チャイコフスキー:組曲「眠れる森の美女」 Op.66(ハイライト)
アナトゥール・フィストラーリ指揮 ロンドン交響楽団 1962年1月録音
Tchaikovsky:The Sleeping Beauty, op.66 - Highlights [1.Introduction et Marche (Prologue)]
Tchaikovsky:The Sleeping Beauty, op.66 - Highlights [2.La fee des Lilas (Prologue)]
Tchaikovsky:The Sleeping Beauty, op.66 - Highlights [3.Valse (Act 1)]
Tchaikovsky:The Sleeping Beauty, op.66 - Highlights [4.Rose adagio (Act 1)]
Tchaikovsky:The Sleeping Beauty, op.66 - Highlights [5.Variation d'Aurore (Act 1)]
Tchaikovsky:The Sleeping Beauty, op.66 - Highlights [6.Panorama (Act 2)]
バレエ・クラシックの頂点を築いた作品
「白鳥の湖」の大失敗で、二度とバレエ音楽は書かないと心に決めていたチャイコフスキーにもう一度バレエ音楽を書かせたのは、マリンスキー劇場の監督官だったウセヴォロジェスキーなる人物でした。
この見識あふれる監督官は、口当たりのいい伴奏音楽しか書かない座付きの作曲家がロシアバレエを堕落させている原因だと断定し、チャイコフスキーに作曲の依頼をすることにしたのです。彼は、この「眠れる森の美女」の台本でチャイコフスキーの興味と意欲をかきたて、さらには「くるみ割り人形」も依頼し、さらには「白鳥の湖」の復活にも尽力したのですから、私たちは彼に多大なる感謝の念を捧げるべきでしょう。
チャイコフスキーはこの監督官の情熱に押し切られるような形で「眠れる森の美女」の作曲を承諾し、大変な多忙の中でスケッチをはじめます。そして、草稿が完成したときに彼は手紙の中で「この作品は私の生涯でもっともすぐれた作品の一つになると思います。」と述べています。
その後オーケストレーションも完成して、総譜は振り付け師のプティパの手に渡り、入念な稽古の末に皇帝臨席のもとに初演が行われました。しかし、結果は予想外に芳しくなく、皇帝は「結構でした。」と一言述べただけだったと伝えられています。
原因としては、未だにバレエというものは踊り手の妙技を楽しむものであって、音楽はあくまでも添え物としての伴奏にすぎないという従来からのスタイルに慣れきった宮廷に人々には「難しすぎた」と言うこともあるでしょう。当時の新聞には「チャイコフスキーの音楽は演奏会用作品でまじめすぎ、重厚すぎた」と書かれています。
さらに言えば、振り付け師のプティパ自身も、音楽が持っている全体的な統一感よりは、個々の小さなシーンを一つずつ完結するようにする従来からのやり方を踏襲したために、両者の間に不調和が生じたためだとも言われています。
しかし、後に「ロシア芸術の祭典」とも讃えられることになる魅力的な旋律ときらびやかな響きは少なくない人々の心をとらえたことは間違いなかったようです。
やがて、音楽と演出の不整合な部分も次第に修正が加えられて、ついにはバレエ・クラシックの頂点を築いた作品としての評価を築き上げていくことになります。
最後に全くの余談となりますが、今から20年ほど前、とあるコンサートに行ったときに入り口でもらったチラシの中に「眠れぬ森の美女」というのが入っていました。今から思えば、記念として保存しておくべきでした。
<お話のあらすじ>
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
プロローグ
フロレスタン14世の娘、オーロラ姫の誕生により、盛大な洗礼の式典が行われている。6人の妖精たちの一行が招待を受けて、彼女の名付け親となるべくやってくる。夾竹桃の精、三色ヒルガオの精、パンくずの精、歌うカナリアの精、激しさの精、そして一番偉い善の精、リラの精である。まず国王が妖精たちに贈り物をし、妖精たちがそれぞれオーロラ姫に授け物をする(正直さ、優雅さ、繁栄、美声、および寛大さなどを授けた、とする改訂版もある)。
その時、邪悪な妖精カラボスがやってくる。カラボスは自分が洗礼に招待されなかったことに怒り狂い、オーロラ姫に次のような呪いをかける。
「オーロラ姫は、20回目(改訂版では16回目)の誕生日に彼女の指を刺して、死ぬでしょう。」
しかし幸運にも、リラの精だけはまだ姫に何も授けていなかったため、次のように宣言する。
「カラボスの呪いの力は強すぎて、完全に取り払うことはできません。したがって姫は指を刺すでしょうが、死ぬことはありません。100年間の眠りについたあと、いつか王子様がやってきて、彼の口づけによって目を覚ますでしょう。」
第1幕
オーロラ姫はすくすくと成長し、20歳(16歳)の誕生日を迎えた。その誕生日に編み物をしている娘たちを見て国王は激怒する。オーロラ姫を守るために編み物・縫い物は禁止していたためだ。めでたい祝いの日なので国王は怒りを鎮めて祝宴をはじめる。
オーロラ姫には4人の求婚者がおり、彼らがバラを姫に手渡したそのすぐ後、姫は何者かからつむを贈られる。彼女は尖ったものに気をつけるようにという両親の忠告にも関わらず、それを持ったまま楽しそうに踊る。そして誤って指を刺してしまう。
カラボスは、すぐに邪悪な本性を明かしながら、勝ち誇り、驚く賓客の前で姿を消す。同時にリラの精が約束通りやってきて、王と王妃、そして賓客たちに、オーロラ姫は死ぬのではなく眠りにつくのだということを思い出させる。リラの精は城にいた全員に眠りの魔法をかける。オーロラ姫が目覚めるその時に、目を覚ますように、と。
第2幕
それから100年が経った頃、デジレ王子が一行を率いて狩りを行っていた。王子は狩りが楽しくなかったため、一人になりたいと申し出て、一行から離れる。そこに突然リラの精が現れて、オーロラ姫の幻を見せられた王子はその美しさの虜となる。王子はリラの精にオーロラ姫の元へ連れて行くよう頼み込み、今や太いツルが伸び放題でからみついている城にたどり着く。リラの精はオーロラ姫の名づけ親だが、デジレ王子の名づけ親でもあった。
王子は城の中に入り、中で眠っているオーロラ姫を発見し、王子のキスによってオーロラ姫は目を覚ます(原作は非暴力的で愛すること・考えることを重視するが、改訂版では邪悪なカラボスを打ち負かす、といった展開もある)。彼女が目を覚ましたため、城にいた全員が目を覚ます。王子は姫への愛を告白し、結婚を申し込む。
第3幕
婚礼の仕度は整った。祝祭の日にさまざまな妖精たちが招かれている。結婚を祝福するのは、金の精、銀の精、サファイアの精、ダイヤモンドの精である。リラの精もカラボスも出席している。「長靴をはいた猫」や「白猫」などのおとぎ話の主人公たちも来賓として居合わせている。
華麗なダンスが次々に踊られる。4人の(宝石・貴金属の)妖精のパ・ド・カトル、2匹の猫のダンス、青い鳥とフロリナ王女のパ・ド・ドゥ、赤ずきんちゃんとおおかみの踊り、シンデレラ姫とチャーミング王子のダンスが披露され、(一般的には省略されるサラバンドの後を受けて、)オーロラ姫とデジレ王子のパ・ド・ドゥが続き、最後にマズルカで締め括られる。オーロラ姫と王子は結婚し、(リラの精が2人を祝福する、という改訂版もあるが、原作では)妖精たちを讃えるアポテオーズの中で人々は妖精たちに感謝を表し、リラの精やカラボスなどの妖精たちが人々を見守るうちにバレエは終わる。
中途半端な抜粋盤になっているので申し訳ない限りです。
バレエ音楽というのは指揮者にとってはあまり有り難くない品目のようです。
基本的には、音楽よりは踊りが優先される世界であって、それは何処まで行っても「伴奏」の域を出ないからです。
コンサート指揮者であれば、そんな「伴奏音楽」などは真面目につき合っていられないというのが本音でしょう。
ですから、そう言うバレエ音楽をメインに指揮活動している指揮者のことをバレエ指揮者などと言って一段低く見る風潮が生まれたりするのです。
実際、上演コストを下げてチケット代を安くするために、音楽は録音を流すと言うことも普通にやられる世界ですからそれはもう仕方のないことかも知れません。
そして、フィストラーリという指揮者も基本的にはバレエ指揮者と見られてきましたから、彼への評価にはどこか微妙な影がつきまといました。
しかし、そう言うことは認めながらも、バレエ音楽にはいわゆる立派な管弦楽作品とは違うテイストがあることも事実です。
そう言うテイストにもたれかかってただの伴奏音楽で終わることもあれば、そのテイストを生かして立派な管弦楽作品にはない味わいを醸し出すことも可能なのです。フィストラーリという指揮者はそう言う微妙なテイストを現実の音楽に変換できる数少ない指揮者の一人でした。
もちろん、バレエ音楽といえどもそれは管弦楽作品なのですから、その他の立派な管弦楽作品と同じように立派に演奏することは可能です。
例えば、カラヤンの手になる録音などはその典型であり、ゴージャスな響きによる華麗な世界はそう言う方向性の一つの到達点であることは間違いありません。
しかし、それで踊れるのかと言われれば、バレリーナに聞いたことはないので確たる事は言えないのですが、かなりの困難が伴うのではないかとは思われます。
また、聞き手にしても、あれはコンサートのプログラムとして聞かされる分には申し分ないのですが、バレエの舞台であそこまで音楽が自己主張すれば、それはバランスが悪すぎると言わざるを得ません。
そう考えると、このフィストラーリやドラティなどのバレエ音楽は実にほどがよいのです。
とりわけ、生粋のバレエ指揮者とも言うべきフィストラーリの演奏はほどがよいのです。
確かに、カラヤンのような演奏を基準とすれば物足りなさはあるのですが、実際のバレエの舞台を彷彿とさせるような歌い回しは通常のコンサート指揮者には難しいんだなと思わせる何かを持っています。
そして、その何かに対しては「リズム感の良さと気品あふれるほのかなロマン性」などと言われたりもするのですが、それだけでは何か言い残したことがたくさんあることも事実なのです。音楽のあちこちに施された微妙な表情付けを「ロマン性」という言葉でまとめしまうにはどこか申し訳なさが残ってしまうのです。
おそらくその背景には長い舞台経験に加えて、リムスキー=コルサコフ以降の伝統受け継いできたというプライドがあったことは間違いないことでしょう。
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