マーラー:交響曲第3番 ニ短調(Mahler:Symphony No.3 in D minor)
チャールズ・アドラー指揮 ウィーン交響楽団 ウィーン少年合唱団 (Ms)ヒルデ・レッセル=マイダン 1952年3月27日録音(Charles Adler:Vienna Symphony Orchestra Vienna Boys Choir (Ms)Hilde Rossel-Majdan Recorded on March 27, 1952)
Mahler:Symphony No.3 in D minor [1.Kraftig, Entschieden]
Mahler:Symphony No.3 in D minor [2.Tempo di Minuetto]
Mahler:Symphony No.3 in D minor [3.Comodo, Scherzando. Ohne Hast]
Mahler:Symphony No.3 in D minor [4.Sehr Langsam. Misterioso. Durchaus Leise]
Mahler:Symphony No.3 in D minor [5.Lustig im Tempo und keck im Ausdruck]
Mahler:Symphony No.3 in D minor [6.Langsam, Ruhevoll. Empfunden]
交響曲は世界のようでなくてはならない・・・
マーラーとシベリウスは一度対談をしたことがあるそうです。
1907年のことらしいのですが、その中でマーラーは「交響曲は世界のようでなくてはならい・・・」と語り、それに対してシベリウスは「交響曲には内的な動機を結びつける深遠な論理が大切」と語ったらしいです。
この話はとあるサイトで発見したのですが、どうしても「ウラ」がとれませんでしたので、もしかしたら「ガセネタ」かもしれませんが(この手の話に詳しい人、教えてください!)、たとえ「ガセ」だとしても、実に適切に自らの特徴を言い表した言葉だと思います。
マーラーが夏の休暇を利用してシュタインバッハで3番のシンフォニーの作曲に没頭しているとき、彼のもとを訪ねてきたワルターに「ここの風景はもう眺めるにはおよばないよ。あれは全部曲にしてしまったからね。」と語ったという話は有名です。
もちろんこの言葉をもってして、3番のシンフォニーが自然を描写した音楽だと誤解してはいけません。そんなことを作品を実際に聴いてみればすぐに分かることです。
マーラーが目指した交響曲とはシベリウスのものとは対極にあったことは上記の言葉から明らかです。
シベリウスにとって重要なことは世界の多様性の背後に潜む真実だったのでしょうが、マーラーにとってはその様な多様性そのものを受け入れ表現し尽くすことにこそ意味がありました。
結果として、シベリウスの交響曲は凝縮していくのに対してマーラーの交響曲は拡散していきます。
マーラーの音楽は「デブ専」の音楽だと言った人がいました。彼の音楽は世界が抱え込んでいるあらゆる要素をどんどん取り入れていきますから結果として肥大化していく宿命を持ちます。そして、その様にして内包された個々の要素には論理的な一貫性は存在しません。美しいものと醜いもの、高貴なものと下品なものなどなど、あらゆる要素が雑然と同居して不都合を感じないのがマーラーの特長です。
ですから分析型の指揮者が必死に作品を分析しようとするとかえっておかしな事になってしまうのです。マーラー指揮者に必要なものは、デブをダイエットすることではなくて、デブをデブとして愛でることの出来る「デブ専」の精神のようです。
少し話が横道にそれましたが、初期のマーラーにおいてその様な拡散の頂点をなしているのがこの第3番のシンフォニーです。実際これほどまでに雑多な要素を詰め込んだ作品をそれ以後も書くことはありませんでした。
そして、マーラーがワルターに語った言葉の真意は、現在作曲している3番のシンフォニーにおいて、世界というものが内包しているあらゆる多様性をすくい上げ表現し尽くすことが出来たという自信の表明だったのでしょう。風景云々という言い方はその様にしてすくい取られた一つの要素にしか過ぎなかったのでしょうが、おそらくは当地の素晴らしい風景をワルターが褒め称えた事へのマーラーらしい謎かけだったのではないでしょうか。
なお、マーラーは最終的には削除してしまったのですが、最初はこの作品にいくつかの標題を与えていました。それらを見ても、世界のあらゆる多様性を汲み上げようとしたマーラーの意志がうかがえるような気がします。
「夏の朝の夢」
第1部 序奏 牧神は目覚める
第1楽章 夏が行進してくる(バッカスの行進)
第2部 第2楽章 野の花たちが私に語ること
第3楽章 森の動物たちが私に語ること
第4楽章 人間が私に語ること
第5楽章 天使たちが私に語ること
第6楽章 愛が私に語ること
世界最初のスタジオ録音
アドラーという人の名前はほとんど忘れ去られようとしていますが、50年代の初頭に多くの作品を積極的にスタジオ録音を行った人です。とりわけ、過去においてスタジオ録音が存在しない規模の大きな作品を次々と演奏しました。実はここでお聞きいただいている演奏もその様な狙いを持って録音されたもので、スタジオ録音としては世界初のものです。
しかし、演奏そのものは悪くはありません。マーラーが世界の多様性をすくい取ろうと試みたこの作品にふさわしく、ゆっくりとしたテンポの中で作品のあらゆる部分を実に丹念に歌い上げています。前年にライブで録音されたシェルヘンによる録音も残っていますが、私ははこちらのアドラーの演奏の方が好ましく思えます。
マーラーに関していえば、これ以外にも第10番の「アダージョ」「煉獄」、第2番「復活」や第6番「悲劇的」な粗も録音しています。
また、ブルックナー作品の受容史においても重要な役割をはたしていて以下のような作品を録音しています。
ミサ曲第1番 ニ短調(1892年出版譜):1957年3月録音
序曲 ト短調(1921年出版譜):1952年4月もしくは5月録音
交響曲第1番 ハ短調(1890年ウィーン稿1893年出版譜):1955年4月25日録音
交響曲第3番 ニ短調(1889年稿1890年出版譜):1953年4月17日録音
交響曲第6番 イ長調(1899年出版譜):1952年2月17日録音
交響曲第9番 ニ短調(1903年出版譜):1952年4月もしくは5月録音
これらのブルックナーもまた過去の古いロマン主義的な解釈ではなくて次の時代に繋がっていく様式を模索して多様です。
ただし、クナッパーツブッシュと同様に「改訂版」の信奉者だったので、そのあたりの痴愚は草故に忘れ去られていったのかもしれません
録音に関しては最上の部類に属します。
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