ワーグナー:さまよえるオランダ人「序曲」
セル指揮 ニューヨークフィル管弦楽団 1954年1月4日録音
Wagner:「さまよえるオランダ人」序曲
ワーグナーの終生のテーマである「女性の愛による救済」の原型
ワーグナーはこれ以前にもいくつかのオペラを作曲していますが、ワーグナーの個性が初めて輝きだしたのはこの「さまよえるオランダ人」からです。そして、ワーグナーの終生のテーマであった「女性の愛による救済」がはっきりと明示されたのはこの作品からです。
「女性の愛による救済」というのは、何らかの理由で苦悩や宿命を背負った男(時には世界)が、女性の自己犠牲的な純愛によって救済されるというモチーフです。ワーグナーがこのモチーフがよほど好きだったようで、その後タンホイザーやトリスタン、リングなどで何度も何度もこのモチーフを持ち出しています。考えようによっては、エゴイストの権化であったワーグナーにはピッタリの好都合なモチーフだったのかもしれません。
この作品は古くからヨーロッパに伝わる「さまよえるオランダ人」の伝説、さらにはハイネによる寓話「フォン・シュナーベレヴォブスキー氏の回想記」をヒントとしていますが、それに加えてワーグナー自身の嵐での航海体験も反映していると言われています。
ここにはその後のワーグナー作品の全てがはっきりと姿を著していますし、逆に古いイタリアオペラの脳天気な響きも至る所に顔だすという不思議な雰囲気が満ちています。そういう意味では過渡期の作品といえるのかもしれませんが、後のワーグナー作品と比べるとコンパクトにまとまっていて話の展開もそれほど複雑ではないので、初めてワーグナーにふれるには取っつきやすい作品といえるかもしれません。
序曲
冒頭のホルンの不気味な響き「オランダ人の動機」が一気に観客を荒れ狂う北の海へと誘います。そして、それが一段落すると木管楽器が穏やかに「救済の動機」を歌い始めます。
この二つの動機は作品全体を通して核となるものなのですが、これを序曲のなかで見事なまでに対比させて物語り全体のテーマを暗示させる技術は実に見事なものです。
吉田秀和氏を憤慨させたコンサート?
吉田秀和氏の「世界の指揮者」の中に、セルに関する興味深いエピソードがおさめられています。
それは友人からのジルベスターの行事への誘いを断ってセルのコンサートに出かけたというのです。ところが、そのコンサートというのがワーグナーのオペラの序曲や前奏曲などを寄せ集めたものばかりで、やたらに景気はいいもののどれもこれもが中途半端な音楽ばかりでウンザリしてしまったというのです。そして、おそらくは「ワーグナー管弦楽曲集」とでも言うようなレコードをリリースする予定があり、その下準備のためにこんなコンサートをやったのだろうとセルをのろい、こんな事になるのなら友人の誘いにのってジルベスターのお祭り騒ぎに出かけるべきだったというのです。
ただし、このエピソードにはオチがあって、ジルベスターの夜は誰彼かまわずに抱擁しあって、どんな美女とでもキスが出来るときいて出かけた友人たちも、そんな話は全くでたらめであり、何とも無為に大晦日の夜を過ごしてしまい、こんな時までもコンサートに出かけた吉田はえらい奴だと褒めあっていたというのです。
さて、この吉田氏を憤慨させた大晦日のコンサートの4日後に録音されたのがこの一連のワーグナーの管弦楽曲集です。(^^;実はセルの録音スタイルについては以前に少し
書いたことがあります。 さすがは、吉田大明神、いい勘をしています。
でも、演奏の方は実にセルらしい、曖昧さというものが全くないクリアなワーグナーです。ワーグナーに神秘的なものを求める向きには不評ですが、私は大好きです。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-04-13]
ハイドン:弦楽四重奏曲第62番 変ロ長調 Op.55, No 3, Hob.3:62(Haydn:String Quartet No.62 in B-Flat Major, Op.55, No 3, Hob.3:62)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1936年11月19日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on November 19, 1936)
[2026-04-10]
ハイドン:協奏的交響曲 変ロ長調, Hob.I:105(Haydn:Sinfonia concertante in B-flat major, Hob.I:105)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 1957年10月29日~30日録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Recorded on October 29-30, 1957)
[2026-04-09]
J.S.バッハ:8つの小前奏曲とフーガ BWV.559-560(J.S.Bach:Prelude and Fugue BWV559-560)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1962年12月10日~12日録音(Marie-Claire Alain:Recorded December 10-12, 1962)
[2026-04-08]
J.S.バッハ:8つの小前奏曲とフーガ BWV.557-558(J.S.Bach:Prelude and Fugue BWV557-558)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1962年12月10日~12日録音(Marie-Claire Alain:Recorded December 10-12, 1962)
[2026-04-07]
J.S.バッハ:8つの小前奏曲とフーガ BWV.555-556(J.S.Bach:Prelude and Fugue BWV555-556)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1962年12月10日~12日録音(Marie-Claire Alain:Recorded December 10-12, 1962)
[2026-04-06]
J.S.バッハ:8つの小前奏曲とフーガ BWV.553-554(J.S.Bach:Prelude and Fugue BWV553-554)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1962年12月10日~12日録音(Marie-Claire Alain:Recorded December 10-12, 1962)
[2026-04-04]
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調, Op.61(Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61)
(Vn)ダヴィド・オイストラフ:シクステン・エールリンク指揮 ストックホルム・フェスティヴァル管弦楽団 1954年録音(David Oistrakh:(Con)Sixten Ehrling Royal Stockholm Philharmonic Orchestra Recorded on 1954)
[2026-04-02]
ベートーベン:「ルール・ブリタニア」による5つの変奏曲 WoO 79(Beethoven:5 Variations on Rule Britannia, WoO 79)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)
[2026-03-31]
アントン・ルビンシテイン:ピアノ協奏曲 第4番 ニ短調 作品70(Anton Rubinstein:Piano Concerto No.4 in D Minor, Op.70)
(P)オスカー・レヴァント:ディミトリ・ミトロプーロス指揮ニューヨーク・フィルハーモニック1952年3月31日録音(Oscar Levant:(Con)Dimitri Mitropoulos Philharmonic-Symphony Orchestra Of New York Recorded on March 31, 1952)
[2026-03-29]
ケルビーニ:レクィエム ニ短調(Cherubini:Requiem in C minor)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:チェコ・フィルハーモニー合唱団 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年12月録音(Igor Markevitch:Czech Philharmonic Chorus Czech Philharmonic Orchestra Recorded on December, 1962)