クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーヴェン:序曲「献堂式」, Op.124(Beethoven:The Consecration of the House, Op.124)

アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1947年12月16日録音(Arturo Toscanini:NBC Symphony Orchestra Recorded on December 16, 1947)



Beethoven:The Consecration of the House, Op.124


眉間に皺を寄せたベートーベンではない楽しい音楽

「献堂式」序曲は、他の序曲と同じように劇場側からの依頼で書かれた作品であり、まあ言ってみれば機会音楽の範疇をこえるものではありません。
作曲を依頼したのはウィーンに新築されたヨーゼフシュタット劇場の支配人カール・フリードリヒ・ヘンスラーなる人物です。彼はこの新劇場のこけら落としのために2つの劇作品(「侯爵の肖像」と「献堂式」)を用意し、その内の「献堂式」音楽に付随する音楽をベートーベンに依頼したのでした。

その背景には、おそらく劇場のオープンに合わせるためだったのかもしれませんが、「献堂式」の方はかつて上演された「アテネの廃墟」を書きなおすことにしたという事情があったようです。つまりは、そのついでに音楽の方も「アテネの廃墟」を書いたベートーベンに依頼して書き直すことになったのです。

時期的に見れば、彼の最晩年の大作である「荘厳ミサ曲」や「交響曲第9番」に取り組んでいた頃なので、過去の作品の書き直しであるならばそれほどの負担にもならず、もしかしたらいい「息抜き」にでもなったのかもしれません。
そして、結果としては、この手の作品としてはベートーベン最後のものとなったことも注目しておいていいでしょう。

さらに、聞いてもらえればすぐに納得がいくと思うのですが、この作品には、当時のベートーベンがヘンデルの音楽に強い関心を抱いていて、その影響が顕著にあらわれていることです。全体的に、ヘンデルらしい祝典的な様相が濃厚で、とりわけ冒頭部分に登場するトロンボーン三本によるファンファーレなどはまるでヘンデルの音楽を聞いているようです。
そう言う意味でも、あまり聞かれる機会の少ない作品ですが、聞いてみればなかなかに面白く、眉間に皺を寄せたベートーベンではない楽しい音楽に仕上がっています。

強力な斧で真っ二つ


気づいてみると、ベートーベンの一連の序曲をあまりアップしていないことに気づきました。もっとも、序曲ならば一通り紹介しておいてもらえればそれで十分だという人も少なくないでしょう。しかし、マルケヴィチとラムルー管弦楽団による録音を聞きなおして紹介してみると、指揮者とオケによってずいぶん特徴があることに改めて気づかされ、そして、セルやトスカニーニのようなビッグ・ネームの録音を一つも取り上げていないことにも気づくと、やはりもう少し同曲異演の録音を紹介しなければ納得がいかないという気持ちになりました。
もちろん、そんな気持ちになってもらわなくてもいいですという人いるでしょうが、管理人がそう思った以上は少しは我慢しておつきあいください。(^^;

さて、まず最初はトスカニーニです。オケは言うまでもなくNBC交響楽団です。マルケヴィチとラムルー管弦楽団による録音を聞いたときは「思い切り踏み込んでのフルスイング」というイメージがわいたのですが、トスカニーニの場合は「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」という言葉が浮かびました。
しかし、まてよ、いかに序曲とはいえベートーベンの音楽を鶏扱いはないだろうということで、これは却下、次に浮かんだのが「強力な斧を用いて巨大な丸太を真っ二つ」というイメージです。
うん、イメージとしてはこちらのほうがぴったりかもしれません。

おそらく、両者の違いは相対しているオケの違いでしょう。
ラムルー管弦楽団の場合は必死でマルケヴィッチの棒についていっています。まさに必死であり、そこから感じ取れるるのはほとばしる汗のにおいです。ただし、高校野球ならばその汗のにおいもドラマの一コマなのでしょうが、プロのエンターテイメントとしてはNGです。聞き手に汗のにおいを感じ取らせてはエンターテイメントとは言えません。
ですから、マルケヴィッチはそこからさらに鞭を入れて「思い切り踏み込んでのフルスイング」というレベルになるまで搾り上げています。
しかし、オケがNBC交響楽団となると、そこからはひとかけらの汗のにおいを感じることはなく、ひたすらその「凄み」のようなものが聞き手に迫ってきます。まさに巨大な丸太をいともたやすく真っ二つに断ち割られるのを聞き手は眼前で見せつけられるのです。

さらに言えば、おそらくは悪名高き8Hスタジオでの録音のせいなのでしょうが、フレーズの最後が短く切り上げられているように聞こえる部分があちこちで見受けられます。それがトスカニーの意図だったのか、もしくは残響に乏しい8Hスタジオのせいなのか判断に苦しみますが、最初は多少の違和感は感じても次第にその切り上げが音楽にとてつもない推進力と凄みを与えているかもしれないなどと感じてきてしまいます。

やはり、ベートーベンの音楽です。指揮者とオケの違いによってその相貌が変わるほどの器の大きさを持っているのです。
ということで、間隔はあけますが少しずつあれこれの序曲の録音を紹介していきますので、まあ、辛抱しておつきあいください。

それから、自明のことであるかのように「悪名高き8Hスタジオ」と書いたのですが、わかる人はわかっても何のことじゃという人も少なくないでしょうから簡単に捕捉をしておきます。
この「8Hスタジオ」というのは、当時のニューヨークのRCAビル内に作られたNBC放送の巨大スタジオのことです。このスタジオ、驚くなかれ、オーケストラが演奏できるスペースがあっただけでなく、1200名を超える聴衆も同時に収容できました。しかし、基本がラジオ放送用に設計されていたため残響が非常に短く、クラシックの演奏会場としては異質な空間でした。
ですからその響きは酷評されることが多かったのですが、なぜかトスカニーニはそのスタジオに文句をつけることもなく、逆にその残響の短い響きを好んだとも言われています。おそらく、トスカニーニはその残響の短さゆえに細かい部分がごまかしなしに響くことを好んだのでしょう。

そして、最近になって、それまで流通していた録音は実際の音よりもさらにデッドになっていたことが分かってきて、本来の音により近い復刻版が出てくることでかつてほどは酷評はされなくなってきています。

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