リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」 作品35
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (Cell)ピエール・フルニエ (Viola)ジュスト・カッポーネ 1965年12月録音
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Introduction (Masiges Zeitmas)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Theme]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 1 (Gemachlich)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 2 (Kriegerisch)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 3 (Masiges Zeitmas)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 4 (Etwas breiter)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 5 (Sehr langsam)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 6 (Schnell)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 7 (Ein wenig ruhiger als vorher)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 8]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 9 (Schnell und sturmisch)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Variation 10 (Viel breiter)]
Richard Strauss:Don Quixote, Op.35 [Final(Sehr ruhig)]
悲しげな姿の騎士、ドン・キホーテ」の「幻想的変奏曲」

この作品は言うまでもなく、セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」を下敷きにしています。
シュトラウスはこの作品のことを「大オーケストラのための、騎士的な性格のひとつの主題による幻想的変奏曲」と名付けています。この「騎士的な性格のひとつの主題」というのは「悲しげな姿の騎士、ドン・キホーテ」のことで、その「幻想的変奏曲」というのは、きわめて自由な形式による変奏によってドン・キホーテの数々の奇行を描いていこうという趣向を表明しています。
とりわけ、この作品で重要なポジションをしめるのが独奏チェロで、これが主人公である「ドン・キホーテ」の性格を表現していきます。
ちなみに、従者であるサンチョ・パンサは独奏ヴィオラで表現されることが多く、貴婦人は木管楽器によって表現されることが多いので、そのあたりは耳をすませて聞くとニヤリとできる場面が多いはずです。
なお、シュトラウスは楽譜の中に物語との関係を書き込んだりはしていないが、ある機会に次のように語ったと伝えられています。
・序奏
ラ・マンチャの村に住む男が騎士のロマンスを読むうちに妄想にふけり、理性を失う中なかで、自分自身がが遍歴する騎士ドン・キホーテになろうと決心する。
・主題
悲しげな姿の騎士、ドン・キホーテ(主題)が独奏チェロで、サンチョ・パンサの主題が独奏ヴィオラ表現される。
・第1変奏
美しい貴婦人「ドゥルネシア」の合図で二人は出発し、風車を巨人と思い込んで戦いを挑む。しかし、たちまちのうちに風車が回り、地面に叩き付けられてしまう。風は弦楽器のトリルで表現される。
・第2変奏
ドン・キホーテは羊の群れをアリファンファロン大王の軍隊と勘違いして戦闘を挑み、たちまちのうちに的を蹴散らして勝利する。羊は金管楽器のフラッター奏法で示される。
・第3変奏
騎士と従者の対話。冒険が嫌になったサンチョの要求・質問・諌言、それに対してドン・キホーテのなだめ・慰め・約束が独奏チェロと独奏ヴィオラで展開される。
・第4変奏
行進してくる懺悔者の一行とドン・キホーテの出会い。ドン・キホーテは懺悔者が携える聖像を誘拐された貴婦人だと思い込み、助け出そうとして一行に突入するが、叩き付けられて失神してしまう。
・第5変奏
ドン・キホーテは戦争の見張りをしながら、遠く離れた架空の恋人ドルシネア姫へ胸の内を打ち明ける。
・第6変奏
サンチョ・パンサは通りかかった不器量な田舎娘を主人にドルシネア姫だと思いこませる。しかい、娘は気味悪がって逃げてしまう。
・第7変奏
女たちにからかわれ、だまされて目隠しをしたドン・キホーテとサンチョ・パンサは、乗せられた木馬を魔法の馬だと信じて空中を騎行し、巨人退治に夢中になる。
・第8変奏
だまされた小舟での予想もしなかった航行、舟歌が歌われる。
・第9変奏
二人の修行僧を悪魔と勘違いして闘いを挑む。驚いて修行僧たちは逃げるが、ドン・キホーテとサンチョ・パンサは意気揚々と旅を続ける。
・第10変奏
光り輝いた月の騎士との決闘でドン・キホーテは大地の打ちのめされる。これによって、ドン・キホーテはついに冒険をあきらめ、羊飼いになる決心をして故郷に向かう。
・終曲
ふたたび正気に戻ったドン・キホーテは最後の日々を瞑想の中で過ごし、静かに自分の生涯を回想する。そして、ドン・キホーテの死。
なお、セルバンテスの小説は、当初は「滑稽本」の傑作として評価されていたが、19世紀のロマン派の時代になると、見果てぬ夢を追い求める偉大でもの悲しい物語という悲劇的な解釈が主流を占めるようになります。しかし、20世紀になると、これを「カーニバル文学」の傑作として解釈する動きも見られます。
「カーニバル文学」とは、
「文学におけるカーニバル性とは、国王の戴冠と奪冠、地位や役割の交代や変装、両義性、シニカルで無遠慮な言葉、などに見られるものである。価値倒錯の世界を創り出す効果を持つ。また、中世によく見られた笑いを隠れ蓑にしたパロディーにも、強いカーニバル性が見られる。中世においても笑いによってならば、聖なるものを俗的に扱うことが許されたのである。聖と俗の交わりや交代、否定(嘲笑)と肯定(歓喜)、死と再生、などが笑いの中で行われた。笑いは社会風刺のために、無くてはならない要素であった。カーニバル文学においても、笑いは極めて重要な要素である。」
と言うものらしいです。
シュトラウスの作品は、19世紀的な悲劇的解釈を下敷きにしたというよりは、明らかにこの物語が持つ「カーニバル性」を前面に押し出した作品のように思えます。
しかし、演奏する側にとってはどうにでも料理できる懐の広さを持つ作品でもあるので、そのあたりの解釈をどうするかは結構難しい問題となるように思われます。
「私は戦い、間違いも犯した。しかし、人生を自分を思うままに謳歌した。そして今・・・」この個所には、本当に心を打たれます。
カラヤンはこの作品を非常に好んでいたようです。
スタジオ録音としては、このフルニエを相手にした65年盤を皮切りに、ロストロポーヴィッチとの76年盤、そしてブラジル出身のチェリスト、アントニオ・メネセスとの83年盤の3種類の録音を残しています。
そこで、ふと気づいたのですが、フルニエも同じように3種類のスタジオ録音を残していたと言うことです。
クレメンス・クラウスとの53年盤、ジョージ・セルとの60年盤、そしてこのカラヤンとの65年盤3種類です。
そして、録音年代を眺めていると、クレメンス・クラウスからフルニエへ、そして、フルニエからカラヤンにバトンがパスされたかのように映るのです。
それでは何をパスしたのかと問われれば、実に持って曖昧な言い方になるのですが、いわゆる「ウィーンという町に受け継がれてきた伝統」と言えるのでしょうか。
セルなんて指揮者は一見するとそう言うウィーン的な伝統からは一番遠いところにあるように見えるのですが、じっくりと彼の音楽を聞いてみれば、そのニコリともしないように見える表情の多くに古いウィーンの伝統が息づいていることに気づかされます。
そう言えば、カラヤンもまたこの作品の終曲にはいつも心打たれると語っていました。
「私は戦い、間違いも犯した。しかし、人生を自分を思うままに謳歌した。そして今・・・」この個所には、本当に心を打たれます。
なるほど、このドン・キホーテの言葉をカラヤンの生涯に重ねて見れば実に意味深長な言葉です。そして、おそらくはこの「滅びの美学」のようなものこそがウィーンという町の奥底にひそんでいる美学でもあるのでしょう。
そして、その様な美学はシュトラウスによって形あるものとして生み出され、それがクレメンス・クラウスからフルニエ、そしてカラヤンへと引き継がれいったように見えるわけです。
そして、それ故にか、ここでのカラヤンは非常に大人しくて、丁寧に演奏しているように聞こえます。
フルニエもまた、セルとの録音ではオーケストラに包摂されたかのように聞こえたのですが、ここではカラヤンのサポートを得てフルニエらしい美しい響きと歌い回しを披露しています。
ただし、フルニエという人はどこまで行っても矩を超えない人ですから、カラヤンがロストロポーヴィッチと組んで録音した76年盤と較べれば物足りなさを感じる向きもあるかも知れません。
あの録音ではロストロポーヴィッチが非常に遅いテンポで唸るようにして独奏部分を弾き始めたので、カラヤンが驚いてしまったそうです。
そんなカラヤンにロストロポーヴィッチは「いや、大丈夫」と言って、さらに「この馬はちょっと年寄りなので、乗りこなすのに苦労しているのさ」と続けたそうです。
なるほど、伝統というものはその様に上書きされることで生命力を失うことなく更新されていくものかもしれません。
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