ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番
(P)シュナーベル サージェント指揮 ロンドン交響楽団 1933年録音
Beethoven:ピアノ協奏曲第4番「第1楽章」
Beethoven:ピアノ協奏曲第4番「第2楽章」
Beethoven:ピアノ協奏曲第4番「第3楽章」
新しい世界への開拓
1805年に第3番の協奏曲を完成させたベートーベンは、このパセティックな作品とは全く異なる明るくて幸福感に満ちた新しい第4番の協奏曲を書き始めます。そして、翌年の7月に一応の完成を見たものの多少の手なしが必要だったようで、最終的にはその年の暮れ頃に完成しただろうと言われています。
この作品はピアノソナタの作曲家と交響曲の作曲家が融合した作品だと言われ、特にこの時期のベートーベンのを特徴づける新しい世界への開拓精神があふれた作品だと言われてきました。
それは、第1楽章の冒頭においてピアノが第1主題を奏して音楽が始まるとか、第2楽章がフェルマータで終了してそのまま第3楽章に切れ目なく流れていくとか、そう言う形式的な面だけではなりません。もちろんそれも重要な要因ですが、それよりも重要なことは作品全体に漂う即興性と幻想的な性格にこそベートーベンの新しいチャレンジがあります。
その意味で、この作品に呼応するのが交響曲の第4番でしょう。
壮大で構築的な「エロイカ」を書いたベートーベンが次にチャレンジした第4番はガラリとその性格を変えて、何よりもファンタジックなものを交響曲という形式に持ち込もうとしました。それと同じ方向性がこの協奏曲の中にも流れています。
パセティックでアパショナータなベートーベンは姿を潜め、ロマンティックでファンタジックなベートーベンが姿をあらわしているのです。
とりわけ、第2楽章で聞くことの出来る「歌」の素晴らしさは、その様なベートーベンの新生面をはっきりと示しています。
「復讐の女神たちをやわらげるオルフェウス」とリストは語りましたし、ショパンのプレリュードにまでこの楽章の影響が及んでいることを指摘する人もいます。
そして、これを持ってベートーベンのピアノ協奏曲の最高傑作とする人もいます。ユング君も個人的には第5番の協奏曲よりもこちらの方を高く評価しています。(そんなことはどうでもいい!と言われそうですが・・・)
味で聞かせるピアニスト?
ナチスの台頭でアメリカに亡命してからのシュナーベルはあまり恵まれなかったようで、彼自身も、ホロヴィッツ全盛のアメリカの音楽状況を受け入れることもできなかったようです。
「海の上のピアニスト」という映画がありましたが、その中で「ピアノ競争」なるものが繰り広げられる場面があります。それを見て、「なるほどこれが当時のアメリカにおける音楽状況だったのか!」と呆れ返りました。もちろん映画なので誇張はあるのでしょうが、軽業師のような超絶的な技巧だけがもてはやされた当時のアメリカの状況をよく表したシーンだと思いました。ご存じでない方は一度はご覧あれ、結構面白い映画です。
そして、なるほどこれではシュナーベルのようなタイプのピアニスが腐ってしまうのは仕方がないだろうなと変なところで納得させられました。
誤解を恐れずに言えば、シュナーベルというのは味で聞かせるピアニストだったようです。
戦前にシュナーベルはマルコム・サージェントとのコンビでベートーベンのピアノ協奏曲を全曲録音しています。今お聞きいただいているのはその中の一枚なのですが、ホロヴィッツのコンサートでアンコールに「カルメン変奏曲を!」と絶叫するアメリカの聴衆がこのような演奏を喜こばなかったことだけは確かです。
戦争が終わると、やがてアメリカを去ってスイスでひっそりと亡くなったのも宜なるかなです。
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