マーラー:交響曲第9番
シェルヘン指揮 ウィーン交響楽団 1950年6月19日録音
Mahler:交響曲第9番「第1楽章」
Mahler:交響曲第9番「第2楽章」
Mahler:交響曲第9番「第3楽章」
Mahler:交響曲第9番「第4楽章」
9番の呪い
「9番の呪い」という言葉があるのかどうかは知りませんが、この数字に異常なまでのこだわりを持ったのがマーラーでした。
彼は偉大な先人たちが交響曲を9番まで作曲して亡くなっていることに非常なおそれを抱いていました。ベートーベン、ブルックナー、ドヴォルザーク、そして数え方によって番号は変わりますが、シューベルトも最後の交響曲は第9番と長く称されてきました。(マーラーの時代に「グレイト」が9番と呼ばれていたかどうかはユング君には不明ですが)
そんなわけで、彼は8番を完成させたあと、次の作品には番号をつけずに「大地の歌」として9番目の交響曲を作曲しました。そして、この「大地の歌」を完成させたあと、9番の作曲にとりかかります。
彼は心のなかでは、今作曲しているのは9番という番号はついているが、実は本当の9番は前作は「大地の歌」であり、これは「9番」と番号はついていても、本当は「10番」なんだと自分に言い聞かせながら作曲活動を続けました。
そして、無事に9番を完成させたあと、この「9番の呪い」から完全に逃れるために引き続き「10番」の作曲活動に取りかかります。
しかし、あれほどまでに9番という番号にこだわり続けたにもかかわらず、持病の心臓病が急に悪化してこの世を去ってしまいます。
結局は、マーラーもまた「9番の呪い」を彩る重要メンバーとして、その名を刻むことになったのはこの上もなく皮肉な話です。
しかし、長く伝えられてきたこの「物語り」にユング君はかねてから疑問を持っていました。
理由は簡単です。
死の観念にとりつかれ、悶々としている人間がかくも活発な創造活動を展開できるでしょうか?
ユング君のような凡人にとってはとても創造もできない精神力です。
この第9番の交響曲は、このような逸話もあってか、ながく「死の影」を落とした作品だと考えられ、そのような解釈に基づく演奏が一般的でした。
しかし、「死の影におびえるマーラー」というのが常識の嘘であり、彼の死も、活発に創造活動に取り組んでいる最中での全く予期しない突然のものだったとすれば、この曲の解釈もずいぶんと変わってきます。
果たして、最後の数十小節をかくもピアニシモで演奏をしていいものでしょうか。最近その辺に強い疑問を感じるユング君であります。
下手だが心に残る演奏?
この録音を初めて聞いたときは「これはだめだ!」と思いました。かなりの速いテンポで、さらにライブということを割り引いたとしても、オケがあちこちで完全に破綻しています。こういっては失礼ですが、昨今ならばアマオケでもこれよりはうまいでしょう。
しかし、聞いた後に妙に心に残る演奏であることが不思議でした。
第1楽章のこのテンポは驚異的です。オケはついていくのが精一杯という感じですが、それでもその響きは結構硬質で透明感が保持されています。
これは指揮者のシェルヘンによる強い要請のたまものでしょう。そして、そのような響きとこのテンポで演奏されるこの楽章からは白昼の狂気のようなものが漂ってきます。
続く第2楽章は、まさにウィーンの雑踏を人混みに紛れてさまよい歩く風情があります。歩みは早くて足取りはしっかりしているように見えながら、ここにも狂気の陰がつきまといます。続く楽章は、ごく常識的なテンポで始まったかのように見えて、最後の最後で何かにとりつかれたような感情が爆発します。
さて、問題は最終楽章です。
最近はこの楽章を極限状態ともいえるスローテンポで演奏するのがバーンスタイン以来流行となっています。それはマーラーをとことん主観的に演奏することが主流となった時代の産物であり、それ以前の時代においてはこのテンポはごく常識的なものだったのでしょう。
ワルターによる歴史的な38年の演奏と比べてもほんの少し早いだけです。
そして、このようなテンポで演奏されると、バーンスタインのような超スローテンポの演奏とは違って、最後まで狂気の陰がつきまとうように聞こえることに気づかされました。バーンスタインのように演奏すると、延々と続くピアニシモの底から浄福の世界がわき上がってくるのですが、シェルヘンのように演奏すると救いのない狂気の世界に置き去りにされて音楽は終わってしまいます。
この何ともやりきれない思いが、下手だが心に残る正体なのかもしれません。
名盤としておされることは絶対にない録音でしょうが、この作品の演奏史の中では知っておいてもいい一枚かもしれません。
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