ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72
ドラティ指揮 ミネアポリス交響楽団 1958年4月録音
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[1.Odzemek. Vivace]
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[2.Dumka. Allegretto grazioso]
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[4.Dumka. Allegretto grazioso]
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[3.Skocna. Allegro]
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[5.Spacirka. Poco Adagio?Vivace]
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[6.Polonaise. Moderato, quasi menuetto]
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[7.Kolo. Allegro vivace (C major)]
Dvorak:Slavonic Dances Op.72[8.Sousedska. Grazioso e lento, ma non troppo, quasi tempo di Valse]
メランコリックで美しい旋律を持った作品が多い

スラブ舞曲の予想以上の大成功に気をよくした出版業者のジムロックは早速に第2集の作曲をドヴォルザークに依頼します。しかし、第1集の大成功で名声を確立したドヴォルザークは、彼が本来作曲したかったような作品の創作へと向かっていました。速筆のドヴォルザークにしては珍しく時間をかけてじっくりと取り組んだピアノ三重奏曲ヘ短調やヴァイオリン協奏曲、交響曲の6番、7番などが次々と生み出されるのですが、スラブ舞曲の第2集に関しては固辞していました。
しかし、その様な「大作」だけでは大家族を養っていくことは困難だったようで、ある程度の稼ぎを得るためには「売れる」作品にも手を染めなければいけませんでした。そして、その様な仕事はドヴォルザークの心をブルーにし、鬱屈した思いが募っていきました。そんな、ドヴォルザークに妻のアンナは散歩に出かけることをよくすすめたそうです。
すると、ドヴォルザークは葉巻を一本加えては汽車を見に行きました。ドヴォルザークにとって音楽の次に好きだったのが汽車だったのですが、その大好きな汽車を眺めているうちに鬱屈した思いも消え去って、再び元気になって帰宅したというエピソードが残されています。
そんなドヴォルザークに対してジムロックはついに第1集の10倍という破格のギャラで第2集の作曲をドヴォルザークに懇願します。はたして、この金額が彼の心を動かされたのかどうかは定かではありませんが、今まで断り続けてきたこの仕事を、1886年になってドヴォルザークは突然に引き受けます。そして、わずか一ヶ月あまりで4手のピアノ楽譜を完成させてしまいます。
もちろん、だからといって、この第2集はお金目当てのやっつけ仕事だったというわけではありません。
ドヴォルザークは第1集において、この形式においてやれるべき事は全てやったという自負がありました。それだけに、これに続く第2集を依頼されても、それほど簡単に第1集を上回る仕事ができるとは思えなかったのもこの仕事を長く固持してきた理由でした。ですから、彼が第2集の仕事を引き受けたときには、それなりの成算があってのことだったのでしょう。
この第2集では、チェコの舞曲は少ない数にとどめ、他のスラブ地域から様々な形式の舞曲が採用されています。また、メランコリックで美しい旋律を持った作品が多いのもこの第2集の特徴です。明らかに、第2集の方が成功をおさめた巨匠のゆとりのようなものが感じ取れます。そう言う意味では、第1集よりはこちらの方が好きだという人も多いのではないでしょうか。
なお、この第2集もピアノ用に続いてオーケストラ版も出版されて、今ではそちらの方が広く流布しています。
第1番:モルト・ヴィヴァーチェ ロ長調 4分の2拍子
第2番:アレグレット・グラッティオーソ ホ短調 8分の3拍子
第3番:アレグロ ヘ長調 4分の2拍子
第4番:アレグレット・グラッティオーソ 変ニ長調 8分の3拍子
第5番:ポーコ・アダージョ 変ロ短調 8分の4拍子
第6番:モデラート・クアジ・ミヌエット 変ロ長調 4分の3拍子
第7番:アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ長調 4分の2拍子
第8番:グラッティオーソ・エ・レント・マ・ノン・トロッポ クアジ・テンポ・ディ・ヴァルセ 変イ長調 4分の3拍子
オーディオ的には実に爽快な体験ができる演奏
ドラティはこの作品をとても大切にしていたようで、調べてみるかかなり数多く録音しています。
- ミネアポリス交響楽団:1958年録音
- バンベルク交響楽団:1974年録音
- ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団:1983年録音
バンベルグ交響楽団との録音は聞いたことがないのですが、一般的には最晩年のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との録音を採るのが一般的でしょう。80年代に入ってからは士気も衰えがたがたになっていたこのオケからこれだけの演奏を引き出すとは、さすがは名の聞こえたオーケストラビルダーだけのことはあります。
この作品の演奏の方向性は、民族的な香りを前面に出すか、音楽がもっている精緻な構成を前面に出すかです。
前者の代表としてあげられるのがノイマン&チェコフィルの録音でしょうか。
後者ならば、セル&クリーブランド管かクーベリック&バイエルン放送響あたりが真っ先に思い浮かびます。
このドラティ&ミネアポリス響の演奏の立ち位置は間違いなく後者です。
しかし、セルやクーベリックと比べればバーバリズムにあふれています。リズムの弾み方が尋常じゃないですし、何よりも目一杯にオケを鳴らし切っています。
それ故に、これを熱気あふれる演奏と評価する向きもあるのでしょうが、それでも勢いを重視するあまり、細かく見れば(細かく見なくても^^;)いささか荒っぽい演奏という印象が拭いきれません。
ただし、そのような印象を持ってしまうのは、私にとっての刷り込みがセル&クリーブランド管だと言うことが原因の一つとなっているのかもしれません。
最初から基準点が北の方角にずれてしまっているのです。
ですから、いくつもスタンダードな演奏を聴いてきた後に、こういう思い切った演奏を聴いてみるのはクラシック音楽の同曲異演を聞く楽しみの一つかもしれません。
ただし、マーキュリーの録音はそう言う荒っぽい部分も含めて実に克明に音を拾っています。
オーディオ的には実に爽快な体験ができます。
もっとも、そう言う特徴は、いつもハイレゾ音源を貶すときに使う言葉・・・「素晴らしい音質で下らない演奏を聴かされるほど空しいことはありません。」に近いものがあるかもしれません。
判断は聞き手の皆様にゆだねます。
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