ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
(P)マルセル・メイエル 1954年3月5日〜8日録音
Ravel:高雅で感傷的なワルツ
シューベルトを手本に・・・?
「高雅で感傷的なワルツ」というタイトルはラヴェル自身が語っているようにシューベルを意識したものです。シューベルトの「高貴なワルツ」や「34の感傷的なワルツ」が意識されていることは間違いありません。
オーケストラ用に編曲してバレエ曲に仕立てたときも「王政復古期、男心をまどわせる美女の客間」という設定を与えているように、この作品は一見すると回顧趣味に彩られているように見えます。
しかし、回顧趣味に見えるのは表面だけの話で、実際の「音」を耳にすると、その響きという点では実に斬新です。私は和声の難しいことは分かりませんが、ラヴェルの商標とまで言われた長7度の幻想的な響きがあちこちで聞かれますし、「寒そうに肩をすぼめた羞恥心」と言われた2度の響きもあちこちに散りばめられています。そこへ、中庸の速さで・・・なんて注意書きをされたりしているので、何だか曲によっては単調な音楽のように・・・コルトーが「レントラーの連続」と評したように・・・聞こえたりします。
個人的にはいささか取っつきにくさを感じる作品ではあります。
なお、この作品は8つの曲で構成されているのですが、それぞれが連続して切れ目なしに演奏されます。ただし、個々の曲の性格ははっきりしているので、連続した一つの曲のように聞こえることはありません。
1. Modere - tres franc(中庸の速さで)
2. Assez lent - avec une expression intense(十分緩やかに)
3. Modere(中庸の速さで)
4. Assez anime(十分に生き生きと)
5. Presque lent - dans un sentiment intime(ほとんど緩やかに)
6. Vif(十分活発に)
7. Moins vif(活発さを感じて)
8. Epilogue - lent(エピローグ 緩やかに)
6人組の女神・・・?
Meyerは「メイエル」と読むそうです。私はすっかり「マイヤー」だと思って、いくらGoogleで検索をかけても出てこないので、かつて掲示板で「ほとんど忘れ去られたピアニストと言えます。」なんて書いてしまいました。(^^;汗汗・・・
しかし、よく調べてみると一部では熱烈なファンが存在するようで、例えば「クラシック名盤 この一枚」なんて本の中では何人かの人たちが熱いオマージュを送っています。
さらに調べてみると彼女には「6人組の女神」というニックネームがあったそうなのです。この「6人組」というのはルイ・デュレ、アルテュール・オネゲル、ダリウス・ミヨー、ジェルメーヌ・タイユフェール、フランシス・プーランク、ジョルジュ・オーリックの事で、フランス音楽の新しい夜明けを告げたグループとして「ロシア5人組」になぞらえて付けられたものです。
メイエルはこの6人組と深い親交があり、彼らの作品を積極的に取り上げました。もちろん、それ以外にもラヴェルやドビュッシーというフランス近代の作品が彼女の得意分野であり、それ以外にはラモーやクープランというフランスの古典作品を好んでいました。要するに、かなりの「ご当地主義」といえるレパートリーです。そして、クラシック音楽の王道(?)とも言うべきドイツ・オーストリア系の音楽は本当にごくわずかしか取り上げないという、この業界ではかなりの異色な存在だったようです。
ここで紹介しているラヴェルの録音は1954年の3月に一気にまとめて録音したもので、どの録音を聞いてもコンサートグランドの能力をフルに発揮したラヴェル作品に相応しい豪快な演奏です。
1897年生まれですからこの時メイエル57歳です。テクニック的には微塵の破綻もなく若々しい精神に満ちあふれています。ところが、この3年後に彼女は亡くなっています。原因は分かりませんが、録音がモノラルからステレオに切り替わるこの時期に亡くなったことが、そしてかなり偏ったレパートリーだったことが、後の彼女の忘却に結びついたことは間違いないでしょう。
もしも、あと数年長生きして(それでも70歳にもなりません!)、ある程度まとまった数のステレオ録音を残していれば、そしてモーツァルト演奏でも素晴らしい演奏を聴かせてくれたことを思えば、そのステレオ録音の中に独墺系の作品がいくつか混じっていれば、疑いもなく彼女の名前はハスキルなどと並んで評価されたはずです。何よりも、彼女にはハスキルがもっていなかったパワフルさがあふれています。
しかし、それはあまりにも贅沢な無い物ねだりなのでしょう。彼女の本質はどこまで行ってもフランス人です。そして、モノラル録音の時代とともにこの世を去ったのです。そんな彼女の業績が50年の時を経てパブリックドメインとなることで復活し、再びこの女性ピアニストに光が当たるようになったことを感謝すべきなのでしょう。
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