ホルスト:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32
カラヤン指揮 ウィーンフィル 1961年9月5日~22日録音
Holst:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32 「火星、戦争をもたらす者」
Holst:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32 「金星、平和をもたらす者」
Holst:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32 「水星、翼のある使者」
Holst:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32 「木星、快楽をもたらす者」
Holst:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32 「土星、老いをもたらす者」
Holst:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32 「天王星、魔術師」
Holst:大管弦楽のための組曲「惑星」 作品32 「海王星、神秘主義者」
占星術からイメージされた音楽
ホルストは随分と占星術に凝っていたようで、かなり専門的に勉強もしていたようです。その様な占星術への傾倒の中で生み出されたのがこの組曲「惑星」でした。
ユング君はこういう方面はあまり詳しくないのでよく分からないのですが、占星術ではそれぞれの惑星に固有の性格というかイメージを与えているようです。
その様なイメージを音によって再現して見せたのがこの「惑星」だというわけです。
しかし、よく聞いてみると、ホルストは占星術から多大なインスピレーションは得ていますが、必ずしもそれにとらわれてはいないようです。彼は占星術からのイメージをそれぞれの楽章の標題としていますが、音楽がつむぎだすイメージはより雄大です。
なお、最近になって“冥王星”を付け加えて演奏される機会が増えてきているそうです。ケント・ナガノが作曲依頼をして、ホルスト協会の会長であるコリン・マシューズが新たに作曲したもので、英国ではこのスタイルで演奏することが慣習になりつつあるとか・・・。
正直、この話を聞いてケント・ナガノに対するユング君の評価急降下しました。それこそ、絵に描いたような「余計なお世話」だと思うのですが、いかがでしょうか。
<2006年8月26日追記>
冥王星が惑星の地位から転落して、太陽系の惑星は8個という事になりました。さて、これでケント・ナガノ委嘱によるマシューズ先生の「冥王星」の運命はどうなるのでしょうか?
そんな作品はこの世の中に一度も存在したことなどなかったかのように無視を決め込んで、「僕たち、ずっとホルスト先生の指示通り海王星で演奏を終わってたもんね!!」という態度をとるんでしょうか?
それとも、こういう時こそ根性を見せて、
ホルスト作曲、ケント・ナガノ委嘱によるマシューズ補作:「惑星と矮惑星(ただし、2006年8月の時点において40個以上は発見されていると思われる矮惑星の中ではもっともよく知られていて、一般的には冥王星と名付けられている矮惑星・・・ただし「矮惑星」と言う呼称は2006年8月に行われた惑星の定義確定にともなう中で用いられた暫定的な呼称であるために、今後その呼び方については変更があるかもしれないことに留意されたし」・・・うーーん、長い!!・・・・なんて言う作品名で演奏を続けるのでしょうか?(^^;
だから、いらぬお節介だといったのです。
ちなみに、各曲につけられた標題は以下の通りです。
第1曲:火星 - 戦争の神
Mars, the Bringer of War. Allegro
第2曲:金星 - 平和の神
Venus, the Bringer of Peace. Adagio - Andante - Animato - Tempo I
第3曲:水星 - 翼のある使いの神
Mercury, the Winged Messenger. Vivace
第4曲:木星 - 快楽の神
Jupiter, the Bringer of Jollity. Allegro giocoso - Andante maestoso - Tempo I - Lento maestoso - Presto
第5曲:土星 - 老年の神
Saturn, the Bringer of Old Age. Adagio - Andante
第6曲:天王星 - 魔術の神
Uranus, Magician. Allegro - Lento - Allegro - Largo
第7曲:海王星 - 神秘の神
Neptune, the Mystic. Andante - Allegretto
録音の力を世に知らしめた偉業
イギリスの指揮者は積極的に取り上げていたものの、どうしてもマイナー作品の域を出なかったのがホルストの惑星でした。しかし、このカラヤンの録音によってホルストの惑星は一夜にしてメジャー作品にのし上がってしまいました。そして、日本では、本田美奈子や平原綾香などが取り上げることで、イギリス版ド演歌とも言うべき「木星」は今や知らぬものもないほどの超メジャーな作品になってしまいました。
歴史を振り返ってみると、例えばチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のように「演奏不可能」とか「悪臭を放つ音楽」と酷評されながらも、初演者だったアドルフ・ブロツキーが繰り返し演奏会で取り上げることでその真価が認識されるという例は珍しくありません。
しかし、このホルストの惑星とカラヤンとの関係は、そう言う過去の例とは一線を画すほどの強烈なインパクト持っていました。それは、録音という媒体を使えば一夜にして景色がかわってしまうことを多くの人々に知らしめたのです。そして、その事実は、レコード(録音)とはコンサートへ足を運べない人のための「仕方のない代替物」ではなく、コンサートと肩を並べるもう一つの重要な音楽活動であることを強烈に印象づけたのです。
その意味では、50年代の早い時期から録音の意義を充分に認識していたカラヤンにとっては、ある意味では会心の出来事であったのかもしれません。その意味では、録音の力を世に知らしめた偉業だと言えます。
ただし、演奏に関しては、80年代以降のデジタル録音で鍛えられたオケの演奏を聞き慣れた耳からすれば、このカラヤンとウィーンフィルによる録音はいささか粗っぽく聞こえるかもしれません。そのあたりは、前回に紹介した「交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」にも同じ事が言えます。
カラヤンは、惑星もツァラも80年代にもう一度手兵のベルリンフィルを使って録音しています。それと比べれば、精緻さという点では一歩も二歩もゆずります。
しかし、音楽というものは音符を正確に音に変換しさえすれば、それで優れたもにのになると言うほど単純なものではありません。80年代の録音はそう言う精緻さを得る代わりに、この60年代の録音が持っていたパワーを失ってしまっています。
もちろん、そのパワーを「荒さ」ととらえてこれを好まない人がいても全く怪しみません。
ただ、一つの尺度だけを押しつけてそれで全てを切って捨てれば、聞き手としてもあまりにも多くのものを失うのではないかと懸念します。
50歳を超えたばかりの覇気満々たるカラヤンの、何の衒いもなく音楽を作り上げる魅力を「荒い」のひと言で切り捨てるのはあまりにももったいないともいます。
よせられたコメント
2013-04-07:セル好き
- この演奏を聴いて、ウィーンフィルは、金管などが容赦なく大きな音で演奏するのでそれに合わせて弦楽器しっかり音の出る現代のものを使用して、コンサートマスターは更にはっきりした大きな音を出すために太くて短めのヴィオラの弓を使うという話を思い出しましたよ。
「火星」の金管の鳴り方なんか野蛮な感じがそれらしくておもしろいですが、そこんとこのアンサンブルはセル先生が聴いたら眉をひそめそうです。
この録音セッションのはまり方は、当時のフリッチャイ/ベルリンフィルに匹敵しますね。
2013-04-07:ヨシ様
- 「冥王星」は曲としても不要ですね。
私もそう思います。
ホルストが作曲した「惑星」は、この全7曲なのですから。
2013-04-08:Guinness
- 久しぶりカラヤンの名盤を堪能させて頂きました。ユングさんの音源はなんでしょうか?非常に音が良いのにまず驚いたしだいです。
2013-04-10:ろば
- 8点です。
ホルストの惑星はジョン・ウィリアムズ&ボストン、ハンドリー&ロイヤルフィル、そしてこのカラヤンの3種を拝聴しました。
今のお気に入りはハンドリーのディスクですが、カラヤンのディスクも好んで聴いていました。
最初はウィリアムズのを聴いてハマっていましたが、どこかでカラヤンの評判を聞きつけて購入。
ウィリアムズのとは違って豪快な鳴りっぷりに感心した思い出があります。
惑星はたしか他にも名盤があったように記憶しているので、この機会にまた集めてみようかなと思います。
2014-01-16:nakamoto
- 私にとって惑星と言えば、この録音の事です。その後出た様々な新録音は、カラヤン、ベルリンフィルの物を含めて、私を満足させませんでした。そうあまり精緻でないこの演奏こそ、ホルストが作曲した頃の神秘的な太陽系のイメージを残している、もっとも優れた演奏なのではないでしょうか?ウィーンフィルの柔らかな音も、全くこの曲に合致したものと私は感じています。 作品そのものは、クラシック音楽とは言えないほどの、浅い音楽と私は認識していますが、このカラヤン、ウィーンフィルによってのみ、私の場合は、芸術性を認められます。音の芸術として、永遠に残るものと私は思っています。
2020-06-21:コタロー
- 昔話で恐縮です。約五十年前、私が小学校6年生くらいの頃、当時は天文少年だったので、家に小・中学生向けの天文学事典がありました。そしてその事典には、気が利いたことに天体に関連した音楽についてのページがあり、その中にホルストの「惑星」は、カラヤン指揮ウィーン・フィルの演奏が代表盤であるとの記載があったのです(当時はカラヤン以外にめぼしい演奏が少なかったのでしょうね)。
それから約十年後、私が大学生の頃、キング・レコードからカラヤン指揮ウィーン・フィルのデッカ録音がまとまった形で廉価盤として発売され、その中に例の「惑星」が入っていたのです。私は小学生の頃の記憶がふと蘇って、そのレコードを買いました。当時の私はアンチ・カラヤン(懐かしい言葉ですね)でしたが、ここでのカラヤンのなりふり構わぬ演奏には大いに圧倒されました。ウィーン・フィルも力演で彼の指揮に見事に応えていました。カラヤンを見る目が変わったというのが正直なところでした。
今回改めてこの演奏を聴かせていただき、自分の若かりし頃を思い出してちょっとした感動を覚えた次第です。
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