リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調(Liszt:Piano Concerto No.2 in A major S.125)
(P)サンソン・フランソワ:コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1960年6月13日~14日録音(Samson Francois:(Con)Constantin Silvestri The Philharmonia Orchestra Recorded on June 13-14, 1960)
Liszt:Piano Concerto No.2 in A major S.125
ある意味ではリストが求めたものがもっともはっきりと具現化された作品
19世紀においてはピアノの王者としてヨーロッパに君臨したリストですが、その評価は下がる一方であり、現在では「ラ・カンパネラ」とか「愛の夢」のようなごく限られたピアノ曲しかレパートリーにあがらなくなってしまいました。(と、書いたのは随分昔のことで、最近は再評価と言うよりは、彼の作品が持つ華やかさゆえにかコンサートのメインプログラムとなることも増えてきています。)
ただし、この傾向は今に始まったことではなくて、20世紀に入った頃にはすでに演奏される作品の範囲は限られたものとなっていたようです。
そのことは、一部の方からリストに対するリクエストをいただいて、何かいい音源はないものかと探してみて、あまりの数の少なさに驚かされたことからも、その不人気ぶりを確認することができました。(これもまた、昔の一文で、探せば結構あるもの・・・でした。)
このピアノ協奏曲の第2番も今ではほとんど演奏される機会のないマイナーな作品となっています。
第1番に関してはそれでもときおりレパートリーにあがることもあるのですが、この2番に関しては1番のカップリングとして埋め合わせ的に収録されるような風情は否定し切れません。
しかし、あのバルトークがリストを高く評価していたことはあまり知られていない事実です。
砂糖菓子のようにひたすら甘くてロマンティックなピアノ音楽ばかりを書いたと思われがちなリストですが、バルトークはその中にドビュッシーや新ウィーン学派の音楽につながるような先見性を見つけていたようです。
今後、リストに対する再評価が進むのかどうかは分かりませんが、今のような「ラ・カンパネラ」とか「愛の夢」だけの作曲家みたいな認識のされ方はいささかひどすぎるかもしれません。
この第2番とナンバーリングされたピアノ協奏曲は1839年に創作をされているのですが、その後何度も補筆が加えられ、1848年には「交響的協奏曲」という名称を与えられています。
たしかに、単一楽章で構成されたこの作品はピアノ付きの交響詩という雰囲気をもっています。
その後も、この作品は楽譜として出版される1863年まで、事あるごとにリストが手を加えつづけたようで、ある意味ではリストが求めたものがもっともはっきりと具現化された作品だといえます。
それぞれに好みはあるでしょうが、完成度という点では第1番の協奏曲よりも頭一つ抜けているのではないでしょうか。
美しく旋律ラインを歌い上げている
フランソワのリストについては、すでに紹介しているハンガリー狂詩曲の演奏ですっかり魅せられてしまいました。
劇的な感情の爆発、もの悲しいロマのメロディなどが何の遠慮もなく繰り広げていくところなどは「酒場のピアニスト」だったシフラにも負けない奔放さですが、一つ一つの音のコントロールは完璧で、その点ではフランソワはラテン的な明晰さを忘れることはありません。
まさにこの言葉に尽きます。
それならば、どうしても聞きたくなるのが協奏曲の方です。私の手もとには以下の3種類の録音があります。
リスト:ピアノ協奏曲第1番変ホ長調
(P)サンソン・フランソワ:ジョルジュ・ツィピーヌ指揮 パリ音楽院管弦楽団 1954年5月28日&6月1日録音
(P)サンソン・フランソワ:コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1960年6月13日~14日録音
リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調
(P)サンソン・フランソワ:コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1960年6月13日~14日録音
録音も良くて、演奏の精度が高いのは2曲同時に録音した60年盤の方です。オケはフィルハーモニア管ですし、一部ではトライアングル協奏曲などと揶揄される第1番のトライアングルも分離がはっきりしていて良く聞こえます。なるほど、これならばトライアングル協奏曲とからかわれるのもよく分かるというものです。
それにしても、この演奏は意外でした。フランソワと言えば自由で奔放という思いこみがあるのですが、ここでは驚くほど美しく旋律ラインを歌い上げています。もっとも、それもまた主情的と言えば主情的ではあるのですが、リストの協奏曲ってこんなにも柔らかくて美しい「歌」に満ちていたのかと再認識させられました。
作品の性格から言って第2番の方は第1番ほどには心に染み込んでこないかもしれません。しかし、深々と低声部を響かせるフランソワの演奏は魅力的です。
こうしてみると、奔放な演奏すると言われるフランソワなのですが、それでも根底には長い年月にわたって引き継がれてきた音楽のスタイルみたいなものはしっかり根付いているんですね。
ただし、54年のモノラル録音の方は、ステレオ録音を較べればかなり荒さが目立ちます。逆に言えば、彼のハンガリー狂詩曲の演奏を前提として考えれば、そのライン上で協奏曲を演奏すればこうなるだろうなという先入観により近い演奏とも言えます。ただし、録音のクオリティには随分と差がありますから、そう言う荒さに関しても多少は同情の余地があるのかもしれません。
それから、最後に忘れずに記しておきたいのは60年盤でサポートをつとめたシルヴェストリの万全のバックアップに関してです。この事に関してはすにで何度もふれているのですが、彼が残したごく僅かの爆裂演奏を持ってして、それで彼全体を「爆裂指揮者」という括りの中に放り込むことがいかに愚かな思いこみであるかをこの録音もまた示しています。
もしも、美しいリストのピアノ協奏曲を望むならば、このフランソワとシルベストリによる録音は候補の一つに入れて置くべきでしょう。
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