クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バッハ:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068

リヒター指揮 ミュンヘン・バッハ管弦楽団 1960年6月録音



Bach:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068 「序曲」

Bach:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068 「アリア」

Bach:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068 「ガボット」

Bach:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068 「メヌエット」

Bach:管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068 「ジーグ」


ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品

ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。

そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。

ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。

ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。
疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。

第1番:荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。
第2番:パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。
第3番:この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。
第4番:序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。

私の中では今でもバッハはリヒターを模倣します。


リヒターの管弦楽組曲もパブリックドメインの仲間に入りました。感慨深いモノがあります。
何故ならば、私にとってのこの作品の刷り込みはこのリヒター盤だからです。いや、この組曲だけでなく、マタイもロ短調ミサも、そしてブランデンブルグ協奏曲も、つまりは管弦楽や合唱を伴うバッハの作品は全てリヒターが最初だったのです。

ですから、バッハというのはこのように「厳しいモノ」だという刷り込みができてしまいました。鋭い響きで輪郭線がクッキリと浮かび上がるのがバッハの音楽だったのです。
私がオリジナル楽器による演奏にどうしてもなじめなかったのは、このような刷り込みが原因だったのかもしれません。あの青白く病気のような響きで弱々しく演奏されるバッハには最後まで納得することができませんでした。

確かに、バッハは自分の書いた音楽がこのように荘重に、そして厳しく演奏されることは想像していなかったでしょう。しかし、リヒターにとってバッハとはこのような音楽だったのです。そう言えば、未だ無名だった時代にリヒターは演奏会の合唱メンバーを集めるためにミュンヘンの街角でチラシを配り続けたそうです。とにかく、彼は己の信ずるバッハを演奏したかったのです。
そして、やがて時代は彼のバッハを支持し、彼が信じたバッハの姿が一つのスタンダードとして定着していくまでになります。

彼のバッハ演奏が一つのスタンダードとして定着していっても、彼の演奏の中には何時までも無名時代の良き意味でのアマチュア精神が息づいていました。彼の演奏には常にある種のひたむきさと清冽さが感じられました。

しかし、時代はやがて彼を置き去りにして前に進んでいきます。リヒターは己のバッハ像が次第に時代遅れのモノになるのを感じながらも、それでも新しいバッハ像を納得して受け入れることはできなかったようです。そして、「音楽的能力のない音楽学者があまりにも多すぎる」と批判したことも、彼の焦りといらだちの表れだったのかもしれません。

しかし、「自然は芸術を模倣する」という言い方を援用するならば、私のなかでは何時までもバッハはリヒターを模倣します。
進歩のない男だと言われればそれまでですが・・・。
リヒターとはあまり関係が良くなかったと言われるフィッシャー=ディースカウでさえ「私は多くの人が、リヒターの時代が過ぎ去ってしまったのを嘆いているのを聞きます。」と述べています。

オリジナル楽器による演奏が普通となった時代に育った人々にとっては、この演奏はあまりにも暑苦しく聞こえるかもしれません。金管楽器の響きも鋭すぎて耳障りかもしれません。
しかし、これもまた演奏史において見過ごすことのできない一コマです。
一度は心して、しっかりと聞いてほし演奏だと思います。

よせられたコメント

2013-01-04:ヨシ様


2022-12-10:大串富史


2022-12-17:コタロー


【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-01]

ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)

?>