クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シューマン:交響曲第3番 変ホ長調, Op.97「ライン」

カール・シューリヒト指揮:パリ音楽院管弦楽団 1949年6月13日録音





Schumann:Symphony No.3 in E-flat, Op.97, "Rheinische" [1.Lebhaft]

Schumann:Symphony No.3 in E-flat, Op.97, "Rheinische" [2.Scherzo]

Schumann:Symphony No.3 in E-flat, Op.97, "Rheinische" [3.Nicht schnell]

Schumann:Symphony No.3 in E-flat, Op.97, "Rheinische" [4.Feierlich]

Schumann:Symphony No.3 in E-flat, Op.97, "Rheinische" [5.Lebhaft]


祝典的な雰囲気にあふれた作品です

番号は3番ですが、作曲されたのは4曲の交響曲の中では一番最後に作曲されました。

1850年にシューマンはデュッセルドルフ市の音楽監督に就任し、ドレスデンからライン河畔にあるデュッセルドルフに居を移します。これを契機に作曲されたのがこの第3番の交響曲であるために一般に「ライン交響曲」と呼ばれますが、これはシューマン自身が与えた標題ではありません。
ただ、この作品に漂う民族的な舞曲を思わせる雰囲気がライン地方の雰囲気を彷彿させるという話もあるので(私ははその「ライン地方の雰囲気」と言うのがどういうものなのかは分からないのですが・・・)、それほど的はずれの標題ではないようです。

どこか内へ内へ沈み込んでいくようなシューマンの交響曲の中で、この第3番のシンフォニーだけは華やかさをふりまいてくれます。とりわけ最終楽章に響くファンファーレは祝祭的な雰囲気を盛り上げてくれます。それから、この前に置かれている第4楽章は全体の構成から見てみると、「間奏曲」のようなポジションにあることは明らかですが、実際に聞いてみるとこの楽章が一番充実した音楽のように思えます。最後に弦のトレモロにのって第1主題が壮麗な姿で復帰してくるところなどはゾクゾクしてしまいます。

こういう形式はベートーベンが確立した交響曲のお約束からは外れていることは明らかです。ベートーベンの交響曲の継承者はブラームスと言うことになっていて、その間に位置するシューマンは谷間の花みたいな扱いを受けているのですが、こういう作品を聞いてみると、確かに方向性が違うことが納得されます。

「軽み」の芸術


シューリヒトに対するカルショーの酷評については56年録音の「未完成」の時にふれました。そこでカルショーは、「未完成交響曲の第1楽章を、全てテンポの異なる11の解釈で演奏した」と述べていました。
その評価への私なりの思いはその時に記しておいたのですが、もう一つ注目したにのはその「酷評」の前段で「シューリヒトとはパリで仕事をしたことがある」と述べていることです。

このパリでシューリヒトと行った録音というのはいろいろ調べてみたところによると、パリ音楽院管弦楽団を指揮したシューマンの交響曲ではないかと思われるのです。
おそらく、シューマンの交響曲第2番に関しては間違いなくカルショーがプロデューサーを行っています。そして、その録音を聞けば、何故に56年のウィーンフィルとの録音の時にシューリヒトの衰えを感じたのか、分からないでもないなと思ってしまいました。

おそらく、この録音を聞けば少なくない人が驚くでしょう。53年に同じくパリ音楽院管弦楽団を指揮した交響曲第3番「ライン」もまた同様で、それは驚くほどにスッキリとした軽いシューマンだからです。
問題はその「軽さ」です。
この二つのシューマンの録音を聞けばその「軽さ」はより正確に言えば「軽み(かろみ)」と言うべきものだと思われるからです。

「軽さ」と「軽み」はよく似たような佇まいをしている上に、言葉までもが似通っているのですが、その意味するところは全く異なっています。
「軽み」とは物事を深く徹底的に考え抜いた上で、その物事を出来る限り分かりやすく表現することによってもたらされるものです。

人が生きていくと言うことはいろいろ大変なことの連続です。ですから、その大変さを重く難しく語ることは難しそうに見えてそれほど難しいことではありません。
それどころか、その重さや悲惨さの表面だけをなぞってふんぞり返っている人がいたりすると、それは「軽い」奴だと思わずにはおれません。
そう言えば中島みゆきの「女なんてものに」という歌の中で、「女なんてものに本当の心はない」とか「心にもないことを平気で言う」「愛などほしがらない」「涙は売り物だ」といい回る男が登場します。
まさに「軽い」奴の見本みたいなもので、そんな男に「あんたが哀しい」とつぶやくみゆき姐さんの視線は常に鋭いのです。

どれだけ男女の諍いがあっても
「言い勝った女の方も泣いている」
といえるのが「軽み」というものでしょう。

つまりは、物事を深く徹底的に考え抜く人が、その考え抜いた事をこの上もなく的確で分かりやすい言葉で表現するときに、それは「軽み」になるのです。
シューリヒトがスコアと徹底的に向き合い考え抜く人であったことは誰もが同意することでしょう。そして、その結果をそのままに大仰に表現することは常に控えようとした人でした。
「このそびえ立つ小柄な男の仕事ぶりと音楽作りは、作曲家の作品に対して完全に一歩下がった芸術的な謙虚さに特徴があった」とオペラ演出家のルドルフ・シュルツ=ドーンブルクは述べていたそうですが、実にシューリヒトの本質をついた言葉です。

シューマンに代表されるようなロマン派の音楽はのたうち回る人間の悲喜劇をあからさまに描くことに躊躇しなくなった時代の産物です。そして、その「のたうち回る姿」を深く見つめて、「のたうち回る一つドラマ」として表現するのも一つの「解」であることは否定しません。いや、少なくない指揮者がほとんどその様な道を選んでいました。
しかし、シューリヒトのように、最後は一歩さがって「軽み」に達する人は殆どいません。

おそらく、このシューリヒトのシューマンを聴いてあまりにも軽くて物足りないと思う人もいるでしょうが、私は決して「軽い」演奏ではなくて「軽み」に達した演奏であると確信しています。
しかし、その「軽み」に達するには強い集中力が必要ですが、それが常に維持できなくなっていったこともまた否定できません。もしも、そこで集中力を失えば結果として「軽い」音楽になってしまう危険性と常に隣り合わせであったことも見ておく必要があるでしょう。

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