ラヴェル:クープランの墓(Ravel:Le Tombeau de Couperin)
アンドレ・クリュイタンス指揮 フランス国立放送管弦楽団 1953年3月31日録音(Andre Cluytens:Orchestre National de l'ORTF Recorded on March 31, 1953)
Ravel:Le Tombeau de Couperin [1.Prelude]
Ravel:Le Tombeau de Couperin [2.Forlane]
Ravel:Le Tombeau de Couperin [3.Menuet]
Ravel:Le Tombeau de Couperin [4.Rigaudon]
戦死した友人たちへのレクイエム
ラヴェルは作曲家としてデビューしたときはドビュッシーを尊敬し、その影響を強く受けたことを認めています。しかし、その後ラヴェルが歩んだ道はドビュッシーが切り開いた印象派の音楽とはずいぶん異なるもののように思えます。
特に、よく指摘されることですが、時を経るにつれてラヴェルは古典的な明晰さを前面に打ち出すようになっていきます。
ドビュッシーの輪郭線のぼやけた茫洋たる世界とは対照的な、はっきりくっきりした世界を構築していきます。さらに音楽の形式もどんどん簡潔なものに変化しています。
そして、ラヴェルのもう一つの特質は、コンサートグランドの性能を極限まで使い切る事への強い関心です。
その関心はこの「クープランの墓」にも反映していて、第6曲の「トッカータ」は古今のピアノ曲の中でも指折りの難曲として有名ですし、その演奏効果は絶大なものがあります。
こういうラヴェルという作曲家をどうしてドビュッシーが切り開いた「印象派」という世界に閉じこめようとするのでしょうか?ホントに不思議です。
さて、この「クープランの墓」ですが、彼の音楽がより明晰で簡潔なものへと変化していく中で深く傾倒していったフランス古典音楽の大家たちへのオマージュとして構想されました。
しかし、1914年に着手されたこの作品は第1次世界大戦の勃発によって作曲が一時中断されます。
そして、ラヴェル自身も兵士として参戦し、戦いの中で多くの友人を失います。ラヴェル自身は病気によって1916年に除隊するのですが、この戦争体験は彼に深い悲しみを与え、ノルマンディーの片田舎に引きこもってこの作品の完成に没頭します。そして、1917年にようやく完成した時には、当初の18世紀古典音楽へのオマージュという形式を乗り越えて、第1次大戦で亡くなった友人たちへのレクイエムという性質を持つようになります。
ラヴェル自身は6つの小品それぞれを亡くなった友人たちに捧げています。
これは、亡くなった音楽を追悼するために一つの作品を捧げるという18世紀のスタイルを踏襲したものなのですが、そう言う意味で、この作品は「オマージュ」と「レクイエム」の二重構造をもつ作品になったわけです。
第1曲:プレリュード(前奏曲、Prelude)
ジャック・シャルロー中尉に捧げられている。抑揚のない音楽で装飾音が多用されているので、まるでチェンバロ曲のような風情。
第2曲:フーガ (Fugue)
ジャン・クルッピ少尉に捧げられている。フーガですから、何本もの旋律をきちんと浮かび上がらせるポリフォニックなテクニックが求められて、意外とムズイ・・・と言う話もあり。
第3曲:フォルラーヌ (Forlane)
ガブリエル・ドゥリュック中尉に捧げられている。フォルラーヌとは北イタリアを起源とする古典的舞曲のこと。
第4曲:リゴードン (Rigaudon)
ピエール&パスカルのゴーダン兄弟に捧げられている。リゴードンは、南仏プロヴァンス地方の力強く野性的な古典的舞曲のこと。ゴチャゴチャした和音の中から主たる旋律を浮かび上がらせるのがけっこうムズイ・・・と言う話もあり。
第5曲:メヌエット (Menuet)
ジャン・ドレフュスに捧げられている。落ち着いたメヌエットで、ホッと一息。
第6曲:トッカータ(Toccata)
ジョゼフ・ドゥ・マルリアーヴ大尉に捧げられている。彼の奥さんはあの有名なマルグリット・ロンです。
ラヴェルのピアノ作品の中ではオンディーヌやスカルボ(夜のガスパール)と並んで、難曲中の難曲として有名です。ピアニスティックで壮大な盛り上がりを見せて曲が結ばれるので演奏効果も絶大です。ただし、途切れることの無い高速の連打はかなりムズイ・・・とは誰もが認めるところです。
ちなみに、この作品は未亡人となったマルグリット・ロンによって初演されました。
なお、ラベルはこの中から4曲(Prelude・Forlane・Menuet・Rigaudon)を選んで管弦楽曲に仕立てていて、そちらもよく演奏会に取り上げられます。
モノラル時代の録音があったとは・・・。
クリュイタンスのラヴェル録音と言えば61年から62年にかけてまとめて録音したものが思い浮かびます。あの録音は英コロンビアはが4枚セットの箱入りとして発売したのですが、この初期盤は音の素晴らしさもあって今ではとんでもない貴重品となっているようです。
しかし、あの録音には、今となってはいろいろとエクスキューズがつくようになっています。
そのエクスキューズとは何かと言えば、「オケが下手すぎる」に尽きます。
例えば、歴史的名演と言われる「ボレロ」などを聞けばすぐに気がつくのですが、管楽器があちこちで音を外しています。酷いのになると「酔ったオジチャンが、ろれつがまわっていない」という極めて的確な評価が下されていたりします。
そうなんです、昨今の演奏と録音になれてしまった耳からすればあまりにも緩いのです。
しかし、そこにはフランスのオケが持っているかけがえのない美質と、宿命的に背負わざる得ない弱点が表裏一体になっていました。
フランスのオケというのは、プレーヤー一人一人の腕は確かです。しかし、彼らはその腕を全体のために奉仕するという気はあまり持ち合わせていません。
ですから、リハーサルをしっかりと積み上げて縦のラインをキチンと揃えることにはあまり興味を持っていませんし、そもそもそう言うことに価値を感じないのです。さらに言えば、現在でもフランスのオケのプレーヤーは事前にスコアに目を通すような「面倒くさい」事はやらないようで、慣れていない曲をやるときは変なところで飛び出したりしてもあまり気にしないそうです。
素晴らしい響きで演奏してくれる対価としてアンサンブルの緩さが避けられないというこの二律背反の中にあって、絶妙なバランスでラヴェルを録音したのが件の4枚組セットであり、それはクリュイタンス以外には到底為し得ないわざだったのです。
クリュイタンスという人はそう言うオケの気質を知り尽くして、それをコントロールする術を身につけた人でした。
俺が俺がと前に出たがる管楽器奏者を自由に泳がせながら、それをギリギリのラインで一つにまとめていく腕と懐の深さを持っていました。
結果として、トンデモ演奏になる一歩手前で踏ん張りながら、そう言うフランスのオケならではの美質があふれた演奏を実現できました。
そんなクリュイタンスに、50年代前半にモノラルで録音したラヴェルがあったことに最近気づきとても驚かされました。
そして、その素晴らしさに驚くとともに、新しいものが出てくれば過去の古いものは捨てられてしまうと言うこの業界の罪深さを思わずにはおれませんでした。
モノラル録音で注目すべきは、オーケストラがコンセルヴァトワールのオケではなくて、フランス国立放送管弦楽団だということです。これは非常に大きな意味を持ちます。
それは、フランス国立放送管弦楽団がコンセルヴァトワールのように最初から合わせることに意義を見いださないというオケとはその性質を大きく違えていることです。
それはそうでしょう。
フランス国立放送管弦楽団はその名の通りフランスラジオ放送(RDF)専属のオーケストラとして創立された楽団で、幅広いレパートリーに挑戦する必要のあるオケでした。
ですから、最初から合わせることに意味を感じないというオケではありません。しかも、歴代の指揮者がフランス音楽を得意とした事もあって、フランスのオケならではの色気も色濃く持っています。
アンサンブル的に見れば、疑いもなく60年代のコンセルヴァトワールよりははるかに優れています。おそらく、難点はステレオではなくてモノラル録音だということくらいなのでしょうが、ラヴェルの管弦楽作品にってはその差は小さくありません。
しかし、モノラル録音としては申し分のないクオリティは持っています。そして、スイスの時計職人とよばれたラヴェルの精緻なオーケストレーションを味わうには不足はありません。何といっても、オケの響きそのものがコンセルヴァトワールよりははるかに精緻だからです。
いやはや、おそらく知っている人から見れば今さら何を言っているんだと言うところなのでしょうが、こういう埋もれた録音を発掘して紹介できるのはこういうサイト運営しているもにとっての一番の醍醐味です。
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