クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K.201 (186a)

シモン・ゴールドベルク指揮:ネーデルラント室内管弦楽団 1958年10月13~15日録音





Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [1.Allegro moderato]

Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [2.Andante]

Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [3.Menuetto: Allegretto; Trio]

Mozart:Symphony No.29 in A major, K.201/186a [4.Allegro con spirito]


シリアスな人間的感情を表現する音楽へと変貌

ザルツブルグ時代のモーツァルトの交響曲の中では、このK.201のイ長調のシンフォニーとK.183のト短調シンフォニーは特別な意味を持っています。それはアインシュタインが、「イタリア風シンフォニーから、なんと無限に遠く隔たってしまったことか!」と絶賛したように、音楽会の始まりを告げる序曲でしかなかったシンフォニーという形式がこの上もなくシリアスな人間的感情を表現する音楽へと変貌したことを表明しているのです。

そして、そのシリアスな表情はこの両端楽章に於いても、ト短調シンフォニーの両端楽想に於いてもはっきりと刻み込まれています。
さらにいえば、ハイドンと較べればやや物足りないと言われるモーツァルトの最終楽章は、このこのシンフォニーの最終楽章においては入念に作り込まれたソナタ形式になっています。

そして、そのシリアスな表現は中間の2楽章に力を及ぼしていて、付点音符を多用したアンダンテ楽章はこの上もなく雄弁に語り続けることで舞踏的な是界から抜け出そうとしてます。
それは続くメヌエット楽章にもおよび、それは既に舞踏の音楽と言うよりは一つのシンフォニックな世界に達しようとしています。

ただし、そう言う交響曲の世界が内包すべき「構築」という抽象性はモーツァルトらしい叙情性にくるまれています。それこそが、ハイドンが為し得なかったことであり、ベートーベンが理解できなかった世界なのでしょう。

  1. 第1楽章:アレグロ・モデラート(ソナタ形式)

  2. 第2楽章:アンダンテ(ソナタ形式)

  3. 第3楽章:メヌエット(複合三部形式)

  4. 第4楽章:アレグロ・コン・スピーリト(ソナタ形式)




底に流れる「風格」のようなものを感じとってほしい


以前に指揮者としてのゴールドベルクを紹介したときに、「意外と知られていない指揮者としての活動」と書いたのですが、考えてみれば山根美代子と再婚して日本に居を移してからは新日本フィルハーモニー交響楽団の指揮活動を行っていたのですから、日本では指揮者としての「ゴールドベルク」はそれなりに認識されていたのかもしれません。しかしながら、彼の指揮者としての活動の原点はやはり「ネーデルラント室内管弦楽団(オランダ室内管弦楽団)」です。
そして、その本領が一番発揮されたのはバッハ演奏だったというのが世間一般の評価らしいです。

確かに、彼のブランデンブルグ協奏曲は「峻厳さだけでないバッハ」の姿を十分すぎるほどに説得力を持って描き出していましたから、その世評は間違いではありません。
しかしながら、数は少ないですが、バッハ以外の録音にも地味ではあるものの優れた演奏を多く残してくれました。残念なのは、ゴールドベルクとネーデルラント室内管弦楽団との結びつきは20年を超えるほどに長いものだったにもかかわらず、その録音はあまり多くは残されていないようなのです。

そんな中で今私の手もとには以下の4つのモーツァルト作品の録音があります。

  1. モーツァルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525

  2. モーツァルト:交響曲第5番 変ロ長調 in B flat K.22

  3. モーツァルト:交響曲第21番 イ長調 K.134

  4. モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K.201 (186a)


「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」はメジャーな作品ですが、それ以外はモーツァルトの交響曲の中でもマイナーな作品です。とりわけ、第5番と第21番はかなりマイナーな作品です。
ゴールドベルクが何故にこのような選曲を行って録音活動を行ったのかは分かりませんが、いわゆる後期の交響曲のようなメジャー作品ではお呼びがかからなかったのかもしれません。

しかしながら、これらの残された録音を聞いてみると、これが実にいい感じの音楽に仕上がっているのです。
基本的に室内管弦楽団ですから、最初からベームやヨッフムのような重量級のモーツァルトになるはずはないことは分かっています。しかし、そのまろやかな響きはモーツァルト的な愉悦感に満ちていて、その底には不思議な風格のようなものが備わっているのです。それは、少年時代のホンのちょっとした小品である第5番の交響曲においても同様です。

この「風格」のようなものって、意外と感じ取れる演奏は少ないのです。言うまでもないことですが、いわゆるピリオド演奏などと言うものに根本的に欠けているのがこの「風格」のようなものです。

そして、考えてみれば、彼はモーツァルトという作曲家が「子供向けの可愛い音楽をたくさん書いた人」としか認識されていなかった戦前において、すでにリリー・クラウスとのコンビで素晴らしいヴァイオリン・ソナタの録音を残していた人なのです。
彼は、モーツァルトという音楽家の真価を早い時期から知り尽くしていた数少ない優れた音楽家の一人でした。それは、あのブラームスが「ほんとうに素晴らしい音楽というものはモーツァルトの音楽のようなものなのだが、幸いにしてほとんどの人がその事を知らないので、私たちのようなものでも作曲家として生きていくことが出来る」と語ったことと肩を並べられるほどのことだったのかもしれません。

ですから、彼のモーツァルトは誰の物まねでもない、彼自身の内面から深く共感した音楽として表現されているのです。
それは、超マイナーな作品ほど、その本領が発揮してくれているように感じます。もちろん、メジャーな「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」や、そこそこ知名度のある29番の交響曲(K.201)においても悪い演奏であるはずはないのです。ただし、そのあたりになるとライバルが多いですね。(^^;

何気に聞き流してしまうと、何とも気持ちよく音楽が流れていくように見えるのですが、その底に流れる「風格」のようなものを感じとってくれると嬉しいです。

よせられたコメント

2020-11-26:joshua


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