クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68 「田園」

コンヴィチュニー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1959年~1961年録音





Beethoven:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第4楽章」

Beethoven:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第5楽章」


標題付きの交響曲

よく知られているように、この作品にはベートーベン自身による標題がつけられています。

第1楽章:「田園に到着したときの朗らかな感情の目覚め」
第2楽章:「小川のほとりの情景」
第3楽章:「農民の楽しい集い」
第4楽章:「雷雨、雨」
第5楽章:「牧人の歌、嵐のあとの喜ばしい感謝の感情」

また、第3楽章以降は切れ目なしに演奏されるのも今までない趣向です。
これらの特徴は、このあとのロマン派の時代に引き継がれ大きな影響を与えることになります。

しかし、世間にはベートーベンの音楽をこのような標題で理解するのが我慢できない人が多くて、「そのような標題にとらわれることなく純粋に絶対的な音楽として理解するべきだ!」と宣っています。
このような人は何の論証も抜きに標題音楽は絶対音楽に劣る存在と思っているらしくて、偉大にして神聖なるベートーベンの音楽がレベルの低い「標題音楽」として理解されることが我慢できないようです。ご苦労さんな事です。

しかし、そういう頭でっかちな聴き方をしない普通の聞き手なら、ベートーベンが与えた標題が音楽の雰囲気を実にうまく表現していることに気づくはずです。
前作の5番で人間の内面的世界の劇的な葛藤を描いたベートーベンは、自然という外的世界を描いても一流であったと言うことです。同時期に全く正反対と思えるような作品を創作したのがベートーベンの特長であることはよく知られていますが、ここでもその特徴が発揮されたと言うことでしょう。

またあまり知られていないことですが、残されたスケッチから最終楽章に合唱を導入しようとしたことが指摘されています。
もしそれが実現していたならば、第五の「運命」との対比はよりはっきりした物になったでしょうし、年末がくれば第九ばかり聞かされると言う「苦行(^^;」を味わうこともなかったでしょう。
ちょっと残念なことです。

大物に互しても存在価値のある全集


振り返ってみれば、1950年代の後半から1960年代の初頭、言葉をかえればモノラル録音からステレオ録音へと移行していった時期というのは、とてつもなく凄い時代だったと言うことに気づかされます。
例えば、ベートーベンの交響曲全集という、このクラシック音楽の王道を概観するだけでも、これだけの録音がリリースされています。


  1. クリュイタンス指揮 ベルリンフィル 1957年~1961年録音 

  2. クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1957年~1961年録音

  3. シューリヒト指揮 パリ音楽院管弦楽団 1957年~1958年録音(これのみモノラル録音)

  4. ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1958年~1959年録音

  5. コンヴィチュニー ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管 1959年~1961年録音

  6. レイホヴィッツ指揮 ロイヤルフィル 1961年録音

  7. クリップス指揮 ロンドン交響楽団 1961年録音

  8. カラヤン指揮 ベルリンフィル 1961年~1962年録音




調べれば他にもあるのかもしれませんが、わずか5年間の間にこれだけも多様性のあるベートーベン像が提供されたというのは壮観というしかありません。
明晰さの極みともいうべきクリュイタンス盤、巨大な構築物として偉容を示したクレンペラー盤、ピリオド楽器による演奏でさえ裸足で逃げ出していきそうな快速演奏のレイホヴィッツ盤、そこまでじゃないけれど若々しくてスピーディーなベートーベンを提起したカラヤン盤・・・等々です。
そう言う多様性の中に、この「コンヴィチュニー&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管」の演奏を置いてみると、どのように映るのでしょうか。

パッと聞いただけでは、いささか特徴に乏しい演奏のように聞こえます。言葉をかえれば、聞き手の耳をさっと捕まえてしまうような魅力には乏しいかもしれません。
確かに、こうして並べてみると、クリップスやワルターの演奏はいささか分が悪いことは否めません。シューリヒトも、かなり状態の悪いモノラル録音ということで、「ステンドグラスのようなベートーヴェン像」もいささかくすみ気味なのが残念です。

しかし、コンヴィチュニーの録音は、聞き手の耳をすぐに虜にするような愛想の良さや声高な主張はありません。しかし、結局は最後まで聞かされて、その後には大きな満足感が残るという「大人の演奏」に仕上がっています。
もしかしたら、「今日はベートーベンでも聴いてみようか・・・!」と思い立った時に、結局は手が伸びる回数が一番多くなるという録音かもしれません。

俗な言い方をすれば、噛めば噛むほど味の出る演奏です。

では、その味とはどんなものでしょう?

まず、すぐに気がつくのは、今ではなかなか聞くことのできなくなったふくよかで暖かみのあるオケの響きの素晴らしさです。きらきらした華やかさとは正反対の厚みのある響きです。弦もいいですが、特に木管群の響きが魅力的です。
昔のヨーロッパのオケというのは、みんなこんな響きを持っていたのですが、いつの間にか華やかであってもどこかメタリックな感じの響きに変化してしまいました。
確かに、昨今のオケと比べれば機能的とは言えないのでしょうが、それでもこの生成りのザラッとしたような響きは魅力的です。そして、馬鹿ウマではないけれども、内部の見通しも良く透明感も失っていません。
まずは、これが味の一つめでしょうか。

二つめは、やはりドイツの力こぶ!
これはもう説明の必要はないでしょう。ドンと構えていて、ここぞというところではぐっと力こぶが入る演奏というのは、聞けそうでいて、現実にはなかなか聞けない音楽です。セル&クリーブランド管などが典型なのですが、グンとパワーが入っても最終的にはスタイリッシュに格好良く決まってしまうのです。もちろん、それはそれでいいのですが、時にはこういう「野蛮さ」みたいなモノが残っている演奏も聴いてみたくなります。
しかし、例えば田園の第2楽章や終楽章の牧人の歌などどを聞くと意外なほどに優しさにあふれていて驚かされたりします。
そう言えば、テンシュテットが録音した田園も同じような歌心に満ちた演奏で、最後の牧人の歌は神に呼びかけるような崇高さにあふれていたのを思い出しました。もしかしたら、東独ではベート?ベンの田園をこんな風に演奏する伝統でもあったのでしょうか。
とは言え、このコンヴィチュニーの基本は緩除楽章も「淡麗辛口」です。
お子様向きではありません。

そして最後にあげておきたいのが、隅々まで指揮者の指示が行き届いていて、まさにコンヴィチュニーという指揮者が信じるベートーヴェン像がか確固として提示されていることです。そして、その解釈が(これもまた好きな言葉ではないのですが)、この時代にまで連綿と引き継がれてきた伝統的なベートーベン像を見事なまでに具体化してくれているということです。
まあ、こういう言い方だけでは何も言っていないのに等しいのですが、一つ一つのフレーズや響きには(おそらくは劇場的な継承として伝統的に引き継がれてきたであろう)微妙なニュアンスが込められていて、この録音に向けてさぞや何度も練習を積み重ねただろうなと思わせられます。

そんなわけで、同時代の大物に混じると地味で目立たない全集ではあるのですが、内容的には充分五分に渡り合えるだけの「格」を持った録音であることは保障できます。

よせられたコメント

2012-03-31:BIWAKO


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