クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op. 51-2(Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2)

レナー弦楽四重奏団:1931年8月11&13日録音(Lener String Quartet:Recoeded on August 11&13, 1931)





Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [1.Allegro non troppo]

Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [2.Andante moderato]

Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [3.Quasi Minuetto, moderato]

Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [4.Finale. Allegro non assai]


ベートーベンの影

ブラームスという人は常にベートーベンの存在を意識しながら創作活動に取り組んだ人でした。もう少し分かりやすく言えば、ベートーベンの作品がこの世に既に存在しているという状況の中で、自分の音楽が存在する意義があるのかを問い続けた人だったといえます。
そして、困ったことは、ベートーベンという人は全てのジャンルにおいて一つの頂点とも言えるような作品を生み出した男だったことです。
ですから、ブラームスは全てのジャンルにおいて、この巨人と向き合う必要がありました。もしも、ブラームスという人にオペラを作曲する気持ちがあったのならば少しは救われたかもしれませんが、そういう性向までも同一だったのですから、これは実に持ってしんどい作曲家人生だったといえます。

そう言う「しんどさ」の中でも、とりわけしんどかったのが「弦楽四重奏曲」というジャンルだったでしょう。
これは言うまでもなく、作品番号18の初期の6作品からラズモフスキーの3曲、そして後期のあまりにも偉大な作品まで、まさに巨峰と言うに相応しい作品群が既に存在しているからです。この巨峰を前にして、いったい何を付けくわえるものがあるのか、というのがたいていの作曲家たちの思いだったようです。
しかし、ロマン派の時代にあって、ベートーベンの後継者を自認していたブラームスであれば、それがいかに困難な課題であっても、やはり登ってみなければならないジャンルだったのです。

ブラームスが残したこのジャンルの作品はわずか3つです。
それは、ベートーベンの16と比べるとあまりにもささやかな成果のように思えます。しかし、残された資料を調べてみると、彼は第1番の弦楽四重奏曲を発表するまでに20曲近い弦楽四重奏曲を作曲していたらしいのです。そして、あまりにも自己批判力強いこの男は、それらの作品を「発表するに値しない作品」として、全て廃棄してしまったらしいのです。
シューマンはそのうちの何曲かを出版するように勧め、ブラームス自身も一時はその気になったようなのですが、結果的には「その価値なし」」と判断して廃棄していまいました。

実に持って、勿体ない話ですが、そう思えば残された3曲の重みが分かろうというものです。

しかしなのです。そう言う重みが分かったとしても、実際に聞いてみればある種の物足りなさを感じてしまいます。
それは、ベートーベンの作品を引き継いで発展させたと言うよりは、ロマン派の時代に相応しい濃厚な感情が表出された作品というように聞こえます。
おそらく、そのように受け取られることをブラームスは良しとはしないでしょうが、残念ながらそのような作品として私は受け取りたいと思いますし、評価したいと思います。

その意味では、ベートーベンの影を意識しすぎるあまり、結果として強い緊張感に満ちた作品となってしまった第1番よりは、どこかシューベルト的な風情が感じられる第2番の方が私には好ましく思えます。また、ブラームスの人生の最も幸福な時代に創作された第3番には、その幸福感が満ちあふれていて、これもまた実に好ましく思えます。
もっとも、暗い緊張感に満ちた第1番も若い頃に聞いていたならば感想は変わったかもしれません。

ブラームスにとって、この3曲で「弦楽四重奏曲」というジャンルから提出された宿題は終わったのでしょう。
これ以後、彼はベートーベンがあまり試みなかった楽器の組み合わせで室内楽作品を書いていきます。弦楽5重奏曲や6重奏曲のように内声部を拡大した組み合わせの方が、彼のロマン的な性向には向いていたいようです。ピアノ四重奏曲や五重奏曲においても事情は同じです。
不思議なことですが、ブラームスという男は、終生、ベートーベンを意識しながら、逆にその重荷から解放されたときに優れた作品を生み出しているように見えます。
それなら、最初から自分の好きなように振る舞えばいいのにと思うのですが、それが簡単にできないのが「人生」というものの難しさなのでしょう。

初めて楽しく、そして面白く3曲を最後まで聞き終えることができた


こういう事を書くと叱られそうなのですが、ブラームスの弦楽四重奏曲を聞いて「あぁ、いいなー」と思ったことは一度もありませんでした。調べてみれば、アマデウス弦楽四重奏団の録音を一つだけ取り上げているだけです。
そして、その感想も彼らの手になる弦楽六重奏曲を高く評価しながら「渋めの四重奏曲もなかなかいい感じの演奏を聴かせてくれます」という何とも曖昧な表現にとどめています。
率直にいえば退屈だったのでしょう。それを「渋めの四重奏曲」という当たり障りのない表現に押しとどめているのは「大人の対応」だったということでしょか。

しかし、このレナー弦楽四重奏団による録音を聞いて、初めて楽しく、そして面白く3曲を最後まで聞き終えることができました。
1930年代の、いってみれば化石時代の録音なので、今さらという感じもしないのではないのですが、それでもこれに変わりうるような録音は他には見あたりません。そう言う意味で、これは見落とすわけにはいかない録音と言えるでしょう。

おそらく、ブラームスの弦楽四重奏曲はベートーベンの作品を引き継いで発展させたと言うよりは、ロマン派の時代に相応しい濃厚な感情が表出された作品というように割り切った方がいいのでしょう。そして、そのいう割り切りはブラームス自身にとって納得のいくものでないこともはっきりしているので、ほとんどのカルテットはそこまでの割り切ることに対しては腰が引けています。
一番つまらないのは、ひたすら精緻なアンサンブルで音楽を仕立て上げることです。そう言うスタイルの演奏を聞かされると、音楽を聞くというよりは修行を強いられているような気がします。

レナー弦楽四重奏団の持ち味は「泣き節」です。そして、それを最大限に発揮するためにレナー弦楽四重奏団では主導権はファースト・ヴァイオリンがしっかりと握っています。そして、その第1ヴァイオリンが主情性にあふれた解釈で作品全体を染め上げていくのです。
そして、彼らはそう言うスタイルをベートーベンでも貫いたのですから、それがブラームスともなればまさに言うことなしです。
そして、彼らの紡ぎ出す音色はまさにその様なロマン性にあふれた音楽にピッタリの、どこかヌメッとした妖しい色気に溢れています。

ベートーベンのところでも書いたことなのですが、ひたすら強い主情性に貫かれた演奏の魅力は時代を重ねるにつれて不思議な「オンリー・ワン的」なものへと昇華されていきます。
つまりは時間が演奏に磨きをかけるという不思議なことがおこるのです。

個人的には掛け値なしに「オンリー・ワン」でもあり「ナンバーワン」でもあります。
序でながら言い添えておけば、1928年に録音されたクラリネット五重奏曲も文句なしなの演奏なのですが、これに関しては自由に振る舞っている演奏は他にもたくさんあるので、数ある選択肢の中の一つということになるのでしょうか。

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