チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
メンゲルベルク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1941年4月22日録音
Tchaikovsky:交響曲第6番「第1楽章」
Tchaikovsky:交響曲第6番「第2楽章」
Tchaikovsky:交響曲第6番「第3楽章」
Tchaikovsky:交響曲第6番「第4楽章」
私は旅行中に頭の中でこれを作曲しながら幾度となく泣いた。
チャイコフスキーの後期の交響曲は全て「標題音楽」であって「絶対音楽」ではないとよく言われます。それは、根底に何らかの文学的なプログラムがあって、それに従って作曲されたというわけです。
もちろん、このプログラムに関してはチャイコフスキー自身もいろいろなところでふれていますし、4番のようにパトロンであるメック夫人に対して懇切丁寧にそれを解説しているものもあります。
しかし6番に関しては「プログラムはあることはあるが、公表することは希望しない」と語っています。弟のモデストも、この6番のプログラムに関する問い合わせに「彼はその秘密を墓場に持っていってしまった。」と語っていますから、あれこれの詮索は無意味なように思うのですが、いろんな人が想像をたくましくしてあれこれと語っています。
ただ、いつも思うのですが、何のプログラムも存在しない、純粋な音響の運動体でしかないような音楽などと言うのは存在するのでしょうか。いわゆる「前衛」という愚かな試みの中には存在するのでしょうが、私はああいう存在は「音楽」の名に値しないものだと信じています。人の心の琴線にふれてくるような、音楽としての最低限の資質を維持しているもののなかで、何のプログラムも存在しないと言うような作品は存在するのでしょうか。
例えば、ブラームスの交響曲をとりあげて、あれを「標題音楽」だと言う人はいないでしょう。では、あの作品は何のプログラムも存在しない純粋で絶対的な音響の運動体なのでしょうか?私は音楽を聞くことによって何らかのイメージや感情が呼び覚まされるのは、それらの作品の根底に潜むプログラムに触発されるからだと思うのですがいかがなものでしょうか。
もちろんここで言っているプログラムというのは「何らかの物語」があって、それを音でなぞっているというようなレベルの話ではありません。時々いますね。「ここは小川のせせらぎをあらわしているんですよ。次のところは田舎に着いたうれしい感情の表現ですね。」というお気楽モードの解説が・・・(^^;(R.シュトラウスの一連の交響詩みたいな、そういうレベルでの優れものはあることにはありますが。あれはあれで凄いです!!!)
私は、チャイコフスキーは創作にかかわって他の人よりは「正直」だっただけではないのかと思います。ただ、この6番のプログラムは極めて私小説的なものでした。それ故に彼は公表することを望まなかったのだと思います。
「今度の交響曲にはプログラムはあるが、それは謎であるべきもので、想像する人に任せよう。このプログラムは全く主観的なものだ。私は旅行中に頭の中でこれを作曲しながら幾度となく泣いた。」
チャイコフスキーのこの言葉に、「悲愴」のすべてが語られていると思います。
メンゲルベルクの代表盤
メンゲルベルクと言えば「悲愴」、そしてSP盤の時代は「悲愴」と言えばメンゲルベルクでした。作品の雰囲気がメンゲルベルクの資質とピッタリと合っているようで、マーラーの4番とならんで彼の代表作ではないかと思います。
ただし、録音に関してはいくつかのややこしい問題が存在しています。
メンゲルベルクは悲愴を1937年と1941年に録音していて、一般的に有名なのは古い方の1937年盤です。ところが、後年LP盤として復刻されたときに1937年盤と称しながら部分的に41年の録音を使用するという「掟破り」をやってしまい、さらにそれが世間一般に1937年盤として流通してしまったのです。流用したのは第1楽章の後半と第3楽章全体と言うことですから、それは傷を手直しするためのやむを得ない措置でないことは明らかです。
そんなわけで、純正の1937年盤を聞こうと思うと、今日ではオーパス蔵の復刻CDを聞くしかないようです。
ただし演奏に関してはこの両者は基本的なコンセプトに大きな差はないようです。どちらかと言えば41年盤の方がゆったりとしたテンポで晩年のメンゲルベルクらしい演奏に仕上がっています。それから録音に関しては、4年の差はけっこう大きくて、ここでお聞きいただいている41年盤の方がはるかに優秀です。
ユング君の感想としてはこの音質のメリットはかなりい大きいと思いますので、41年盤の方が彼の代表盤としてはふさわしいのではないでしょうか。
よせられたコメント
2009-09-24:Us
- 音質では後年の巨匠たちの演奏に劣るけど、それを踏まえても最高の《悲愴》の1つであることは間違いないと思います。フリッチャイやムラヴィンスキー、さらに最近ではゲルギエフなども素晴らしい演奏を残してはいますが、やはりメンゲルベルクと同じ土俵では語れません。この録音は、本当の(古楽器等ではない)19世紀的な空気を味わえる最後の演奏だと思います。
2016-12-16:fum
- この時代の巨匠が演奏する「悲愴」は本当にバラエティーに富んでいる。
メンゲルベルク盤とともに「名演」と並び称されるフルトヴェングラー、アーティキュレーションの激しさでは本盤を上回るであろうアーベントロート、抱腹絶倒と言っては失礼だが、いささかやり過ぎ感のあるゴロヴァノフ、どれを取っても現代では考えられない強烈な個性を持った演奏である。
これらの中にあって、メンゲルベルク盤の美しさは突出している。前時代的とか、時代遅れとか、絶対やってはいけない演奏とか、悪評もいろいろ聞こえてくるが、誰が何と言おうと美しいのだから仕方がない。確かにもう二度とこのような演奏をする指揮者は現れないだろう。世界遺産とも言うべき歴史的名演である。
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)