クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67

セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 ボストン交響楽団 1944年11月23,27日録音





Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [1.Allegro Con Brio]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [2.Andante Con Moto]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [3.Allegro]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [4.Allegro]


極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。

交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。

この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803~4年にかけて創作されています。)

しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。

そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。

その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。

それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)

それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。

バランスの取れた造形


すでに紹介してある1945年録音のエロイカは実に外連味溢れる、けったいな演奏でした。そして、それ以後に紹介したブラームスの1番も劇場受けを狙ったような演奏で、ちょっとばかり困ったものだと思いながら、それ以後は何故かあれこれに紛れてクーセヴィツキーらしい演奏を紹介することもなく放置してしまっていました。

クーセヴィツキーと言えば「速めのイン・テンポ」が特徴と言われる人だったのですが、あのエロイカやブラームスにはそう言う雰囲気は極めて希薄でした。
しかし、最近になってあらためて彼のベートーベン演奏を幾つかまとめて聞き為してみれば、それらは全て直線的でスッキリした造形が極めて現代的ですら有り、今聞いても全く古さを感じさせない見事なものです。

聞き直してみたのは以下の3曲です。


  1. ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36:1938年12月3日&1939年4月12日録音

  2. ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67:ボストン交響楽団 1944年11月23,27日録音

  3. ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93:ボストン交響楽団 1936年12月30日録音



どれもこれも極めて古い録音であり、クーセヴィツキーのもう一つの魅力だと言われた「しなやかでエッジの効いた低声部を大切にし、それを土台として楽器の響きを積み重ねていく」美しさは残念ながら捉え切れていません。
時代の制約で、残念ながらやせ気味の響きで、おそらく実演で聞けばもっと魅力的だろうと思わせられるのですが仕方がありません。

しかし、この推進力に溢れた、極めてバランスの取れた造形はまさにトスカニーニを想起させます。
海の向こうの旧大陸ではフルトヴェングラー、海のこちら側の新大陸ではこういうベートーベンが演奏されていたと思えば、そこに一つの時代の断面を見るお思いがします。

しかし、こうしてクーセヴィツキーらしい真っ当な演奏を紹介できたので少しはホッとしています。
彼の録音ももう少し掘り下げてみなければと感じさせられました。

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