クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シューベルト(カサド編曲):アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D.821(Schubert:Sonata For Arpeggione and Piano in A minor, D.821 Arr.Gaspar Cassado)

(Cello)ガスパール・カサド:サー・ハミルトン・ハーティ指揮 ハレ管弦楽団(Gaspar Cassado:(Con)Sir Hamilton Harty Halle Orchestra Recorded on March 1, 1929)





Schubert:Sonata For Arpeggione and Piano in A minor, D.821 [1.Allegro Moderato]

Schubert:Sonata For Arpeggione and Piano in A minor, D.821 [2.Adagio]

Schubert:Sonata For Arpeggione and Piano in A minor, D.821 [3.Allegretto]


シューベルト晩年の「死の影」が刻み込まれた作品

アルペジョーネソナタとは、現在では全く廃れてしまった「アルペジョーネ」という楽器のために作曲された作品であり、おそらくはこの楽器のために作曲された唯一と言っていいほどの作品です。
これは、この楽器が発表されたときはかなりの反響を呼んだようなのですが、結果としては、この楽器の創案者であるシュタウファーという人以外にこの楽器を制作した形跡がなく、さらには、プロの演奏家もほとんど現れなかったために急激に姿を消してしまったことが原因のようです。
そのようなきわめて「希少性」の高い作品をシューベルトが書いたのは、彼の友人の中に、このアルペジョーネの唯一と言っていいほどのプロの演奏家(ヴィンツェンツ・シュースター)がいたためで、その友人からの依頼で作曲したものと見られています。

しかし、この作品は、そのような「希少性」ゆえに価値があるのではなく、その冒頭部分を聞いただけでだれもが了解するように、この上もなく美しい叙情性に彩られたシューベルトならではの世界が展開されるからです。そして、シューベルトの最晩年、時期的には弦楽四重奏曲「死と乙女」などと同時期に作曲されたこの音楽には、色濃く「死の影」が刻み込まれていて、その「悲劇性」もまた多くの聞き手の心を捉える一因となっています。

アルペジョーネという楽器が姿を消した現在にあってはこの作品はチェロで演奏されのが一般的です。アルペジョーネを復刻して「正しい」(もちろん、半分以上嫌味ですよ・・・^^;)姿に戻そうというピリオド楽器の連中もいないようなので、その事に異を唱える人は皆無のようです。
しかし、チェロ弾きの人に聞くと、この作品をチェロで演奏するのはかなりの困難を伴うようです。これが、ヴィオラだとその難易度はかなり下がるらしくて、気楽にプログラムに載せることがせきるそうな・・・。これは、アルペジョーネという楽器が音域的にヴァイオリンの領域までまで含んでいることが原因のようです。

さらには、そ音楽があまりにも美しく魅力的なので、そチェロ以外にもヴィオラやギター、さらにはフルートなどに編曲されて演奏されることもあります。私は聞いたことがありませんが、コントラバスでこの作品に挑んだ猛者もいるそうなのですが、実に持って大変なものです。

この作品って最初からこういうチェロのための響曲だったんじゃないだろうかと錯覚を起こしそうになる


この作品を初めて聞いたときには流石に驚かされました。もちろん、カサド編曲となっていて、さらには指揮者とオーケストラも録音クレジットに記されているのですから伴奏のピアノがオーケストラに置き換わっていることは分かっていました。しかし、聞いてみれば、ただ端にピアノがオーケストラに変わったと言うようなレベルではなくて、それは紛うことなくチェロ協奏曲へと変身を遂げていたからです。
そして、その力業が実に自然に成し遂げられているので、この作品って最初からこういうチェロのための協奏曲だったんじゃないだろうかと錯覚を起こしそうになるくらいカサドの編曲は見事なのです。さらに言えば、カサドは1966年の12月24日になくなっているので、ギリギリセーフで彼の作品はパブリックドメインになっています。戦時加算の対象にもなっていませんからその点も大丈夫です。
おかげで、こういう形でこの作品と演奏を多くの人に届けられるこことはこの上もない幸いです。

しかし、さらに考えてみれば、カサドにはチェリスト以外にもう一つの作曲家としての顔があったことを思い出しました。そして、その作曲家としての顔は演奏家の余技というようなものではなくて本格的な活動だったことも思い出しました。
彼はこれ以外にもフォーレのエレジーやドビュッシーの月の光なども同じようなスタイルで編曲しているのですが、そのどちらも見事な編曲で、それはもう編曲と言うよりは再創造と言っていいほどの練り上げ方です。もちろん、彼の作曲活動の中ではそう言う編曲活動はごく一部のものであり、本線はオリジナル作品の創作であったことは言うまでもありません。
しかし、そう言う作曲家としての腕がなければこのような編曲は絶対に出来なかったことも事実であり、カサド本人にとっては残念なことでしょうが、彼が残した作品お腹で今日多くの人に聴かれる機会が多いのはこういう編曲もののようです。

調べてみると、私の手もとには彼の編曲ものの演奏がアルペジョーネ・ソナタは三つ、フォーレのエレジーが一つあります。

シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D.821;カサド編曲



  1. (Cello)ガスパール・カサド:サー・ハミルトン・ハーティ指揮 ハレ管弦楽団

  2. (Cello)ガスパール・カサド:ウィレム・メンゲルベルク指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1940年12月12日録音(ライブ)

  3. (Cello)ガスパール・カサド:イオネル・ペルレア指揮 バンベルク交響楽団 1956年9月15日録音



フォーレ:エレジー ハ短調 Op.24



  1. (Cello)ガスパール・カサド:イオネル・ペルレア指揮 バンベルク交響楽団 1960年5月録音



この中で一番のぶっ飛び演奏はメンゲルベルグと協演した1940年のライブ録音でしょう。そして、そのとんでもないまでのやりたい放題はメンゲルベルグに触発されたのではなくて、カサドというチェリストの中に眠っている自由奔放さがその限界まで発揮された結果だったようなのです。
そのやりたい放題には流石のメンゲルベルグも驚かされたのではないでしょうか。逆に言えば、指揮者がメンゲルベルグだったからこそカサドもまたここまで自由になれたと言うことでしょうし、その背景にはオレが作った作品なのだからそれをどの様にに演奏しようとオレの勝手だろうという不遜さみたいなものすら透けて見えます。
残念ながらパチパチノイズの多い録音なのですがカサドのチェロの魅力はしっかりとらえられていますので是非聞いてほしいと思います。

それと比べれば1956年に録音した演奏は実に端正です。そのスタイルは1960年に録音されたフォーレのエレジーも同様です。
おそらく、人生も後半に入ってきて、自分の作品をきちんとした形で後世に残したかったのかもしれません。録音のクオリティとも考え合わせればこれがスタンダードと言うことになると思うのですが、1940年のライブ録音と較べると到底同一人物による演奏とは思えません。

そして、最後に1929年に録音したSP盤時代の録音が残るのですが、正直に言えば私はこの演奏が一番気に入っています。
1929年録音と言えば化石時代の録音と言うことになるのですが、ここにはSP盤ならではの蕩けるような響きが持っている麻薬的と言っていいほどの魅力が詰め込まれています。そして、カサドもまた未だ30台の若さで、その内にあるロマンティシズムを存分に発揮しています。
この辺の好き嫌いは人によって別れるでしょうが、アルペジョーネ・ソナタにかんしてはそれぞれに聞くべき価値があります。
フォーレのエレジーーはこ例外に選択肢がないのが残念です。

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