのかもしれません。
しかしながら、このミュンシュ&ボストン響による録音を聞くと、それはドビュッシーの責任と言うよりは、それを演奏した側に原因があるのではないかと思わせられます。

はっきり言って、ミュンシュが描き出す「海」は軽やかに燦めく「海」ではありません。
オーディオ的に「海」が今ひとつ面白く感じられないのは、それが何処までいっても薄めの響きであまり大きな変化が感じられないからです。いや、それはドビュッシーのせいではなくて、そのスコアをひたすら精緻に再現しようとした結果としてそうなってしまっている場合が多いのです。
しかしながら、このミュンシュの「海」はかなり重みのある「海」になっています。それは、キラキラとした色彩感に満ちた波立ちの海ではなくて、ねっとりとしたうねりを伴った海なのです。ただし、そのうねりの中に内部の細かい見通しは埋没していないので、ドビュッシーが念入りに書き込んだであろう響きの多様性は見事に再現されています。しかし、再現はされていても、それは昨今よく耳にする「精緻」さとは本質的に異なった演奏であることも事実です。

この録音を聞いていて気づいたのは、私がどこかでこの作品が気に入らなかったのは、そう言う本来はしっかりと書き込まれていたであろう多彩な響きが、精緻さを追求した結果として、その多彩さが軽やかな燦めきの中に全てが埋没してしまっているものが多かったからかもしれません。
しかしながら、ミュンシュの録音からは軽さと重さ、暗さと燦めき、柔らかさと硬質なものというが見事に表現されていることに気づきますし、それに気づくためにはオーディオ的には結構挑戦のしがいがある録音であることにも気づかされます。

1956年という古い録音なのですが、このステレオ初期にRCAがどれほど高いレベルを実現していたかがよく分かる録音でもあります。

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