クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98

ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1963年7月11日,13日録音



Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [1.Allegro non troppo]

Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [2.Andante moderato]

Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [3.Allegro giocoso]

Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [4.Allegro energico e passionato]


とんでもない「へそ曲がり」の作品

ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。

 この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
 形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
 それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。

 
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。

 この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。
 冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!

 それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
 新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?

 控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。

「幻」の全集


ドラティのブラームス交響曲全集には「幻」という言葉が冠せられることが多いようです。まあ、こう言えば聞こえはいいのですが、要はほとんど話題になることもなく「無視」されてきた録音だと言うことです。

確かに、ドラティと言えばまずはハイドン、そしてストラヴィンスキーのバレエ音楽、さらには同郷のバルトークやコダーイなんかに優れた適正を示したという印象はあっても、ベートーベンやブラームスみたいなドイツ・オーストリア系の正統派(ってなにが正統なのよ・・・という正統な突っ込みはひとまず脇において)音楽とはなんだかミスマッチな気がします。

ところが、実際に聞いてみると、例えばベートーベンなんかは確かにガタイは小さいのですが、とんでもなくパキパキとした演奏で、よく言えばリズムが立っているというのか、とにかくオケの整理の仕方が尋常ではないのです。ある意味では後年の古楽器による演奏を思わせる風情があるのですが、根本的にオケの響きのクオリティが違います。どの録音を聞いても最後のフィナーレでは見事なまでの盛り上がりを聞かせてくて、レイホヴィッツの録音などと同様に時代の制約を超えた演奏だと言えます。

そして、それとほぼ同じ事が、このブラームスの録音にもいえます。
ドラティによるブラームスは以下のような順で録音されています。


  1. ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73・・・ミネアポリス交響楽団 1957年12月12日録音

  2. ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68・・・ロンドン交響楽団 1959年6月16日&18日録音

  3. ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98・・・ロンドン交響楽団 1963年7月11日&13日録音

  4. ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90・・・ロンドン交響楽団 1963年7月13,14日&16日録音



最初の第2番だけが手兵のミネアポリス交響楽団を使い、残りの3曲はロンドン交響楽団を使っています。
ドラティはミネアポリス交響楽団を1960年まで率いていたので、少なくとも59年録音の第1番ではこの手兵を使って録音するのが普通だと思うのですが、その普通のことをしなかったあたりにドラティの意気込みみたいなものを感じます。

この全集の録音プロデューサーは全てウィルマ・コザードです。
コザードは、モノラルならば一本のマイク、ステレオ録音になってからは左右に一本ずつ追加して合計で3本というスタイルを厳格に守り続けた人です。いわゆるワンポイント録音という手法で、3トラックに録音した音を2チャンネルにトラックダウンするだけですから、録音してからの調整などはほとんどできません。
ですから、録音してからいかようにも料理できるマルチマイク録音と違って、演奏する側に一切の誤魔化しを許さない録音スタイルでした。

ですから、上手に化粧を施された最新録音を聞きなれた耳からすれば、ミネアポリス交響楽団との録音は「荒さ」みたいなものを感じるのですが、誤魔化し無しでこれだけ演奏できれば実は大したものなのです。
しかし、残りの3曲をロンドン交響楽団で聴いてしまうと違いは歴然としてしまいます。この時代のロンドン響は凄いのです。

ドラティという人は「オーケストラ・ビルダー」であると同時に本職の「作曲家」でもあったのですが、そういう現在の作曲家としての目で音楽を一から見直せば鋭い切れ味抜群のリズムとテンポで音楽を再構築したくなるようです。そして、その本能を満たすにはミネアポリスのオケでは役不足と感じたのでしょう。

特に、63年にまとめて録音された3番と4番は実に素晴らしい演奏です。
個人的には、第3番の最後の二つの楽章がとりわけ気に入りました。そう言えば、このピアニシモで終わるこのフィナーレが苦手で、聞くと必ず眠ってしまうなんて書いたことがあったのですが、ドラティとロンドン響との演奏ではそんな愚かなことは絶対に起こりません。
第4番の第2楽章のしみじみした雰囲気も秀逸なのですが、それよりも決して「枯れてはいない」ブラームスの姿がはっきりと聞き取れる音楽の作りが実に凄いです。

この二つの録音がなければ、いささか行儀のよすぎる1番のロンドン響よりも、ある程度の「荒さ」が牧歌的な第2番に妙にマッチしているミネアポリスの方が好ましく思う面もありました。
しかし、63年に録音された二つのブラームスの世界は、残念ながらミネアポリスとのオケでは実現できない世界であったことは否定しようがありません。
長く無視されながらも最近になって「幻」という定冠詞がついた所以でもあったのでしょう。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-01]

ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)

?>