ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68
ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1959年11月25日録音
Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第1楽章」
Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第2楽章」
Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第3楽章」
Brahms:交響曲第1番 ハ短調 作品68 「第4楽章」
ベートーヴェンの影を乗り越えて
ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。
彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。
この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。
確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。
彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。
しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。
ユング君は、若いときは大好きでした。
そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
それだけ年をとったということでしょうか。
なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。
回想の音楽
ブラームスの1番というのは良くも悪くも「青春の歌」です。青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感が作品全体を貫いていて、それ故に若い頃にこの作品を聞くとそこに己の人生を投影することはいとも容易いことです。しかし、年をとると、そこに己を投影することは次第に困難になっていき、やがては鬱陶しくなってきます。
そう言う音楽です。
ワルターがこれを録音したのは亡くなる3年前の1959年ですから、すでに83歳にならんとする頃です。
当然のことながら青春の思い詰めた緊張感はありません。それ故に、年寄りが聞いても決して鬱陶しくなることはありませんが、逆に言えば、そこに人生を投影したい向きには「カスみたいな演奏」です。
おまけに、例えば最終楽章のコーダに入る直前でグッとテンポを落としてタメを作ったりするところなどは、何とも言えず古くさい造形でうんざりする人も多いでしょう。ちなみに、これと同じような表現はワルター&コロンビア響との録音では至る所に顔を出すので、言ってみれば古くさいワルターの「癖」みたいなものなのでしょう。
つまりは、この演奏は、青春のまっただ中にある人間による造形ではなくて、それを過ぎ去った遠い過去として回想する人間による造形なのです。
「人は一生に同じ物を3回見る。一度目は発見の喜びで見つめ、2度目はそれをじっくりと確かめ、そして最後に見納めだと思って見つめる」
疑いもなく、ワルター&コロンビア響による演奏は、見納めの造形です。
20年前の私なら、絶対に願い下げの録音だったでしょう。しかし、20年の歳月は人を変えるには充分な時間です。
今の私には実に好ましく思えます。
ただし、その事をもってして「深みがました」などと言うのは年寄りの傲慢でしょう。それだけは自戒しなければいけないと思っています。
よせられたコメント
2013-02-17:oTetsudai
- 巨匠による堂々たる名演です。元々私は若いときからレコードに高額出費をするなら巨匠のものをと決めていたので違和感は全くありません。この曲自体(私は)人生を過ごして年老いて最後に故郷に戻るというイメージをもっているので、言葉に違和感はありますが「カスみたいな演奏」でかまわないのです。最終楽章の冒頭でベートーベンの第九らしき響きのところに来るといつも「ああ、帰ってきた」という気持ちになります。それにワルターの指揮はこういうテンポで演奏してほしいという希望通りの演奏をしてくれました。ブラームスは音楽家としては成功ですが恋愛については挫折していますからその作品の中で敗者への共感を入れ込んでいると勝手に思い込んでいます。
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)