クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67(Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67)

ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1958年録音(Joseph Keilberth:Hamburg Philharmonic Orchestra Recorded on 1958)



Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [1.Allegro Con Brio]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [2.Andante Con Moto]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [3.Allegro]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [4.Allegro]


極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。

交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。

この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803~4年にかけて創作されています。)

しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。

そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。

その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。

それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)

それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。

この上もなく貴重な田舎オケの風合い


カイルベルトのブラームスの紹介が終わったので、次はベートーベンということになります。
カイルベルトはテレフンケンで1番から8番まで録音が残っています。残念ながら9番だけは彼の早すぎた死に追いつけなかったみたいです。オケは彼に最もなじみのあるバンベルク交響楽団・ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団・ベルリン・フィルハーモニ管弦楽団の3つのオケです。


  1. ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音

  2. ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音

  3. ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1956年録音

  4. ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1959年録音

  5. ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1958年録音

  6. ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68 「田園」:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1960年録音

  7. ベートーベン:交響曲第7番 イ長調 作品92:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ベルリン・フィルハーモニ管弦楽団 1959年録音

  8. ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93:ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1958年録音



さて、ここで我ながら不思議に思ったのは、ブラームスに関しては完全に視野外だったのに対して、ベートーベンに関しては3番「エロイカ」だけがアップされていて、その後長く放置されてしまっているのです。ふつうはエロイカをアップすれば残りの交響曲もアップしてるだろうと思うのですが、・・・これはどうしたことだ?・・・と「エロイカ」のページを確認すると次のようにほざいていました。
前回アップしたブルックナーでは、作品そのものが煉瓦を積み重ねたような構造をしているので演奏そのものもゴツゴツしたものになったのですが、エロイカだとそこまで無骨にはなりません。でも、この「物わかりの良さ」がいささかもの足りず、出来れば、あのブル9のようなごっついエロイカを聞かせてほしかったなとも思います。
ただし、そのあたりがカイルベルトという人の限界だったのかもしれません。


持って回った言い方をしていますが、そのころの私にはこの「エロイカ」はいまひとつ気に入らなかったのでしょう。そう思って、試しに5番「運命」を聞いてみると、なるほど、そういうことかと「ほざいた理由」がなんとなくわかりました。
一言でいえば、カイルベルトの演奏にしては「エロイカ」も「運命」もはいささか「なで肩」だと思ったようなのです。
それゆえに、なんだかカイルベルトのベートーベンって今一つかなと思ってしまったようです。
そして、それ以後の交響曲を紹介するのが後回しになり、その後回しがいつの間にか放置という結果になっていたのでしょう。

そして、今回もう一度聞き返してみたのですが「エロイカ」や「運命」に関しては、その感想は基本的にはあまり変わりませんでした。しかし、まあこういうのもありかなとは思いました。
しかし、それ以外の交響曲に関してはそこまでの不満は感じませんでした。

カイルベルトといえば「武骨」という言葉が常に付きまとうのですが、私は意外と旋律ラインを大切にする人だという思いがあります。そして、その思いが「エロイカ」と「運命」では前に出すぎているような気がするのです。
しかし、それ以外の交響曲に関しては歌心と構成のバランスがうまく取れていて、勁くて伸びやかな音楽が魅力的です。
そう、まさに「強い」のではなく「勁い」のです。「勁い」とは単なる強度ではなくて、芯がしっかりして張りつめているさまをあらわします。つまりは、全体の構成はしっかりとしていながら、その中に豊かでありながらきりっとした歌心が満ちているのです。

そして何よりも聞くべきは、かつてのドイツのオケが持っていた伝統的な響きです。どっしりとした低声部に支えられた生成りの風合いは今では聞くことのできないものです。
昨今のオケは各声部のバランスを完璧に取った上で均等に鳴らすという神業のようなことを平然とやってのけます。結果として、オケの響きは「自然素材の風合い」ではなくて、「クリスタルな透明感」が支配的となります。もちろん、それがどれほど凄いことなのかはよくわかっているつもりです。それは「極上の響き」といってもいいと思っています。

しかし、7番のように、カラヤン統治下にあって未だドイツの田舎オケの風情を残したベートーベンを聞くと、「やっぱりいいなぁ」とほざいてしまうのです。
バンベルク交響楽団とハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団はベルリンフィルと比べれば不満な部分はあるのですが、それでも昔懐かしい田舎オケの風合いは今となってはこの上もなく貴重なものです。
まあ、とにかく1番から順にカイルベルトのベートーベンを聞いてもらいましょう。

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