クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

チャイコフスキー:序曲「1812年」変ホ長調 作品49

イーゴリ・マルケヴィチ指揮 コンセルトヘボウ交響楽団 1964年9月録音



Tchaikovsky:Overture solennelle "1812", Op.49


下品さが素敵!!

その昔、「これからの私の人生にチャイコフスキーの音楽はもう不要だ」と言った、エラーい評論家が痛そうです。いや、(訂正)、いたそうです。(^^;
クラシック音楽が「強要」として、いや(訂正)、「教養」としてとらえられていた、古き良き(?)日本の時代を思い出させてくれるエピソードです。

なるほど、「教養」と書こうと思って、「きょうよう」と入力して変換すると「強要」になるとは、パソコンの変換機能はたんなる変換機能をこえて事の真実をさらけ出す能力まで身につけたようです。
確かに、「教養」というものは、どう聞いても面白くないようなものをじっと我慢して聞くことを「強要」されることで身につくのですから、最初の音が出た瞬間から耳が惹きつけられ、聞き進んでいくうちに血湧き肉躍るというような音楽では「教養」は身につかないのです。ですから、「教養」を身につけるためにクラシック音楽を聴いているエライ人にとってはチャイコフスキーの音楽などは害悪以外の何物でもないでしょう。

そして、おそらくは、そう言う人たちにとって、このチャイコフスキーの「序曲 1812年」こそは、そのような害悪の象徴、悪の権化のような音楽だったに違いありません。
まさに、下品!!
おそらく、音楽史上、最も下品な音楽の一つでしょう。いやもしかしたら「One of the most vulgar music」ではなくて「Most vulgar music」かもしれません。

しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉もありますが、芸の世界では、下品も極めれば一つの価値となります。その下品さこそが最高に素敵なのです。

この作品は今さら言うまでもなく、1812年のナポレオンによるロシア戦役を描いた音楽です。この戦役では、ロシアはナポレオン軍に首都モスクワを制圧されながらも、最終的には冬将軍の厳しい寒さにもつけられて「無敵ナポレオン」を打ち破ります。まさに、歴史に刻み込むべき「偉大なる祖国防衛のための戦い」でした。
ですから、この作品はその戦いをなぞった音楽になっています。


  1. 第1部:Largo
    ヴィオラとチェロのソロが奏でる正教会の聖歌「神よ汝の民を救い」にもとづく静かな序奏で始まります。この後のハチャメチャが想像できないような美しい出始めです。

  2. 第2部:Andante
    打楽器の活躍がロシア軍の行進を暗示し、音楽は次第に盛り上がっていきます。

  3. 第3部:Allegro giusto
    「ボロジノの戦い」と説明されることもあります。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の旋律を響き渡り、ナポレオン群の進撃が始まります。
    最初の大砲もこの部分で5回「発射」され、この偉大なる(?)作品の真実が姿を現し始めます。

  4. 第4部:Largo
    冒頭の主題と同一の旋律ですが、今度は管楽器で堂々と演奏されロシア軍の反撃が始まります。

  5. 第5部:Allegro vivace
    ロシア帝国国歌が壮大に演奏されます。
    さらに鐘は鳴り響き、大砲もとどろく中でナポレオン軍は撃退されロシア軍の大勝利で音楽は終わります。



まさに、下品です(^^v
でも、素敵です!!

コンセルトヘボウの響きに安心してゆだねている部分が大きいように聞こえる演奏です


これはマルケヴィッチの録音の中では実に興味深い演奏です。
おそらく、その少なくない部分が、コンセルトヘボウという老舗のオーケストラに依存しているのでしょう。

そう言えば、彼の「手兵」であったラムルー管との録音では半ば冗談で「作品を演奏するときには、どのような小さな音符であっても蔑ろにしてはいけない~たとえラムルー管であっても(^^; 」と書きました。
このオケは緩いことで有名なのですが、何をどう間違ったのかマルケヴィッチをシェフに招いてしまって、そのきだけは別人のように引き締まった響きに豹変していたのです。

もっとも、その豹変はマルケヴィッチの徹底的なトレーニングの賜物だったのですが、結局はその「過酷」なトレーニングに耐えきれずにオーケストラはマルケヴィッチを追い出してしまいました。
そして、追い出した後は、当然の事ながら目出度くいつものラムルー管に戻ってしまいました。

しかし、この録音はコンセルトヘボウ管です。

コンセルトヘボウはベイヌムの急逝によって音楽監督はハイティンク、サポートはヨッフムという体制になってレベルが落ちたと言われたのですが、なかなかどうして立派なもので、他のオケでは聞くことのできないふっくらとした柔らかい響きは健在です。
そして、マルケヴィッチの録音にしては面白いと感じるのは、そう言うオケの響きに彼が安心してゆだねている部分が大きいように聞こえるからです。

理由は二つあるかも知れません。
一つは、それほど締め上げなくても十分に満足できるレベルを維持していること、二つめは、どれほど締め上げても頑として変わらない頑固さをオケが持っていることです。

それならば、無理をして鼻面を引き回さなくてもオケにゆだねる部分はゆだねた方がいい結果になることは明らかです。
ただ面白いなと思うのは、その結果として極上の響きでもって下品さが爆発していることです。そして、作品そのものがそう言う下品さを要求しているので、聞き手にしてみれば悪くないのです。

一音たりとも疎かにしないというスタンスが、ともすればチャイコフスキー的な世界から遠ざかっていくときもあるのですが、ここではど真ん中にボールが行っています。
そして、これを聞くと、バーンスタインの演奏がいかに上品でスタイリッシュであるかがよく分かります。最後に炸裂する大砲の音が、バーンスタインの演奏ではシャンパンの栓を抜く音のように聞こえます。

もちろん、コンセルトヘボウにゆだねたおかげで、マルケヴィッチの方は十分に下品で素敵です。

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