モーツァルト:ピアノ三重奏曲第3番 変ロ長調, K.502(Mozart:Piano Trio in B-flat major, K.502)
(P)パウル・バドゥラ=スコダ (Cello)アントニオ・ヤニグロ (Violine)ジャン・フルニエ 1954年発行(Antonio Janigro:(P)Paul Badura-Skoda (Violine)Jean Fournier Released on 1954)
Mozart:Piano Trio in B-flat major, K.502 [1.Allegro]
Mozart:Piano Trio in B-flat major, K.502 [2.Larghetto]
Mozart:Piano Trio in B-flat major, K.502 [3.Allegrotto]
ハイドンからさらに前へ一歩薦めた作品

ヴァイオリンソナタがヴァイオリン助奏つきのピアノソナタであったように、ピアノ三重奏曲という形式であても基本は伴奏つきのピアノソナタでした。それは何もモーツァルトだけに限ったことではなく、同時代のハイドンやその他の作曲においても同様でした。
しかし、モーツァルトは自分自身もその様にとらえていながら、出来上がった作品を見ればピアノとヴァイオリンは同等のパートナーとして旋律と伴奏を分け合っています。さすがに、チェロはバス楽器として低声部を支えることに徹していますが、それでも時々ハッとするような重要なメロディラインを担当したりもします。
ピアノ三重奏曲第3番 変ロ長調 K.502
K.496の三重奏曲の4ヶ月後に作曲されたこの作品はこのジャンルにおける最高傑作と言われています。
また、この作品が書かれた1786年という年は音楽的には輝かしい成果を残した年ではあったのですが、同時に嫌でいやで仕方なかったザルツブルグでの宮仕えを放り投げてウィーンにやってきたモーツァルトの輝かしい成功にかげりが見え始めた年でもあります。しかし、その成功の頂点から彼は一気に転げ落ちていくことになるのですが、それでもこの年はまだ「何とかやっていける」と高をくくっていた時代でもあります。
経済的観念の乏しいモーツァルト一家は成功の時にお金を蓄えるという考えもなく、1785年からフリーめーsんの友人に借金を頼むようになるのですが、それでもオペラで当てれば一気に挽回できると考えていた節があります。しかし、目の前にお金が必要な事情は変わらないわけですから、この86年という年はせっせと作曲をしては日銭を稼ぐ毎日だったようです。
そして、そんな日々の中からでも、こんな傑作がかけてしまうのがモーツァルトなのです。
この作品において、ピアノ三重奏曲は真に三つの楽器が対等の立場で協奏的に音楽を語りはじめます。そして、とりわけ素晴らしいのがここでも緩徐楽章です。
「ラルゲットの壮麗な美は、モーツァルトがほんとうに真のロマン主義者であったことを示している。 その晴れやかな旋律は、ある種のシューベルトの音楽を髣髴とさせるほどに長大、雄大で、後期のピアノ協奏曲の中に置いても場違いではないだろう。」(ロジャー・ヘルヤー)
準常設のピアノ・トリオ
ピアノ・トリオと言うものはなかなか難しいものです。パスキエ・トリオみたいな弦楽トリオよりは作品のレパートリーは多いのでしょうが、それでも常設で活動するとなるとなかなか難しいものがあるようです。
ボザール・トリオの様な存在は珍しくて、古いところではカザルス・トリオとか100万ドルトリオ等に代表されるようにリストの寄せ集めみたいなもスタイルが一般的でした。レーベルにしても作品が地味なだけに、ソリストのネームヴァリューでレコードを売るというのが一つの戦略だったのでしょう。
その意味では、このヤニグロ、スコダ、フルニエという組み合わせは常設ではないにしても、ソリストの寄せ集めというレベルをこえた準常設(そんな言葉はありませんが・・・)に近い存在だったような気がします。
有名な100万ドルトリオではハイフェッツとルービンシュタインの折り合いが悪くて争いが絶えず、その間にはさまれたチェロのフォイアマンが仲裁にはいるというのが良くあったというのはよく知られた話です。
まあ、それがソリストとしての意地みたいなものなのですから、争いが絶えないのは当然と言えば当然であり、そう言うぶつかり合いの中で生まれる音楽もまた楽しではあります。
しかし、落ちついた端正な佇まいで純度の高い演奏を聞きたいときにはいささか灰汁が強すぎます。
一人、一人にソリストとしての器量がありながら、その3人が常設のトリオのように息がピッタリ合った組み合わせとしてはヤニグロ、スコダ、フルニエという組み合わせは理想に近いのかもしれません。
おそらくこの3人を並べてみればこんな感じでしょうか。
スコダは若くしてカラヤンに見いだされて世に出て、イェルク・デームスやフリードリヒ・グルダとともに「ウィーン三羽烏」と呼ばれて人気を博しそれに相応しい実力を持っていたが、未だ若造。
ヴァイオリンのフルニエと言えば兄のチェリストであるピエール・フルニエの弟と言われることが多くていささか影の薄い存在です。そのためか世間ではソリストとしてもすこしばかり柔な雰囲気は否定できず等と言われるのですが、この組み合わせで聞かせる彼の演奏は十分に引き締まったものです。
そして、ヤニグロは当時「世界最高のチェリスト」と呼ばれるほどの実力と人気を持っていました。
位置関係から見れば誰がどう見てもヤニグロがリーダーなのです。しかしながら面白いのは、ピアノ・トリオというのは、モーツァルトなどが典型ですが、ピアノが主でありとりわけチェロは縁の下の力持ちという作品が多いのですが、ヤニグロはそう言う作品でも嫌な顔一つ見せず地味な仕事に徹していることです。
もちろん、それがシューベルトやブラームスのようにチェロが存分に活躍するような作品になっても、ヤニグロという人はトリオとしてのアンサンブルを優先して自分だけが目立とうという意志は全くなかったようなのです。
そして、この顔合わせで、ハイドン、モーツァルト、ベートーベンという古典派のピアノ・トリオから始まって、シューベルト、ブラームスからドヴォルザークあたりまで数多くの録音を残してくれているというのは有り難い話です。
この残された録音の多さがソリストの寄せ集めではなくて準常設のピアノ・トリオと言いたくなる所以なのです。
そのおかげで、このトリオの演奏は安心して聞いていることができます。そしかしながら、そう言う安心感は裏返してみれば突出した魅力には欠けると言うことでもあり、結果として圧倒的な支持を集めることは難しいと言うことでもあります。
例えばハイフェッツが仕切った50年代のピアノ・トリオの録音があまりにもザッハリヒカイトの方に傾いていたのとは好対照を成しています。もちろん、どちらが良いかなどと言う話はするつもりはありませんが、それでもこういう落ちついたゆったりとした佇まいの音楽が聞けるというのは有り難いことです。
彼らの演奏はどれをとっても端正でありながらも、録音も50年代初頭としては十分に優秀であり、ロマンティックなヨーロピアンテイストを堪能することが出来ます。
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