チャイコフスキー:交響曲第4番
ザンデルリング指揮 レニングラードフィル 1956年6月
Tchaikovsky:交響曲第4番 「第1楽章」
Tchaikovsky:交響曲第4番 「第2楽章」
Tchaikovsky:交響曲第4番 「第3楽章」
Tchaikovsky:交響曲第4番 「第4楽章」
絶望と希望の間で揺れ動く切なさ
今さら言うまでもないことですが、チャイコフスキーの交響曲は基本的には私小説です。それ故に、彼の人生における最大のターニングポイントとも言うべき時期に作曲されたこの作品は大きな意味を持っています。
まず一つ目のターニングポイントは、フォン・メック夫人との出会いです。
もう一つは、アントニーナ・イヴァノヴナ・ミリュコーヴァなる女性との不幸きわまる結婚です。
両方ともあまりにも有名なエピソードですから詳しくはふれませんが、この二つの出来事はチャイコフスキーの人生における大きな転換点だったことは注意しておいていいでしょう。
そして、その様なごたごたの中で作曲されたのがこの第4番の交響曲です。(この時期に作曲されたもう一つの大作が「エフゲニー・オネーギン」です)
チャイコフスキーの特徴を一言で言えば、絶望と希望の間で揺れ動く切なさとでも言えましょうか。
この傾向は晩年になるにつれて色濃くなりますが、そのような特徴がはっきりとあらわれてくるのが、このターニングポイントの時期です。初期の作品がどちらかと言えば古典的な形式感を追求する方向が強かったのに対して、この転換点の時期を前後してスラブ的な憂愁が前面にでてくるようになります。そしてその変化が、印象の薄かった初期作品の限界をうち破って、チャイコフスキーらしい独自の世界を生み出していくことにつながります。
チャイコフスキーはいわゆる「五人組」に対して「西欧派」と呼ばれることがあって、両者は対立関係にあったように言われます。しかし、この転換点以降の作品を聞いてみれば、両者は驚くほど共通する点を持っていることに気づかされます。
例えば、第1楽章を特徴づける「運命の動機」は、明らかに合理主義だけでは解決できない、ロシアならではなの響きです。それ故に、これを「宿命の動機」と呼ぶ人もいます。西欧の「運命」は、ロシアでは「宿命」となるのです。
第2楽章のいびつな舞曲、いらだちと焦燥に満ちた第3楽章、そして終末楽章における馬鹿騒ぎ!!
これを同時期のブラームスの交響曲と比べてみれば、チャイコフスキーのたっている地点はブラームスよりは「五人組」の方に近いことは誰でも納得するでしょう。
それから、これはあまりふれられませんが、チャイコフスキーの作品にはロシアの社会状況も色濃く反映しているのではとユング君は思っています。
1861年の農奴解放令によって西欧化が進むかに思えたロシアは、その後一転して反動化していきます。解放された農奴が都市に流入して労働者へと変わっていく中で、社会主義運動が高まっていったのが反動化の引き金となったようです。
80年代はその様なロシア的不条理が前面に躍り出て、一部の進歩的知識人の幻想を木っ端微塵にうち砕いた時代です。
ユング君がチャイコフスキーの作品から一貫して感じ取る「切なさ」は、その様なロシアと言う民族と国家の有り様を反映しているのではないでしょうか。
突然「巨匠」になったザンデルリングの若き時代の録音
嫌味で言うのではないのですが、日本という国におけるクラシック音楽業界というのは「シルバーシート優先」です。若い間は、どんなに素晴らしい演奏をしてもあれやこれやとケチをつけられるのに、それなりに功成り名を遂げた老人に対しては、どんなに酷い演奏をしても「巨匠の枯れた芸」「枯淡の極地」なんて言って天まで持ち上げてくれます。
それは、言葉をかえれば、音楽をその内実で評価するのではなくて、素人にもわかりやすいようにスーパースターを作り出して、その「名前」で売ろうという戦略が一貫して採用されてきたからです。
しかし、この戦略は、スーパースターに祭り上げるターゲットが枯渇する中で、その苦し紛れの度合いはますます酷くなってきました。カラヤンが死に、バーンスタインが死ぬと、朝比奈やヴァントがそのターゲットになりました。残念ながら、彼らは業界の人間が期待したほどには求心力を持ち得ませんでしたが、それでもそれなりの「雰囲気」は持っていました。しかし、ヴァントも朝比奈も鬼籍に入ってしまうと、ホントに「後」がなくなりました。そんな危機的状況の中で白羽の矢が立ったのがザンデルリングでした。
ところが、そう言う業界の熱いラブコールにザンデルリングは極めて冷淡で、ほとんど録音らしい録音をしないままにさっさと引退してしまいました。
ザンデルリングという人は、あの怖いムラヴィンスキーのもとで修行を積んだだけに、音楽的には筋金入りです。その凄さは、この録音を聞けば分かります。そして、さらに聞く耳があれば、頂点を目指して上り続けているときの「芸」こそがもっとも素晴らしいものだと言うことも分かるはずです。
それだけに、そう言う業界からの誘いのあほらしさを誰よりもよく知っていたのでしょう。
でも、それって考えようによってはちょっと残念だったかもしれません。業界がその様なアホウなラブコールを送らなければ、あと少しは地道な活動を続けて、数は少なくてもいくつかの素晴らしいプレゼントを残してくれたかもしれません。
「枯れた芸」などと言う物言いは、そろそろやめた方がいいのかもしれません。
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