クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)

ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1963年録音(Joseph Keilberth:Bamberg Symphony Recorded on 1963)



Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [1.Allegro con brio]

Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [2.Andante]

Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [3.Poco allegretto]

Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90 [4.Allegro]


秋のシンフォニー

私は長らくブラームスの音楽が苦手だったのですが、その中でもこの第3番のシンフォニーはとりわけ苦手でした。
理由は簡単で、最終楽章になると眠ってしまうのです(^^;

今でこそ曲の最後がピアニシモで消えるように終わるというのは珍しくはないですが、ブラームスの時代にあってはかなり勇気のいることだったのではないでしょうか。某有名指揮者が日本の聴衆のことを「最初と最後だけドカーンとぶちかませばブラボーがとんでくる」と言い放っていましたが、確かに最後で華々しく盛り上がると聞き手にとってはそれなりの満足感が得られることは事実です。

そういうあざとい演奏効果をねらうことが不可能なだけに、演奏する側にとっても難しい作品だといえます。
第1楽章の勇壮な音楽ゆえにか、「ブラームスの英雄交響曲」と言われたりもするのに、また、第3楽章の「男の哀愁」が滲み出すような音楽も素敵なのに、「どうして最終楽章がこうなのよ?」と、いつも疑問に思っていました。

そんな私がふと気がついたのが、これは「秋のシンフォニー」だという思いです。(あー、また私の文学的解釈が始まったとあきれている人もいるでしょうが、まあおつきあいください)

この作品、実に明るく、そして華々しく開始されます。しかし、その明るさや華々しさが音楽が進むにつれてどんどん暗くなっていきます。明から暗へ、そして内へ内へと音楽は沈潜していきます。
そういう意味で、これは春でもなく夏でもなく、また枯れ果てた冬でもなく、盛りを過ぎて滅びへと向かっていく秋の音楽だと気づかされます。
そして、最終楽章で消えゆくように奏されるのは第一楽章の第1主題です。もちろん夏の盛りの華やかさではなく、静かに回想するように全曲を締めくくります。

そう思うと、最後が華々しいフィナーレで終わったんではすべてがぶち壊しになることは容易に納得ができます。人生の苦さをいっぱいに詰め込んだシンフォニーです。


これを見逃していたとは…


カイルベルトと言えば「質実剛健にして武骨と言っていいほどの音楽づくり」という言葉が思い浮かぶので、ずいぶん古い人のように思えていました。しかし、振り返ってみればカラヤンと同年生まれで、1965年と1966年には単身で来日してN響の指揮台に立っています。
私が思い込んでいたほどに「古い人」ではなったのですね。

そんなカイルベルトの経歴を見てみればバンベルク響との関係が大きな比重を占めています。
バンベルク響のことを語る上で第2次大戦後の「ドイツ人追放」のことは切り離すことはできません。特にチェコでは1945年から1947年にかけてチェコスロバキア国籍のドイツ人およそ260万人が追放されました。
バンベルク響の前身は1940年にドイツ系住民によってプラハで結成されたドイツ・フィルハーモニー管弦楽団でした。当然のことながら、そのオーケストラは「ドイツ人追放」によって空中分解してしまうのですが、やがてドイツに流れ着いた団員が集まってオーケストラを結成します。
それがバンベルク響でした。
ですから、バンベルク響といえば「難民オーケストラ」だとよく言われます。

そして、そのバンベルク響を生涯にわたって面倒を見続けたのがカイルベルトでした。確かに、ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団の結成時にフルトヴェングラーの推薦で首席指揮者を引き受けたことも理由の一つでしょうが、それ以上に深い思い入れがあったのでしょう。
1949年にカイルベルトは首席指揮者を引き受け、1968年に舞台で倒れて亡くなるまで面倒を見つづけました。
それだけに、1968年にバンベルク響と来日してくれたことは日本の聴衆にとっては幸いだったと言えるでしょう。

そんなカイルベルトがスタジオ録音で残してくれたブラームスの交響曲は以下の通りです。

  1. ブラームス:交響曲第1番 ハ短調, Op.68 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ベルリン・フィルハーモニ管弦楽団 1951年録音

  2. ブラームス:交響曲第2番 ニ長調, Op.73 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ベルリン・フィルハーモニ管弦楽団 1962年録音

  3. ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1963年録音

  4. ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1960年録音


モーツァルトの交響曲ではすべてバンベルク響と録音していたのですが、ブラームスに関してはベルリン・フィルが大きな位置を占めています。実際、演奏会ではベルリン・フィルとも密接な関係を築いていたようですし、ドイツの国民オペラと言うべき「魔弾の射手」の全曲録音もベルリン・フィルとのコンビでした。
しかし、面白いのは同じベルリン・フィルとの録音でも1番と2番ではずいぶんと景色が異なる事です。もっとも、1番だけは1951年のモノラル録音なので同列に論じてはいけないのかもしれませんが、それを考慮に入れてもたたずまいがずいぶんと異なります。

1番のほうはいかにもドイツの田舎オケらしい「質実剛健にして武骨」なブラームスに仕上がっているのですが、2番のほうは造形が確かなだけでなく、絶妙なフレージングによる表情付けと、それをさらに引き立てる素晴らしい音色が聞くものを魅了します。そして、思わず私の脳裏を横切ったのは、フルトヴェングラーが指揮したベルリンフィルというのは本当はこういう響きだったのではないかという思いでした。
フルトヴェングラーという人は「録音」という行為にとことん否定的で、そのためもあって音質的には非常に貧しいものしか残っていません。まだしもと思えるのは最後の録音となった「トリスタンとイゾルデ」くらいでしょうか。
それだけに、カイルベルトとベルリンフィルによるブラームスの2番を聞くとき、思わずそういう妄想を抱いてしまうのです。

そして、ベルリン・フィルとの2番を聞いてしまうと、バンベルク響の3番も、ハンブルク・フィルの4番も、いささか色あせて聞こえてしまいます。
もちろん、悪い演奏とは思いません。
歌わせ上手なカイルベルトの要求にこたえて、歌うべきところは美しく歌いあげています。しかし、ベルリンフィルの2番を聞いた後ではその響きにどうしても不満が残ります。もちろん、ドイツの地方オケならではの魅力にあふれていることは認めますが、あの響きを聞いてしまうと贅沢な要求であることはわかっていながらも、ついそのようなことを思ってしまうのです。
おそらく、実演で聞けば十二分に楽しめることでしょうし、後のカラヤン統治下ですっかり面変わりしたベルリンフィルよりはよほど興味を惹かれる演奏なのかもしれません。

それにしても、これほど興味深い録音を今まで見逃していたことに、我ながらあきれてしまいました。その欠落を指摘いただいた方には心より感謝したいと思います。
それから、最後に蛇足ですが、あれこれ思い浮かべてみると、カイルベルトベルリンフィルによる第2番は、もしかしたらこの作品のベストの一つと言っていいのかもしれないと思い当たりました。かえすがえすも、ご指摘いただいた方に感謝です。

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