クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 op.82

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年2月22日~24日録音



Sibelius: Symphony No.5 in E flat, Op.82; Tapiola, Op.112[1.Tempo molto moderato]

Sibelius: Symphony No.5 in E flat, Op.82; Tapiola, Op.112[2.Andante mosso, quasi allegretto]

Sibelius: Symphony No.5 in E flat, Op.82; Tapiola, Op.112[3.Allegro molto]


影の印象派

この作品はよく知られているように、シベリウスの生誕50年を祝う記念式典のメインイベントとして計画されました。
彼を死の恐怖に陥れた喉の腫瘍もようやくにして快癒し、伸びやかで明るさに満ちた作品に仕上がっています。

しかし、その伸びやかさや明るさはシベリウスの田園交響曲と呼ばれることもある第2番のシンフォニーに溢れていたものとはやはりどこか趣が異なります。

それは、最終楽章で壮大に盛り上がったフィナーレが六つの和音によって突然断ち切られるように終わるところに端的にあらわれています。

そう言えば、「このシベリスの偉大な交響曲を、第3楽章で中断させて公開するという暴挙は許し難い、今すぐ第4楽章も含む正しい姿に訂正することを要求する」、みたいなメールをもらったことがありました。(^^;
あまりの内容に驚き呆れ果てて削除してしまったのですが、今から思えばこの交響曲の「新しさ」を傍証する「お宝級」のメールだったので、永久保存しておくべきでした。

さらに、若い頃の朗々とした旋律線は姿を消して、全体として動機風の短く簡潔な旋律がパッチワークのように組み合わされるようになっています。

また、この後期のシベリウスとドビュッシーの親近性を指摘する人もいます。
シベリウスとドビュッシーは1909年にヘンリー・ウッドの自宅で出会い、さらにドビュッシーの指揮する「牧神の午後」などを聞いて「われわれの間にはすぐに結びつきが出来た」と述べています。

そして、ドビュッシーを「光の印象主義」だとすれば、シベリウスは「影の印象主義」だと述べた人がいました。
上手いこというもので、感心させられます。

まさにここで描かれるシベリウスの田園風景における主役は光ではなく影です。
第4番シンフォニーではその世界が深い影に塗りつぶされていたのに対して、この第5番シンフォニーは影の中に光が燦めいています。

シベリウスは日記の中で、この交響曲のイメージをつかんだ瞬間を次のようにしたためています。
それは1915年の4月21日、午前11時10分前と克明に時刻まで記した出来事でした。

シベリウスの頭上を16羽の白鳥が旋回しながら陽光の照る靄の中に消えていったのでした。その銀リボンのように消えていく白鳥の姿は「生涯の最も大きな感銘の一つと」として、次のように述べています。
日はくすみ、冷たい。しかし春はクレッシェンドで近づいてくる。
白鳥たちは私の頭上を長い間旋回し、にぶい太陽の光の中に銀の帯のように消えていった。
時々背を輝かせながら。白鳥の鳴き声はトランペットに似てくる。
赤子の泣き声を思わせるリフレイン。
自然の神秘と生の憂愁、これこそ第5交響曲のフィナーレ・テーマだ。

この深い至福の時はこの交響曲のフィナーレの部分に反映し、そしてその至福の時は決然たる6つの和音で絶ちきられるように終わるのです。

カラヤン的に再構築されたシベリウス


カラヤンのシベリウスと言えば、この4番と5番のセットの後に録音された6番と7番のセットが名盤として名高いようです。
聞いてみればすぐに分かることなのですが、響きの美しさにこだわり続けたカラヤンの美学とシベリウスの特質がものの見事にマッチした素晴らしい演奏と録音になっています。カラヤンは50年代のフィルハーモニー管時代から晩年の80代までに切れ目無くシベリウスの作品を取り上げているのですが、この60年代の一連の録音がもっとも上手くいっているように思います。

今さら言うまでもないことですが、4番と5番は対照的な雰囲気を持っています。
生死の境をさまよった後に作曲された4番は、シベリウス作品の中ではもっとも晦渋な佇まいをもっているのに対して、5番の方はそれとは対照的な祝典的雰囲気に溢れた音楽になっています。専門家筋の間では、この4番の晦渋さこそがシベリウスの最高傑作と言われるのですが、実際に聞いてみて、素直に心の底から「いい音楽だなぁ!」と思える人は多くはないでしょう。

それは私もそうであって、今まで聞いた中で唯一感心したのはヘルベルト・ケーゲル&ライプチッヒ放送交響楽団による69年盤くらいしかありませんでした。しかし、あれがシベリウスの4番の理想的な演奏なのかと問われれば、それはもう即座に「No!」と答えるでしょう。
つまりは、あれを聴いて感心したのはシベリウスではなくてケーゲルだったからです。
もう少し分かり安く言いかえると、あそこではケーゲルはシベリウスの4番を素材として、結局はケーゲル自身の音楽を再構築しちゃっていて、聞き手である私はその再構築したケーゲルの音楽に感心させられてしまっていたのです。

ですから、あれをシベリスの4番の理想的な演奏などとは全く思えませんでしたが、心底感心させられたことは間違いありません。

そして、もしかしたら、このカラヤン盤もまた方向性はケーゲルとは真逆なまでに異なっていますが、音楽の作り方は非常に通っているのかもしれません。
ここでのカラヤンもまた、シベリウスの4番を素材として、そこから己の感覚で美しいと思える響きを上手く再構築して連ねることで、カラヤン的な美しさに溢れた音楽に仕上げています。結果として、この作品につきまとう晦渋さは姿を消して、実に聞きやすく美しい音楽にしあがっています。
ですから、この演奏を取り上げて響きの美しさにこだわりすぎてノッペリしすぎなどというのは、カラヤンの意図を無視して自分の好みで好き嫌いを言っているだけのことに過ぎないのです。個人的には、こういうアプローチもあっていいのではないかとは思います。
なんと言っても、この晦渋なことで有名な交響曲が美しく、そして楽しく聞けるのですから。

なお、5番の方は、そこまで無理をしなくても美しい部分が満載の交響曲ですから、祝典的雰囲気がカラヤン的な豪華さと相まって楽しい演奏と録音になっています。

よせられたコメント

2016-02-25:emanon


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