ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調
エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1959年3月12日録音
Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [1.Introduktion: Adagio - Allegro]
Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [2.Adagio: Sehr langsam]
Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [3.Scherzo: Molto vivace (schnell) - Trio: Im gleichen Tempo]
Bruckner:Symphony No.5 in B-flat major, WAB 105 [4.Finale: Adagio - Allegro moderato]
何故か演奏機会の少ない作品です
ブルックナーを心から敬愛する愛好家からは最もブルックナーらしい傑作として高く評価されることの多い作品ですが、何故か演奏機会は多くありません。
その辺の事情は初演時も同じだったようで、途中で第3交響曲の改訂という大きな中断を含みながらも1878年にようやく完成を見たこの作品は、なかなか演奏の機会に恵まれませんでした。
ピアノ編曲による試演などは行われたようですが、本来の形での演奏は1894年にシャルクによって行われました。しかし、当時既に病に伏していたブルックナーはこの演奏会におもむくことができず、翌年にレーヴェによって行われた演奏会にも出かける事はできませんでした。
おそらくブルックナーはこの作品を自分の耳で聞く機会はなかったのではないかと考えられます。
また、シャルクやレーヴェによる演奏も、いつものごとく大幅なカットや改訂が行われていたようです。
その様な不幸な生い立ちがこの作品のポピュラリティを引き下げる要因となったかもしれません。
冒頭の「ブルックナーの霧」が晴れると目の前に巨大なアルプスの山塊がそびえ立つような音楽は、最もブルックナーらしい音楽といえるかもしれません。また、第1楽章も第2楽章もアダージョというのはそう言うブルックナーらしさをより一段と強調しています。
そして、何よりも最終楽章のフィナーレはブルックナー自身が「コラール」と名付けているように、雄大かつ荘厳、壮麗な音楽です。
この長大な音楽を聞き続けてきたものにとって、この最後の場面で繰り広げられる音楽こそは、ブルックナーを聞く最大の喜びだといえます。
<追記>
ある方からメールので以下のようなご指摘をいただきました。
「こんにちは。いつも楽しく聴かせていただいています。Thanks a lot!
ブルックナーのファンとしてひとつ気になったのが、5番の解説で"1楽章も2楽章もアダージョ"と書かれているところです。ご承知のように1楽章はアダージョの序奏を持つアレグロの楽章で、2楽章とは通常のシンフォニーと同じように急ー緩の対比があると思います。1楽章と4楽章が共通のアダージョの序奏を持っていること、4楽章の2重フーガで1楽章のアレグロの楽想が帰ってくるところ、などがこの交響曲を特徴付けていると思うのですが?」
まったくその通りです。
感謝!!
精緻につくり出されたブルックナーのミニチュアを外の世界から眺めているような感覚
少し前になるのですが、この第5番の録音については次のように書いたことがありました。
最後に、死の一ヶ月前に録音された第5番でも、気迫にあふれた迫力満点の演奏を聴かせてくれています。ただし、ライブと言うことなので低域と高域が上手く拾えていない「かまぼこ形」の録音です。おまけに、59年の録音であるにもかかわらずモノラル録音ですから、このコンビによる最大の美質であるオケの響きがすくい取れていません。録音は4種類の中では一番新しいのですがクオリティ的には難ありです。
ですから、この録音を通してベイヌムの演奏に関してあれこれ言うのは控えた方が良さそうです。
ただし、この録音に関わる問題は音源によって随分と違いがあるようで、かなり良質なものがあったのでアップすることにしました。
もちろんモノラルのライブ録音であることには変わりはないのですが、透明感のある見通しの良い音は十分にすくい取れていますし、かまぼこ形と言うほどナローレンジでもありません。
それから、私自身がモノラル録音の再生の仕方が多少はうまくなったと言うこともあります。
モノラルにはモノラルの美質があり、通常のステレオ再生のシステムでそのまま再生しても上手くいかないようです。ただし、そのあたりのオーディオに関わる話はここで詳しく述べることではないので、そう言う事だと結論だけを述べておきます。
それにしても、これは不思議な感覚におそわれる録音です。
演奏のスタイルとしては、一つのブロックが終わると唐突に別のブロックに移っていくというブルックナーの音楽の有り様をそのまま提示しています。その移り変わりの部分を分かりやすく繋いでみようというサービス精神は希薄ですから、その意味では
コンヴィチュニーの録音(61年盤)などと基本的な方向性は同じです。
しかし、その一つずつのブロックの仕上げははるかに丁寧で精緻ですから、聴感上の印象は随分と異なって聞こえます。有り体に言えば、その精緻さが音楽のスケールを小さくしていることは否めません。
そして、録音はモノラルにしては個々の楽器の分離が非常にいいので、その事が結果としていささか窮屈な感じを与えていることもも否めません。
これがもう少し大雑把な録音だという、かえってそう言う整理されきった窮屈さが緩和されるのですが、ここではそう言う部分があからさまになっています。
しかし、そう思いながら聞き進んでいくと、そう言う突き放したような精緻さの中から異なった思いがわき上がってきます。そして、その「異なった思い」の正体がなかなか見極めることが出来ないので困ってしまうのです。
その整理されきった透明感は次第に人間の喜怒哀楽というような感情を拒否していくように感じられます。
そして、音楽がどんどん抽象化していく事によって、音楽が鳴り響いているベースの世界が恐ろしいほどの静けさが満ちてくるような感覚になってくるのです。音は鳴り響いているのにますます静けさが満ちてくるのです。
それを「静けさ」と表現することには躊躇いもあるのですが、それ以外に適切な言葉が見つかりません。
それは、もう少し分かりやすく言い換えれば、別の次元において精緻につくり出されたブルックナーのミニチュアを今ある現の世界から眺めているような感覚と言っていいのかもしれません。
そして、ベイヌムはこのライブ録音からわずか1ヶ月後に、ブラームスの1番のリハーサルの途中で心臓発作で倒れてこの世を去ってしまうのです。
ただし、一つだけ確かなことは、そう言う死を前にした時期でもベイヌムは全く衰えていなかったと言うことです。この整理されきった透明感を最後まで維持していくベイヌムとコンセルトヘボウの集中力は凄いの一言です。
この長大でわけの分からない(^^;交響曲を、ここまで集中力を切らすことなく最後まで精緻にコントロールしきると言うことはなかなか出来るものではありません。
おそらく、自分の命があと一ヶ月しかないなどと言うことは、ベイヌム自身も夢にも思っていなかったことでしょう。
なお、この音源については初出が50年代と70年代という二通りの情報があります。おそらく、もとは放送音源だと思うのですが、その放送音源をもとにLP化したのが70年代なのですが、その後この放送音源そのものから復刻したCDは音源が放送された日を初出として、そこから50年が経過した時点で放送音源をパブリックドメインとしてリリースしたようです。
ここで公開しているのは、その初出が50年代として発売された音源を使っています。
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