クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調, Op.61(Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61)

(Vn)ダヴィド・オイストラフ:シクステン・エールリンク指揮 ストックホルム・フェスティヴァル管弦楽団 1954年録音(David Oistrakh:(Con)Sixten Ehrling Royal Stockholm Philharmonic Orchestra Recorded on 1954)



Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61 [1.Allegro ma non troppo]

Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61 [2.Larghetto]

Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61 [3.Rondo]


忘却の淵からすくい上げられた作品

ベートーベンはこのジャンルの作品をこれ一つしか残しませんでした。しかし、そのたった一つの作品が、中期の傑作の森を代表するする堂々たるコンチェルトであることに感謝したいと思います。

このバイオリン協奏曲は初演当時、かなり冷たい反応と評価を受けています。
「若干の美しさはあるものの時には前後のつながりが全く断ち切られてしまったり、いくつかの平凡な個所を果てしなく繰り返すだけですぐ飽きてしまう。」
「ベートーベンがこのような曲を書き続けるならば、聴衆は音楽会に来て疲れて帰るだけである。」

全く持って糞味噌なけなされかたです。
こう言うのを読むと、「評論家」というものの本質は何百年たっても変わらないものだと感心させられます。

しかし、もう少し詳しく調べてみると、そう言う評価の理由も何となく分かってきます。
この協奏曲の初演は1806年に、ベートーベン自身の指揮、ヴァイオリンはフランツ・クレメントというヴァイオリニストによって行われました。

作品の完成が遅れたために(出来上がったのが初演の前日だったそうな)クレメントはほとんど初見で演奏しなければいけなかったようなのですが、それでも演奏会は大成功をおさめたと伝えられています。
しかし、この「大成功」には「裏」がありました。

実は、この演奏会では、ヴァイオリン協奏曲の第1楽章が終わった後に、クレメントの自作による「ソナタ」が演奏されたのです。
今から見れば無茶苦茶なプログラム構成ですが、その無茶草の背景に問題の本質があります。

そのクレメントの「ソナタ」はヴァイオリンの一本の弦だけを使って「主題」が演奏されるという趣向の作品で、その華麗な名人芸に観客は沸いたのでした。
そして、それと引き替えに、当日の目玉であった協奏曲の方には上で述べたような酷評が投げつけられたのです。

当時の聴衆が求めたものは、この協奏曲のような「ヴァイオリン独奏付きの交響曲」のような音楽ではなくて、クレメントのソナタのような名人芸を堪能することだったのです。彼らの多くは「深い精神性を宿した芸術」ではなくて、文句なしに楽しめる「エンターテイメント」を求めたいたのです。
そして、「協奏曲」というジャンルはまさにその様な楽しみを求めて足を運ぶ場だったのですから、そう言う不満が出ても当然でしたし、いわゆる評論家達もその様な一般の人たちの素直な心情を少しばかり難しい言い回しで代弁したのでしょう。

それはそうでしょう、例えば今ならば誰かのドームコンサートに出かけて、そこでいきなり弦楽四重奏をバックにお経のような歌が延々と流れれば、それがいかに有り難いお経であってもウンザリするはずです。
そして、そういう批評のためか、その後この作品はほとんど忘却されてしまい、演奏会で演奏されることもほとんどありませんでした。
この曲は初演以来、40年ほどの間に数回しか演奏されなかったと言われています。

その様な忘却の淵からこの作品をすくい上げたのが、当時13才であった天才ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムでした。
1844年のイギリスへの演奏旅行でこの作品を取り上げて大成功をおさめ、それがきっかけとなって多くの人にも認められるようになったわけです。



  1. 第一楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
    冒頭にティンパニが静かにリズムを刻むのですが、これがこの楽章の形を決めるのは「構築の鬼ベートーベン」としては当然のことでしょう。ただし、当時の聴衆は協奏曲というジャンルにその様なものを求めていなかったことが不幸の始まりでした。

  2. 第二楽章 ラルゲット
    この自由な変奏曲形式による美しい音楽は当時の聴衆にも受け入れられたと思われます。

  3. 第三楽章 ロンド アレグロ
    力強いリズムに乗って独奏ヴァイオリンと管弦楽が会話を繰り返すのですが、当時の聴衆は「平凡な個所を果てしなく繰り返す」と感じたのかもしれません。



自然体で端正な佇まい


1954年にオイストラフはストックホルムでベートーヴェンとシベリウスのヴァイオリン協奏曲を録音しています。
50年代はアメリカとソ連の対立が少しずつ雪解けとなり、ソ連の演奏家が少しずつ西側で活動できるようになっていった時期でした。
オイストラフは1953年にフランス、1954年にはイギリスを訪れていて、そういう流れの中でストックホルムでセッションが組まれたのでしょう。
ちなみに、この数か月後に日本にもやってきて大きな話題となりました。

この1954年の古い録音は、後のステレオ盤とは異なる魅力があります。
それを一言でいえば、モノラル盤はより自然体で端正な佇まいを持っていることです。オイストラフといえば思い浮かぶ濃厚で重みのある表現とはずいぶん佇まいが異なります。

オーマンディ&フィラデルフィア管と録音したシベリウスなどは、「もう少しひんやり感が欲しいな」などと思ってしまうので、このモノラル録音のほうが好ましく思う人も多いでしょう。
実際、シベリウス自身がこのエールリンクとの録音を絶賛したとのことです。
もっとも、シベリウスという人は結構そのような「お上手」を言うことも少なくなかったようです、しかし、これに関しては信じてもいいようです。

これほどまでに北欧らしい透明感と厳しさが強く表現された演奏は他にはなかなか思い当たりません。そして、その功績の半分は指揮者のエールリンクにおくられるべきでしょう。

ベートーベンに関してはクリュイタンス&フランス国立放送管弦楽団と録音したステレオ盤がなかなかの出来なので(と書いてきて、もしかしたクリュイタンスとの録音アップしていない…まさか…してない・・・まさかね・・・してないね(^^;。)、モノラル録音に関してはもう少し盛ってほしいなと思ってしまいます。
ただし、聞くところによると、ストックホルムのオケはいささか編成が小さかったようですから、その辺りは考慮してやらないと不公平かもしれません。
それに、「静謐さ」とか「構造の把握」に関してはそれがプラスになっていますから、どちらがいいかという話ではないでしょう。、ベリウス

ということで、古いモノラル録音にも聞く価値は十分にあるということです。
また、若きオイストラフを聞くというだけでなく、エールリンクという、あまり馴染みのない指揮者の演奏を聞くという興味もあります。
そして、エールリンクという指揮者もなかなかのものだったと思う人も少なくないでしょう。

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