ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」
ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1962年7月15日~25日録音
Beethoven:Symphony No.6 in F Major Op.68 "Pastoral" [1st movement]
Beethoven:Symphony No.6 in F Major Op.68 "Pastoral" [2nd movement]
Beethoven:Symphony No.6 in F Major Op.68 "Pastoral" [3rd movement]
Beethoven:Symphony No.6 in F Major Op.68 "Pastoral" [4th movement]
Beethoven:Symphony No.6 in F Major Op.68 "Pastoral" [5th movement]
標題付きの交響曲
よく知られているように、この作品にはベートーベン自身による標題がつけられています。
第1楽章:「田園に到着したときの朗らかな感情の目覚め」
第2楽章:「小川のほとりの情景」
第3楽章:「農民の楽しい集い」
第4楽章:「雷雨、雨」
第5楽章:「牧人の歌、嵐のあとの喜ばしい感謝の感情」
また、第3楽章以降は切れ目なしに演奏されるのも今までない趣向です。
これらの特徴は、このあとのロマン派の時代に引き継がれ大きな影響を与えることになります。
しかし、世間にはベートーベンの音楽をこのような標題で理解するのが我慢できない人が多くて、「そのような標題にとらわれることなく純粋に絶対的な音楽として理解するべきだ!」と宣っています。
このような人は何の論証も抜きに標題音楽は絶対音楽に劣る存在と思っているらしくて、偉大にして神聖なるベートーベンの音楽がレベルの低い「標題音楽」として理解されることが我慢できないようです。ご苦労さんな事です。
しかし、そういう頭でっかちな聴き方をしない普通の聞き手なら、ベートーベンが与えた標題が音楽の雰囲気を実にうまく表現していることに気づくはずです。
前作の5番で人間の内面的世界の劇的な葛藤を描いたベートーベンは、自然という外的世界を描いても一流であったと言うことです。同時期に全く正反対と思えるような作品を創作したのがベートーベンの特長であることはよく知られていますが、ここでもその特徴が発揮されたと言うことでしょう。
またあまり知られていないことですが、残されたスケッチから最終楽章に合唱を導入しようとしたことが指摘されています。
もしそれが実現していたならば、第五の「運命」との対比はよりはっきりした物になったでしょうし、年末がくれば第九ばかり聞かされると言う「苦行(^^;」を味わうこともなかったでしょう。
ちょっと残念なことです。
時代を超えた演奏
残念なことにほとんど話題にならない録音です。
どこかにも書いたことがあるのですが、この60年代の初頭というのはベートーベン激戦区の時代です。全集だけでも、思いつくだけで以下の通りです。
- クリュイタンス指揮 ベルリンフィル 1957年~1961年録音
- クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1957年~1961年録音
- シューリヒト指揮 パリ音楽院管弦楽団 1957年~1958年録音(これのみモノラル録音)
- ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1958年~1959年録音
- コンヴィチュニー ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管 1959年~1961年録音
- レイホヴィッツ指揮 ロイヤルフィル 1961年録音
- クリップス指揮 ロンドン交響楽団 1961年録音
- カラヤン指揮 ベルリンフィル 1961年~1962年録音
ここに、セル&クリーブランド管やバーンスタイン&ニューヨークフィルなどの録音も始まっていて参入してきていました。
そう言う中に、ドラティ&ロンドン響と言う地味な組み合わせで5番「運命」・6番「田園」・7番という3作品だけで参入してもなかなか話題になるのは難しかったでしょう。
ですから、私も一連のドラティの録音を漁っている中ではじめて聞きました。
そして、本当にびっくりしてしまいました。
聞く前から想像されたことですが、とんでもなくパキパキとした演奏です。よく言えばリズムが立っているというのか、とにかくオケの整理の仕方が尋常ではないです。そして、その整理されきったオケの響きをとらえるマーキュリーの録音が尋常ではない凄さです。この録音に古さを感じる人もいりようなのですが、とても私には信じられません。
はっきり言って音楽のガタイは小さいです。そう言う意味では後年の古楽器による演奏を思わせる風情があるのですが、根本的にオケの響きのクオリティが違います。ここでは、あんな風邪をひいたオケみたいな貧相な音はどこを探しても見つかりません。そして、どの録音も最後のフィナーレは見事なまでの盛り上がりを聞かせてくれます。
この3つの録音の中では一番行儀が良くてこぢんまり感の強い7番でも、最後のフィナーレは堂々たるものです。
そう言う意味では、これを60年代の初頭においてみると、レイホヴィッツの録音などと同様に時代の制約を超えた演奏だと言えます。
オーケストラの実際の響きというのは意外と「軽い」です。
これは、コンサートによく足を運ぶ人にとっては常識なのですが、常日頃はオーディオでしか音楽を聴かない人がたまにコンサートに出かけると「低域が不足している!」などと叫んでしまうことが多いようです。(ついでに言えば「定位が甘い」もあるそうです)
笑ってしまいますが、笑ってはいけないですね。
でも、このマーキュリーの録音は、そう言う実際のオケの響きを質に上手くすくい取っています。見事なものです。6番「田園」の清涼感あふれる響きを聞かされると、実際のロンドン交響楽団はどれほど素晴らしい響きを実現していたんだろうと思わずにはおれません。5番「運命」の響きも同様です。
そして、ドラティの指揮はそのような機能性に徹しているように見えながら、その背景から彼の人間性がにじみ出てくるような味わいも不足していないのです。
全く持ってたいした指揮者です。
よせられたコメント
2020-02-11:Sammy
- オーケストラの重量感と技量の高さ、指揮者の明瞭で鋭い表現、くっきりした録音が相まって、作品が洗い直されたフレッシュで迫力のある形で眼前にまざまざと示される、新鮮な演奏と聞きました。作品の核心に向かって研ぎ澄まされていくような感じがあり、仰る通り、次世代に聞き継がれるべき名演のひとつ、と思います。
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