ウィーンフィルの休日(63年リリース盤)
ケンペ指揮 ウィーンフィル 1961年12月11日~17日録音
Mascagni:L' amico Fritz Intermezzo
Ponchielli:La Gioconda - Dance of the Hours
Gounod:Faust Waltz
BayerDie Puppenfee - Ball et Music
Offenbach:Orphee aux enfers - Overture
ウィーンフィルの休日
この時代はこういう小品集がよく作られました。SP盤の時代は収録時間に限界があるので、そう言う限られた時間内におさまる小品には需要があったのですが、そう言う時代への懐古と言うこともあってか、LPの時代になってもこういう小品集はよく売れたようです。
「ウィーンフィルの休日」と題されたこのアルバムのそのような企画の一つで、録音はすべて1961年の12月に行われたのですが、アルバムとしては62年と63年に分けてリリースされたようです。
収録されていた作品は以下の通りです。
「ウィーンフィルの休日(1)」:1962年発売
- ゴトヴァッツ:『あの世からきた悪漢』より(著作権が切れていないのでアップしていません)
- シューベルト:『ロザムンデ』序曲 D644
- シューベルト:『ロザムンデ』間奏曲第3番変ロ長調
- シューベルト:『ロザムンデ』バレエ音楽第2番ト長調
- グルック:『オルフェオとエウリディーチェ』?聖霊の踊り(モットル編)
「ウィーンフィルの休日(2)」:1963年発売
- マスカーニ:『友人フリッツ』第3幕への間奏曲
- ポンキエッリ:『ジョコンダ』?時の踊り(第3幕)
- フランツ・シュミット:『ノートル・ダム』間奏曲
- グノー:『ファウスト』ワルツ(第2幕)
- ヨーゼフ・バイヤー:『人形の精』バレエ音楽
- オッフェンバック:『地獄のオルフェ』序曲
休日と言いながら、ゴトヴァッツやシュミット、バイヤーの作品が収録されているあたりはかなりマニアックです。なお、ゴトヴァッツに関しては作品そのものの著作権がまだ消失していません(1982年没)のでアップしていません。
芸術がもっている理不尽さと闇に思いをはせる
ケンペと言えばベートーベンやブラームスに代表されるようなドイツ・オーストリア系の正統派の作品を手堅くまとめ上げるというイメージがついて回ります。ついでに付け加えれば、一聴しただけではその良さは伝わらないけれども、何度も繰り返し聞くうちにその真価が理解できる指揮者と言う評価もついて回りました。
ただし、少しばかり嫌みっぽく言えば、これほど情報があふれかえっている世の中で、一度聞いただけでは魅力がストレートに伝わってこないような演奏を、何度も繰り返し聞くような「暇人」がどれほどいるのだろうかと心配になってしまいます。
確かに、ケンペにとっての「本線」とも言うべきベートーベンやブラームスに関しては数多くの名演・名盤に恵まれていますから、その中でどれほど自己主張ができるのかと問われればいささか心許なくなってしまいます。ぱっと聞いただけでその凄みがストレートに伝わってくる演奏はいくつかありますし、さらに言えば、ケンペの持ち味である「一聴しただけではその良さは伝わらないけれども、何度も繰り返し聞くうちにその真価が理解できる」たぐいの(^^;録音ならば数多くあるからです。
ケンペのキャリアを振り返ってみれば、「早すぎる死によって不本意にも最晩年となってしまった60代には巨匠の地位に上り詰める一歩手前までいったものの、その突然の死によって急速に忘れ去られてしまった指揮者」という括りがされてしまいます。
これがベームのように大きな存在になってしまっていれば、その死語に「ベームは二度死んだ」みたいな批判にさらされたのかもしれませんが、ケンペの場合は静かにフェードアウトしていきました。そして、そのような存在であったが故に、己の見識の広さと深さを主張したい人はこういう指揮者を意識的に持ち上げる向きがあります。
もちろん、そのような再発見、再発掘は非常に意義深いことも多いのですが、しかし、改めて彼のベートーベンやブラームスの録音を聞き返してみると、その他の凡百の演奏と同一とまでは言いませんが、数多くあるすぐれた演奏・録音の一つという範疇にとどまるものだと思います。
しかし、不思議なことなのですが、そう言う「本線」以外の演奏になると不要な縛りから抜け出せたのか、意外と面白い録音が目につきます。たとえば、ドヴォルザークの「新世界より」の第2楽章で聞ける深い情感あふれる表現は出色です。第3楽章から最終楽章へと突き進んでいくベルリンフィルからはドイツの田舎オケらしいゴリゴリとした迫力が感じられてこれもまたかなり魅力的です。
私は聞いたことはないので確証はできませんが、ネット情報によると、同じ時期に録音したシューマンの1番なんかもかなり野蛮な演奏だったようです。
しかし、「ウィーンフィルとの休日」と題した61年録音のアルバムなどを聴くと、休日と言いながら、そしてせっかくのウィーンフィルを相手にしながら、律儀さと生真面目さが前面に出てきてしまっていて、悪くはないのですがどこか楽しめない部分が残ってしまいます。
ケンペと言えば相手が女王陛下でもタクシードライバでも全く態度を変えないと言われたジェントルな立ち居振る舞いが評価され、その暖かな人間性も相まって存命中は高い人気を誇った人でした。
ただ残念に思うのは、亡くなった後に作品のみで評価されるようになると、生き残るのはどいつもこいつも「イヤな奴」ばかりだという厳然たる事実です。それは指揮者に限っただけでも、狂犬トス○○ーニや女誑しフルト○○○ラー以降、ほとんど絶対的な真実かと思えるほどです。
ケンペの端正で律儀な音楽を聴きながら、芸術がもっているそう言う理不尽さと闇に思いをはせるというのはかなり屈折した聴き方だとは思うのですが、それでも彼ほどにそう言う理不尽さを体現している指揮者はいないように思います。
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