クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ハイドン:オラトリオ「天地創造」

ヨッフム指揮 バイエルン放送交響楽団&合唱団 1951年4月27日録音





Haydn:オラトリオ「天地創造」 第1部

Haydn:オラトリオ「天地創造」 第2部

Haydn:オラトリオ「天地創造」 第3部


ハイドンの創作の頂点

ハイドンという人はあらゆるジャンルにおいて膨大な作品を残しましたが、それらの創作の頂点に立つものとして晩年の二つのオラトリオ〜「天地創造」と「四季」をあげることに異論を唱える人は少ないでしょう。
すでに功成り名を遂げたハイドンがこのような大規模な作品を書こうと思い立ったのは二度にわたるロンドン訪問がきっかけでした。
よく知られているように、このロンドン旅行はザロモンセットと呼ばれる一連の交響曲を生み出すとともに、何の心配もなく後の人生をすごすことができるだけの経済的成功をハイドンにもたらしました。そして、「オラトリオ」という音楽形式に出会わせてくれたことも、私たちにとってもこの上もない幸せでした。大規模編成のオーケストラと合唱団が作り出す圧倒的な演奏効果はハイドンに強烈なインパクトを与え、自分もそのような作品を作りたいという思いをハイドンに抱かせてくれたからです。
なにしろ、ハイドンが長く仕えていたエステルハージ家の管弦楽はわずか20人足らずの小規模なものでした。ハイドンは常にそのような規模の楽団を前提として創作活動を行ってきていたのです。ところが、当時のロンドンで絶大な人気を誇っていた「オラトリオ」の演奏会では管弦楽と合唱団を併せると1000人を超すことも珍しくはなかったのです。その巨大な管弦楽と合唱がもたらす圧倒的な演奏効果がハイドンを魅了したことは想像に難くありません。
一部では、ヘンデルの「メサイア」に強い感銘を受けたために彼自身もオラトリオの創作に着手したとも伝えられています。しかし、そのような見方はハイドンとオラトリオの結びつきをあまりにも卑小化しすぎています。もちろん、ハイドンはメサイアの演奏会にも立ち会っていますから、それなりの感銘は受けたことは否定しません。しかし、「メサイア」だけがハイドンをオラトリオの創作に駆り立てたのではありません。
重要なことは、「オラトリオ」という音楽形式がもたらす演奏効果に強い興味を持ったということであり、それ故に、ハイドンが生み出した二つのオラトリオは「メサイア」のコピーに陥ることなく作曲家ハイドンの全生涯の総決算と言っていいような、そしてヘンデルのものとは全く異なる独自性を持った作品になりえているのです。

ロンドン旅行を終えたハイドンは、その翌年の1796年からオラトリオ「天地創造」の創作に取り組みます。そして、この時代の職業音楽家としてはきわめて異例なことなのですが、この作品は誰からの注文でもなく、ハイドン自身の興味だけで創作を始めているのです。ロマン派以降の作曲家にとっては自らの芸術的興味だけで創作に着手するというのは決して珍しいことではないのですが、この時代の音楽家が誰からの注文もないのにこのような巨大な作品を書き始めるというのは異例中の異例だといえます。そして、その事は、ロンドン旅行における「オラトリオ」の洗礼がいかにハイドンに多大な影響を及ぼしたかをうかがわせるエピソードだといえます。

さて、この作品の台本は旧約聖書の「創世記」と「詩篇」、ミルトンの「失楽園」を題材にしているのですが、原作者に関しては未だに不明です。その作者不詳の台本をもとにドイツ語訳の台本を完成させたのはハイドンの友人だったゴットフリート・ファン・スヴィーテン男爵です。スヴィーテン男爵は、当時のウィーンでは珍しくオラトリオに造詣が深く彼自身も作曲活動を行うほどの技量を持った人物でした。ですから、彼がハイドンに手渡した台本には、オラトリオの作曲には未だ不慣れだったハイドンのために細かい助言がびっしりと書き込まれていたと伝えられています。もちろん、その「助言」をハイドンがどれほど採用したかは不明ですが、ハイドンの人間性とスヴィーテン男爵の識見を考え合わせれば、この作品は二人の合作と言っていいほどかもしれません。
しかし、そうは言っても、ここにはハイドンが築き上げてきたあらゆる作曲技法がつぎ込まれています。とりわけ、創世記物語というある意味ではSF的な情景を管弦楽で描いていく手腕は見事としか言いようがありません。それ故に、この作品は創世記に関わる難しい理屈など一切知らなくても、まるでスペースオペラを見るような面白さに満ちあふれています。とくに第1部と第2部の終結部における圧倒的な演奏効果はまさにハイドンが求めたものであり、スターウォーズも面白いけれど、なかなかどうして、ハイドンだって負けていませんよと思わせるエンターテイメントに満ちあふれています。

ちなみに、このオラトリオは3部構成になっていて、以下のような筋立てとなっています。

第一部…カオス(混沌)の描写から神による創造の4日間の様子
第1日目:混沌(闇と水)の世界に、光をもたらし、昼と夜が創造された。
第2日目:水が上下に分けられて天と地が創造された
第3日目:乾いた陸が作られ大地と名づけられ、水は海と名づけられた。地の上に草、種をもつ草、果樹が作られた。
第4日目:昼と夜、季節、日や年を分け、地を照らす光が出現

第二部…天地創造の第5日と第6日の様子
第5日目:水の生き物である海の大いなる獣と水の全ての動く生き物と翼ある全ての鳥が作られた。
第6日目:地の生き物の家畜、這うもの、地の獣が作られた。そして、神の形に似せて、魚、空の鳥、家畜、地の全ての獣・這うものを治めさせるため人間の男と女が作られた。

第三部…アダムとイヴの登場
二人は神を賛美し、感謝し、互いの愛を誓う 賛歌の大合唱で閉じる

ヨッフムに対する認識を新たにさせる覇気満々たる演奏


1902年にドイツのバイエルン地方に生まれ、1927年にミュンヘンフィルでブルックナーの7番を指揮してそのキャリアをスタートさせています。その後は、当時の指揮者稼業としてはおきまりのコースである地方の歌劇場のシェフを務めながらキャリアアップをしていきます。キール歌劇場・マンハイム州立劇場・デュイスブルク市音楽総監督(現在のライン・ドイツ・オペラ)・ベルリン放送局音楽監督ときて、1934年からはベームの後任としてハンブルク国立歌劇場音楽総監督に就任します。実に順調です。
戦後は、1949年にバイエルン放送交響楽団の創設に参加して60年まで首席指揮者を務めます。ところが、その後は危機に陥った楽団のお助けマンみたいな仕事ばかりにかり出されます。
61年にはベイヌムの急逝を受けて、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者としてハイティンクを助けます。その仕事も64年に終わると、今度はカイルベルトの急逝を受けてバンベルク交響楽団の指揮者となります。その後はこれといった決まったポジションを持たずに、あれこれのオケに客演をしてはコンサートや録音をこなして晩年を過ごしています。
見るからに柔和で穏やかな表情は「人格者」を思わせますし、残された録音もそのようなヨッフムを彷彿とさせるような穏やかでしみじみとした味わいのあるものでした。特に、最晩年にシュターツカペレ・ドレスデンと録音したブルックナーの全集は神々しいほどの美しさをたたえていました。
しかしです。
最近になって、そう言うヨッフムの壮年期のライブ録音がポツリポツリとリリースされるようになってきました。そして、そう言う録音を聞いてみて思わずのけぞってしまうようなものにぶち当たるようになりました。そう言えば、「ヨッフムのライブは凄い!!録音とライブは全く別人だ」という言葉をいつぞや聞いたことが記憶によみがえってきました。
そして、ここで聞くことのできる演奏も、なんと幸せなことに、そのようなのけぞってしまうような演奏の一つです。
バイエルン放送交響楽団が創設されたのはこの録音のわずか2年前です。いまでは、ヨーロッパを代表するメジャーオーケストラの一翼を占めているオケですが、このときはまさに生まれたばかりのオケでした。それ故にか、この演奏の隅から隅まで「覇気満々」という言葉が満ちあふれています。オケも合唱団も、もちろん指揮者のヨッフムも異常なまでのハイテンションで押し切っています。とりわけ、第1部の終結部などはまさに血管ブチ切れ状態です。もちろん、至る所に演奏上の不都合はあります。しかし、そのようなミスを帳消しにして余りあるパッションにあふれています。そして、ハイドンがこの演奏を聴けば、「こういうのが欲しかったんだよ」と満面に笑みをたたえること間違いなしの演奏です。
思いもよらぬ、掘り出し物の録音です。(なんて書けば、ヨッフムファンの人に怒られるかな・・・^^;)

よせられたコメント

2009-10-01:クラ☆おた


2021-06-17:コタロー


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